
導入事例
株式会社 大阪送風機製作所 様
100年企業の新たな一歩
業界初の「CO2排出量の見える化」に挑む!

4万5284社。この数字は、2024年9月時点で業歴100年以上を有する日本企業の数を示しています(帝国データバンク調べ)。大阪に本社を構える送風機メーカー、大阪送風機製作所もそこに名を連ねる一社です。同社は100年後も選ばれる企業であり続けるため、業界で初めてEGRブロワにおける「CO2排出量の見える化」に挑みました。このプロジェクトに参加したメンバーのほとんどは、環境に関する知識がほぼゼロの、いわば「初心者集団」。「サステナビリティのファーストランナーになろうと思い、参加を決めました」と語る堀めぐみさんに、その思いについて詳しくお話を伺いました。

大阪送風機製作所 環境チームの皆さま
(左から中津留さま、鎌尾さま、堀さま、坂井さま、宮崎さま)
小野 雄也
聞き手
(おのゆうや)
1986年生まれ、茨城県牛久市在住。LCAの専門家。
LCAのケースス タディだけでなく、LCAの基盤となる原単位(インベントリデータベース)の開発を得意としている。
大阪送風機製作所はこれからの100年を見据え、経営戦略に環境の要素を入れ込むということを決定。その第一歩となる事例(主力製品のEGRブロワのLCA及びサプライチェーン排出量の算定)に小野が参画。本インタビューでは、これまでの経緯やLCAを一緒にやってみた感想、今後についてお話をお伺いします。

この事例の要点
課題
実施
・100年後も選ばれる企業であり続けるための戦略立案
・主力製品であるEGRブロワのLCA(2製品)
・サプライチェーン排出量の算定(3か年)
・経営戦略立案のための基礎資料
・新製品の開発及び改善
・情報の社内外共有、顧客とのコミュニケーション、外部メディアへのプレスリリース
活用
効果
・ブランド価値の創造
・サプライヤーと連携した営業活動
・新しいサービスの提供
・社員の環境意識改変とチームビルディング
編集後記
ゼロから始めた環境戦略。その立ち上げと成果
──まずは、御社の事業について教えてください。
弊社は大正8年に創業し、100年以上にわたり、船舶および産業用の送風機の設計から製造までを一貫して手掛けております。特に溶接技術を強みとし、造船業、鉄鋼業、製造業、公官庁、教育機関など、幅広いお客様にサービスを提供してきました。
とはいえ、政府が「2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ)」を宣言したように、次の100年はこれまでの100年とは比較にならないほどの激しい変化が予想されます。このような激動の時代において、現状維持では企業として生き残れません。そのため、100年後も選ばれる企業であり続けるべく、環境に配慮したビジネスモデルにより差別化を図り、競争優位性を高めようと考えました。
──環境への取り組みを考えるようになったきっかけは何でしたか。
環境に関する講演に参加したことがきっかけで、社内に環境チームが発足しました。それ以前は、EGRブロワという排ガスを再循環させることでNOxを大幅に削減する製品を製造している程度で、環境意識はほとんどありませんでした。
しかし、勉強会や合宿を重ねる中で、環境への理解が深まり、知識も増加。環境問題に取り組むことの重要性を実感し、弊社にとって「環境」は欠かせない要素であることが明確になりました。そして、「環境=競争力」という認識が深まったのです。

──メンバーはほとんど知識ゼロからのスタートだったということでしょうか。
当時の私たちの環境に関する知識はゼロと言っても過言ではありません。LCAという言葉すら知らず、「そもそもLCAって何?」「LCAを実施することで環境にどのような効果があるの?」という状態でした。何から始めればよいかもわからない状況では独力で進めるのは難しいと感じ、専 門家の力を借りることに決めたのです。
──それでも、業界のパイオニアとしてEGRブロワのLCAに挑戦したのですね。
脱炭素化が世界的に進展するなかで、船舶業界でも2050年のネットゼロを目指し、各社が対応を進めています。私たちも業界の動向を注視し、独自調査を実施しました。その結果、EGRブロワを扱う同業他社が製品や組織全体のCO2排出量の見える化に取り組み、それを公表している事例は見当たりませんでした。
この状況を受けて、「今、動けば先陣を切れる」「業界内でサステナビリティのファーストランナーになろう」という強い思いを抱くようになり、EGRブロワのLCA(Life Cycle Assessment)やサプライチェーン排出量の算定という、まだ他社が着手していない分野に取り組むことで、業界内での差別化を図ろうと考えたのです。
CO2排出量低減と生涯コスト最適化を実現
──プロジェクトを進める過程で、失敗や苦労をされたことはありましたか。
プロジェクトを進める過程でいくつかの困難に直面しましたが、LCAの専門家であるGreen Guardianさんから、適切なタイミングで必要なサポートをいただきました。そのおかげで、致命的なミスを防ぐことができたと実感しています。
また、わからないことがあった際には、立ち止まっていると時間が無駄に過ぎてしまうと考え、すぐに質問することを心掛けていました。その結果、プロジェクト期間中にGreen Guardianさんとのメールのやり取りは600通を超えましたが、 問題解決がスムーズに進みました。さらに、定期的にZoom会議を実施していただいたことで、大阪と茨城という距離があっても、問題なくプロジェクトを進めることができたように思います。
──LCAの結果は、どのように活用されていますか。
LCAにより、EGRブロワの製造から廃棄に至る各段階で、環境への負荷がどの程度であるかを把握することができました。たとえば、CO2排出量の約99%がEGRブロワ稼働時の電力由来、つまり船舶の航行時に発生していることが明らかになりました。これを踏まえて、新たに設計した次世代機は、CO2排出量の削減だけでなく、生涯コストの大幅な低減が実現したのです。このような取り組みを順次展開していけば、受注の増加が期待でき、経営面にもプラスの影響を与えると考えています。

評価対象となったEGRブロワ
──社内の文化や意識についての変化は見られましたか。
具体的な成果はまだこれからですが、CO2排出量の見える化を実施したことにより、社員の環境意識が高まり、環境を意識 した新たな取り組みや改善案が生まれることが期待されています。こうした取り組みが進むことで、たとえば特殊用途向けの製品開発など、新たなチャレンジの機会が生まれ、成長につながるのではないかと考えています。
社員の「共感」こそサステナビリティの源泉
──環境に対する社内意識の醸成は、これからということですね。
環境経営は大手企業が取り組むものだという認識が根強く、弊社のような従業員83名の規模では、正直なところ、自分たちの業務とは直結しないと感じている社員も少なくありません。また、環境に関する発表や取り組みには、専門用語や数字が並ぶことが多く、難しく感じる社員もいるのが現実です。そのため、「自分には関係ない」といった声が上がることもあります。このように、環境への意識が社内にまだ十分に浸透していないため、社員に対し て継続的に環境の重要性を訴えていく必要があると考えています。
──環境への意識を浸透させるために、具体的にどのような取り組みをされていますか。
私たち環境チームが脱炭素化をいくら声高にアピールしても、社員一人ひとりが「自分ごと化」として捉えなければ、何も変わりません。そこで、できることから少しずつ環境にやさしい取り組みを進めています。具体的には、社内に分別ゴミ箱や缶潰し器を社内に設置してゴミの分別意識を高めることや清掃活動、灯油の使用禁止、研修発表、啓発ポスターの掲示などが挙げられます。
たとえ小さな取り組みでも、まずはやってみることが大切です。そして、できる範囲を徐々に広げ、ひいては100年後も選ばれる企業として成長できることを目指しています。
──最後に、これからの展望について教えてください。
今後は、製品を生み出す過程で排出されるCO2削減に取り組むとともに、組織全体の環境改善にも力を入れていきます。また、環境チームが行ってきた活動を社員にしっかりと伝え、個々の環境意識の変化を促進していきたいと考えています。
さらに、自社ブランディングの強化や、サプライチェーン全体を巻き込んだネットゼロの実現に向けた継続的な発信も重要です。付加価値の高い製品やサービスを開発・提供することで、営業活動における差別化を図り、選ばれる企業を目指します。やるべきことが多く、むしろ私たち環境チームの挑戦は始まったばかりです。

仕事風景 堀さま

大阪送風機製作所が考える好循環の図
編集後記
短期間の間に大阪送風機製作所は業界初の成果を上げ、さらなる進化を遂げようとしている。
「これは投資だ!」プロジェクト開始時の枩山社長の言葉が思い出される。成功するか、失敗するか分からないが、経営に「環境」を組み込むことを決め実行した。その成果が今、少しずつ芽吹いている。
成功要因として、枩山社長のリーダーシップと社員のチームワークが非常に素晴らしかったこと、私たちの知識や意見を大切にしていただき、気持ちよくサポートさせていただけたことが挙げられる。特に印象に残ったのは、LCAに必要な情報を暗黙知として所持し、不足している情報があった場合でも取引企業まで足を運んでデータ収集を迅速に行った点である。
取引企業がそういったことを快く受け入れてくれるのは、普段から良好な関係を維持している証左であり、LCAに必要な情報を常に整備していたことは、日々製品のことを考え、改善や開発をしようという姿勢の表れだと感じた。良い意味で距離感が近く、分からないことは正直に伝え、それを放置しない実直さと生真面目さ、「力になりたい」という気持ちが自然と湧くような愛嬌とアットホームな雰囲気を感じた。
次の100年の一歩に弊社を選んで頂けたことに感謝しつつ、大阪送風機の活躍を今後も間近で見ていきたい。