
導入事例
日本システムケア株式会社 様
業界に先駆け精緻なLCAを実践活用!
- 「使い続ける」循環経済で次なる成長軌道を描く -

近年、企業の環境意識が強まる中で、日本システムケアは「買い換え」から「使い続ける」循環経済への移行を目指し、その改革に積極的に取り組んでいます。使用済みIT資産の買い取りやリユース・リサイクルを手掛ける同社は、2022年10月に中井一氏が取締役副社長に就任したのを機に、環境経営を軸に据えた社会改革を推進。その一環として、環境負荷を定量的に評価するLCA(Life Cycle Assessment)に着目しました。LCAを戦略的に活用する中井社長に、その思いや意図についてお話を伺いました。

中井 一(なかい はじめ)さま
Profile
1988年 4月 株式会社メルコ(現:株式会社バッファロー)入社
2019年 3月 株式会社沖データ 入社
2020年 4月 沖電気工業株式会社 転籍
2022年10月 日本システムケア株式会社 入社 取締役副社長 就任
2023年 9月 株式会社ビー・テック 代表取締役社長 就任
2023年11月 日本システムケア株式会社 代表取締役社長 就任
小野 雄也
聞き手
(おのゆうや)
1986年生まれ、茨城県牛久市在住。LCAの専門家。
LCAのケーススタディだけでなく、LCAの基盤となる原単位(インベントリデータベース)の開発を得意としている。
リユースPCのLCAに関するクリティカルレビュー業務をきっかけに中井さまと出会う。その後、精度向上を目的にISO14040,14046,14067に基づいたリユースPCのLCAの実施をサポート。これまでの経緯やLCAを一緒にやってみた感想、今後についてお話をお伺いします。

この事例の要点
課題
・「ITと環境の融合を図り、人と社会の成長に貢献する」という企業理念の真の体現
実施
・リユースPCを対象にした精緻なLCAの実施
・IPO(株式公開)のための提出資料、説明資料の作成
・DX及びGXを見据えた営業資料の作成
・情報の社内共有、コミュニケーション
活用
効果
・ブランド価値の創造
・自信を持った営業活動
・PCの調達及び受注へいい影響
・社員の意識改変とチームビルディング
編集後記
廃棄製品に新たな付加価値。「環境負荷の見える化」に取り組む
──まずは、御社の事業について教えてください。
日本システムケアは、1989年の創業以来、IT機器のリユースやリサイクルを通じて、循環型社会の実現に取り組んできました。不要になったパソコンを「廃棄物」ではなく価値ある「資産」として捉え、適正な買い取りと徹底した品質管理を通じて、使用済みのIT機器に新たな命を吹き込んでいます。


メンテナンス工程の様子
しかしながら、当初は循環型社会の視点よりも、「不要 となったIT機器を安く仕入れ、高く再販する」といった資本主義的な発想が中心でした。その結果、企業理念である「ITと環境の融合を図り、人と社会の成長に貢献する」とのギャップが生じ、環境への取り組みが後回しにされるという課題が浮かび上がったのです。
──その課題に対して、どのように対応しましたか。
環境への貢献を理念にとどめるのではなく、ビジネス価値として「環境貢献量の見える化」を進めるべきだと考えました。そこで、環境経営へと大きく舵を切り、まずは社内のマインドセットを変えることに注力しました。
とはいえ、「環境」の「か」の字もなかった会社が突如として環境経営に転換しようとしても、「環境なんて1円にもならない」という風潮が根強く残っており、意識を変えることは容易ではありません。このような状況の中、社員との1on1ミーティングを重ね、1人、2人、3人……と地道に理解者を増やしていきました。そして、2023年には環境イノベーション推進室を発足。この新たな組織を中心に、環境問題への取り組みを本格化させました。
1 on 1 ミーティングの様子
──社内理解がない中で、それでも環境にこだわったのはなぜですか。
環境貢献への方針転換には、大きく2つの理由があります。
1つ目は、IPO(株式公開)を視野に入れる中で、「業績」だけでなく「価値ある会社」であることが求められると気づいたためです。自社の事業にとどまらず、「豊かな地球を次の世代に残す」という壮大なビジョンを掲げることが、企業としての存在価値を示すうえで重要だと判断しました。
2つ目は、DXとGXの成長を見据えた点です。DXの普及に伴い、パソコンやサーバーといったIT機器の需要が高まり、それに比例して使用済みIT機器の数も増加しています。このような状況下で、「使い続ける経営」を掲げる弊社の取り組みは、GX推進企業にとって魅力的な選択肢となり、大きな価値を提供できると考えています。
──それは日本システムケアというブランドをつくる、ということでしょうか。
そのとおりです。私たちは、「この会社なら安心して使用済みパソコンやサーバーを預けられる」と思っていただけるように信頼を築き、依頼が自然と集まる「プル型」の調達を目指しています。
そのためには、環境に配慮しつつ、IT資産を適正に運用する企業として信頼を得ることが重要です。これこそが、弊社が推進するITAD(IT Asset Disposition)に他なりません。日本ではまだ十分に浸透していないこの考え方を広め、ITADのリーディングカンパニーとして揺るぎない地位を確立することを目指しています。

LCA活用が社員意識の醸成と顧客信頼の構築に寄与
──そのブランド戦略の一環として、LCAを活用され たのですね。
ITADを推進するにあたり、LCAによる「見える化」が、ブランドを築くうえで欠かせない要素だと考えています。LCAは、IT機器のリユースやリサイクルを通じて循環型社会への貢献度を数値化する手段です。これにより社員は自信を持って商談に臨むことができ、お客様には弊社を選ぶ理由を明確に伝えられるようになります。LCAを活用することで、社員とお客様双方にメリットを提供し、いわゆるWin-Winの関係を築いていきたいと考えています。
──LCAの活用にあたって苦労されたことはありますか。
LCA算定では、一つのメーカーの特定モデル製品を対象に、環境負荷の算定が実践されることが大多数です。メーカーは製品の設計情報を持っていますので、それを基にLCA算定することができます。一方、不特定多数の異なるメーカーやモデルを修理し、再び製品化するリユース業界では、この前提が当てはまりません。一つ一つ異なる製品の詳細な設計情報を持っていないため、「そんなの無理ですよ!」とLCAの算定を断られることが多く、LCA算定サービスを提供する企業を調べて連絡しては中々思い通りの返事が頂けない日々が続くなど適切なパートナーを見つけるのに非常に苦労しました。私が調べた限り、業界でもISO14040,14044,14046に基づいて精緻なリユースPCのLCAを実施した企業はありませんので、ある意味仕方ないと感じていました。そのような中で、Green Guardianさんがリユース業界におけるLCA算定という、困難な挑戦に理解を示してくれたのです。
──LCAの結果をどのように活用していらっしゃいますか。
中古パソコンのレンタルを受注した際には、環境貢献量を可視化したレポートをお渡ししています。「今回お借りいただいたパソコンは、超低排出量のシステムを実現しています」という内容を具体的な数値で示しており、お客様から非常に好評をいただいています。
このようにLCAの結果を活用した取り組みは既に始まっており、さらにその活用範囲を広げていく予定です。短期的には営業活動の強化を図り、長期的には持続可能な社会への貢献を広く発信するための重要な材料として活用することで、ひいてはブランディングの構築にもつながります。

出前授業の様子
「買い換え」から「使い続ける」へ
目指すは経済モデルのパラダイムシフト
──このプロジェクトは、社内にどのような影響を与えましたか。
時間的な制約がある中で、LCAに必要な諸々のデータを収集するのは難易度が高いものでした。特に現場での消費電力の実測はプロセスが多く、大変でした。それでも、社内のLCA算定チームが協力し、議論を重ねることで課題を一つひとつ克服。その結果、部門間の連携も格段に向上しました。この体制はプロジェクト終了後も維持され、社内文化に根づく大きな変化をもたらしています。
さらに、以前は環境経営に否定的だった社員たちも、現在では環境レポートへの要求が厳しくなるほど意識が変わりました。回収や調達の場面でも環境を意識した取り組みを発信することが求められるようになり、社内全体のマインドセットが180度転換したことを実感しています。
──LCAによってビジネスの可能性が確信へと変わった、ということでしょうか。
LCA算定による環境貢献量の「見える化」が実現したことを契機に、視野が一気に広がりました。廃棄ではなくリユースを選択することで、私たちのようなリユース業者を通じて環境負荷低減に向けた取り組みがさらに広がると確信しています。
「使い続ける循環経済」へのシフトは、単なる行動変革にとどまらず、文化的な価値観の再評価にもつながります。このアプローチは「MOTTAINAI」精神の回帰を促し、さらにリユースやリサイクルを支えるインフラ整備へと発展する重要な一歩です。こうした経済モデルへの移行は、消費者とメーカーの双方に長期的な利益をもたらすと考えています。
──最後に、これから目指していくことを教えてください。
「使い続ける循環経済」の実現に向けて、啓発活動や政策提言を通じて社会全体の変革を目指しています。こうした取り組みは、私たちの活動が企業の枠を超え、社会全体のムーブメントへと発展していくために欠かせない重要なステップです。
さらに、この経済モデルにおけるLCA活用の可能性は無限に広がっています。だからこそ、Green Guardianさんと私たちがこれまで築いてきた協力関係をさらに深化させながら、共にサステナブルな未来を目指す新たな挑戦を進めていけることを心から楽しみにしています。

インタビューに応じてくださった中井さま、角倉さま
編集後記
モノを長く使う、リユースする、リサイクルするという行動はCO2のみならず、様々な環境側面で大きな削減に寄与するケースが多い。いうまでもなく、資源やエネルギーは有限である。また、気候危機の問題もある。
奇しくも2024年は産業革命以降、初めて世界の平均気温を1.5℃超え、既に各国で気候変動による被害が顕在化しており、今後さらに激甚化することが予想されている。さらに発展途上国では、金属回収工程での健康被害の発生や鉱山における児童労働など問題が山積している。
そういった背景を鑑みながら日本システムケアを観察すると、事業が環境に貢献する形でマッチしていることが分かる。まさに創業者が掲げた理念である「ITと環境の融合を図り、人と社会の成長に貢献する」という言葉が実践され、そして今、さらに進化をしているのだと感じる。
さて、日本システムケア株式会社とのやりとりを思い返すと、やはり中井社長の意志の強さが印象的であった。
自社の製品の環境負荷の見える化を絶対に成し遂げるという不退転の気持ちが初回から伝わってきており、専門部署のメンバーが脇を固める。当社と出会うまでの経緯があったので、今度こそ!という気持ちが特に強かったのかもしれない。いづれにしても気持ちだけではどうにもならないことが分かっており、その為の専門家として当社が選ばれたわけである。
話を戻すと、LCAとは何か?から始まり、本評価の場合の考え方や評価範囲、データの取得方法など、一つ一つ丁寧に進めることができたと考えている。その結果、日本システムケアのリユースPCはまさに環境配慮型製品と言えるほど、CO2排出量が非常に低いものになった。元々、バージンPCと比べてリユース・リサイクルPCは環境負荷が低いものの、そのリユース・リサイクルPCの中でも群を抜いて低いものであった。ましてやISO14040,14044,14046に基づいてゆりかごから墓場まで全てのプロセスを含めているというのは、同業界では確認することができない。これが実現できたのは専門家の話に耳を傾ける度量を示して頂けたこと、結果として精緻なLCAを実践したのみならず、結果を基に改善しようという気持ちがあったからであると感じる。
既に様々なシーンでLCAの結果を活用していると聞いているが、さらに多くの場面で活用し飛躍につなげてほしい。そして、これまで以上に他の企業の目標になるような企業になってほしいと期待したい。