CO₂排出を約1/4に削減──再生RO膜が拓く“循環型水処理”の未来
- Ono Yuya
- 11月5日
- 読了時間: 7分
造水促進センター様(以下、敬称略)とGreen Guardianが実践するLCA経営の最前線
要約
使用済みRO膜(逆浸透膜)の再生によって、CO₂排出を約1/4に削減。
海水淡水化や排水再利用の分野を支えてきた一般財団法人造水促進センターは、株式会社Green Guardianとともに、再生膜のLCAを実践。本記事では、その取り組みの全体像と、再生膜が切り開く“循環型水処理”の未来を紹介する。
背景:日本の水を守り続けてきた造水促進センター

1973年、通商産業省(現・経済産業省)の外郭団体として設立された造水促進センターは、「使えない水を使える水に変える」という理念のもと、海水淡水化や排水再利用技術の研究・開発・普及に取り組んできた。当時、地下水の過剰な汲み上げによる地盤沈下が社会問題化し、新たな水資源の確保が求められていた。
以来50年、造水促進センターは海水淡水化、産業排水処理や下水再利用など、国内外で数多くのプロジェクトを支援し、「水の再利用といえば造水促進センター」と呼ばれるほどの存在になっている。さらに、海水や下水、産業排水といった非在来水源を活用する“造水”の概念を普及させ、日本の水処理分野を牽引してきた。
近年、同センターが新たに挑んでいるのが、使用済みRO膜の再生と再利用である。RO膜(逆浸透膜)は、海水淡水化や工業用水処理で不可欠な部材だが、寿命は3〜5年。世界中で淡水化設備が増加する一方で、寿命を迎えた膜の廃棄量も急増している。
世界で広がるRO膜の廃棄課題
世界では毎年およそ14,000トン(約84万エレメント)ものRO膜が廃棄されており、2025年には200万エレメントに達するともいわれている。膜エレメントはポリアミドやポリスルホンなど複数のプラスチックで構成された複合素材で、マテリアルリサイクルが難しい。多くは焼却や埋立処理され、CO₂排出やマイクロプラスチックの発生、浸出水による土壌汚染などのリスクを抱える。
「膜エレメントは構造が複雑で、分別・再資源化が非常に難しい。だからこそ“使い捨て”ではなく、“再生して使う”仕組みが必要だと考えました。」そう語るのは、プロジェクトを統括した造水促進センター 専務・大熊氏だ。
この課題に対し、センターは「膜の再生・再利用」という新たな技術開発に乗り出した。目的は、廃棄物の削減だけではない。再生膜を“健全な市場”として成立させ、日本発の循環型技術として普及させることにある。
LCA導入の意義──数値で環境価値を示す
再生膜の効果を証明するために導入されたのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)である。LCAとは、製品の原材料調達、製造から使用、廃棄までを定量的に分析し、環境負荷を可視化する手法だ。
「(自分たちの取り組みが)感覚的に環境に“良い”とわかっていても、どれだけ良いのかを示すには数値が必要です。再生膜の優位性を、科学的に証明することが必要でした。」(大熊氏)
このLCAの算定実務を担ったのが、環境経営コンサルティングの株式会社Green Guardian。同社は早稲田大学・伊坪徳宏教授の研究室にルーツを持ち、製品やサービスのLCA、サプライチェーン排出量(Scope3)の算定などを数多く手掛けるLCAの専門家集団である。単に数値化するだけに終わらず、多くの企業・自治体の脱炭素経営を支援しており、LCAを軸とした環境経営・LCA戦略サポートを行っている。
Green Guardianが支援した「再生膜LCA」プロジェクト
Green Guardianは、造水促進センターおよび関係企業と連携し、膜の製造から再生工程、使用や廃棄までの全プロセスを調査し、モデル化した。
現場視察を重ね、再生膜と新品膜を比較したLCAを実施した結果、再生膜は新品膜に比べてCO₂排出量を約1/4に削減できることが実証された。また、さらなる改善シナリオや予想されるマーケット規模を意識した拡大推計によるメリットのシミュレーションを明示した。
コストについては約1/2になることが想定されるため、環境とコストの両面で優位性が示され、今後の戦略に大きく寄与することが証明された。「想定以上の結果でした。感覚が“確信”に変わった瞬間です。」(大熊氏)
評価結果は、造水促進センター内部だけでなく、委員会・関係企業・行政への説明資料としても活用された。「Green Guardianの資料は非常にわかりやすく、専門外の方にも伝わる内容でした。LCAに不慣れなメンバーにも理解が進み、議論が前向きになりました。」
“伝わるLCA”の強み──データを「共通言語」に変える
LCAは本来、技術的・学術的な分析手法だが、Green Guardianの特徴は特に活用を意識した出口戦略を重視する点にある。同社は単に結果を報告するだけでなく、「どの工程を変えればさらにCO₂を削減できるか」や「スケールした際のメリット・優位性」までを提案した。
「お願いしていなかった提案までしてもらい、実際に改善につながりました。お支払いした金額以上の価値があったと思います。」(大熊氏)
こうした相手に寄り添った対応が環境と経営をつなぐ意思決定ツールとして定着し、プロジェクトの成果に大きく寄与した。
LCAを“経営の羅針盤”に──脱炭素と競争力を両立する
造水促進センターは、本LCAプロジェクトによって再生膜の環境性と経済性を両立できることを改めて確認した。「LCAは環境のための分析だけではなく、経営判断のKPI(羅針盤)にもなります。LCA思考に基づいた技術の改善点を定量的に把握し、次の一手を教えてくれる重要な基盤になります。環境は経営に大きく貢献することができる。その根拠をデータで示せるのがLCAです。多くの経営者はLCAを大いに活用すべきだと思います。」(大熊氏)
再生膜の評価モデルは、今後、日本の膜メーカーや水処理企業の間でも共有され、“科学的根拠に基づく市場形成”の基礎となることが期待されている。
特に、半導体や電子部品など水処理を多用する産業や排水の再利用分野では、廃棄RO膜の処分や再生RO膜導入によるCO₂削減・コスト低減の可能性が注目されている。「これからの製造業は、環境対応を“コスト”ではなく“競争力”として捉える必要があります。」(大熊氏)
Green Guardian代表コメント
株式会社Green Guardian 代表取締役 小野 雄也
「大熊様のお話を伺い、最初に感じたのは“日本の水処理技術を次のステージへ導く”という使命感でした。LCAは、環境負荷を定量的に算定するツールであると同時に、付加価値を示し、経営に貢献することができる強力なツールでもあります。今回の取組は、科学的根拠によって新しい市場を創る、非常に意義のあるプロジェクトでした。
Green Guardianは今後も、環境と事業成長を両立させる支援を続けていきます。」
また、私たちGreenGuardianでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。
「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。気軽に話せる【LCAまわりの“コンサル”】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。
ご相談はいつでもお気軽にどうぞ!

★ お問い合わせはコチラをクリック
参考文献
Liang, Y. et al., “Trends and future outlooks in circularity of desalination membranes”, Frontiers in Membrane Science & Technology, 2023.
URL:https://www.frontiersin.org/journals/membrane-science-and-technology/articles/10.3389/frmst.2023.1169158/full Frontiers
Khanzada, N.K. et al., “Membrane Recycling and Fabrication Using Recycled Waste”, Membranes, 2024.
Somrani, A. et al., “A Mini Review of Reused End-of-Life Reverse Osmosis (EoL) Membranes”, PMC/NIH, 2025.
Putri, R.R.D., “End-Of-Life Reverse Osmosis Membrane Conversion And Recycling”, E3S Conferences 2023.
URL:https://www.e3s-conferences.org/articles/e3sconf/pdf/2023/85/2023_01006.pdf
Lawler, W. et al., “Towards new opportunities for reuse, recycling and alternative disposal of used reverse osmosis membranes”, Desalination, 2012.
URL:https://ladewig.co/publication/rn-92/rn-92.pdf ladewig.co
Huang, S., “Life cycle sustainability assessment of end-of-life reverse osmosis membranes”, ScienceDirect, 2025.
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0011916425005260 サイエンスダイレクト
Grossi, L.B., “Sustainability in reverse osmosis membranes waste management: a case study in Brazil”, ScienceDirect, 2024.
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0011916424000493 サイエンスダイレクト





コメント