サステナビリティ情報開示シリーズ #1|なぜ今、企業が本気で取り組むべきなのか
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- 6月17日
- 読了時間: 10分
はじめまして!
現在、Green Guardianでインターンをしている山口梨奈と申します。
今回、初めての試みとしてコラム記事を担当させていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いいたします!
これから数回にわたって、企業のサステナビリティ情報開示について、各制度や基準ごとにわかりやすくご紹介していくシリーズをお届けしていきます。
その第1弾となる今回は、そもそもサステナビリティ情報開示とは何か?なぜいま注目されているのか?という全体像をテーマにお送りします。
最近よく聞く「サステナビリティ」や「情報開示」という言葉。
でも、「実際には何を指しているの?」「なぜ企業が本気で取り組んでいるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
サステナビリティ情報開示とは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する取り組みや影響を、社外に向けて発信すること。
いまや「やらされる報告」ではなく、企業価値を伝える“戦略ツール”として、国内外で注目を集めています。
初回は、全体の流れをつかんでいただけるよう、できるだけやさしく、要点を整理してお伝えしていきます。
ぜひ最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
目次
1.なぜサステナビリティ情報開示が注目されるのか?
近年、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。気候変動への対応や社会的課題への取り組みが、すべての企業に求められる時代になりました。さらに、企業活動の透明性を高め、社会的責任を果たすことは、企業価値を左右する重要な要素となっています。
こうした背景のもと、サステナビリティ情報の開示は「企業の信頼性を支える基盤」として位置づけられ、注目を集めるようになっています。特に、次の三つの潮流が、この動きを強く後押ししています。
投資家の要請
現在の金融市場では、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)にどれだけ配慮しているかが投資判断の重要な材料になっています。企業が長期的に成長できるかを判断するために、サステナビリティ関連の情報は欠かせません。
規制強化の世界的動向
ヨーロッパでは企業に対するサステナビリティ情報開示の義務化が進んでおり、米国でも同様の規制強化の動きがあります。国際的に事業を行う企業は、各国の規制に対応する必要が出てきています。
企業の価値を評価する基準の変化
ブランド力や人材の価値など、財務指標以外の要素が企業の評価に大きく影響しています。こうした非財務の要素を伝えるサステナビリティ情報が、企業の将来性を示す新たな評価基準として注目されています。
これらの動きからわかるのは、サステナビリティ情報開示は求められるから取り組むような受け身の対応ではなく、企業が自らの未来を切り開くための武器になりつつあるということです。
2.いま、サステナビリティ情報開示について知ることの意義
サステナビリティ情報開示は、単に規制に対応するためだけのものではありません。企業が社会や市場と向き合う姿勢を示すうえで、今や欠かせない要素となっています。特に、企業価値を中長期的に高める観点からも、担当者が情報開示の意義を正しく理解し、戦略的に取り組む必要があります。
ここでは、情報開示に取り組むことによって得られる主なメリットを紹介します。
ブランドイメージを高め、選ばれる企業になる
社会課題に積極的に取り組む姿勢を明確に示すことで、消費者や取引先からの信頼を得られやすくなります。競争が激しい市場において、自社の価値観を明確に伝えることが差別化につながります。
投資家との信頼関係を築き、資金調達力を高める
サステナビリティに関する情報は、投資家にとって企業の将来性を測る大事な手がかりです。しっかりとした情報開示ができていれば、成長の可能性をアピールできるだけでなく、資金調達の条件も有利になります。最近では、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンといった、新しい資金調達手段も広がっています。
法令対応をスムーズにし、リスクを減らす
世界的にサステナビリティ情報開示のルールは厳しくなってきています。日本でも、今後さらに対応が求められるでしょう。情報開示に慣れておけば、新しい規制が導入されたときにもスムーズに対応でき、法令違反などのリスクを減らせます。
反対に、準備不足や対応の遅れは、次のようなリスクに繋がる可能性があります。
規制違反による信用低下 国内外で開示義務が強化される中、未対応のままだと法令違反となり、企業の信用を大きく損なうリスクがあります。
レピュテーションリスク 曖昧な情報開示により事実と異なる印象を与えてしまうと、グリーンウォッシュ(環境に配慮したかの様に見せかける、 実態が伴わない行動や表現)と批判され、ブランドイメージに深刻なダメージを与えかねません。
事業機会の損失 取引先やパートナーからの開示要請に応えられないと、新たなビジネスチャンスを逃す恐れがあります。
このように、情報開示を優先順位の低いものと捉えることは、将来の成長機会を失うだけでなく、企業の信頼基盤そのものを揺るがすことにつながります。今から着実に取り組みを進めることが、持続可能な成長への第一歩となるのです。
3.サステナビリティ情報開示の現状
サステナビリティ情報開示は、今や世界中の企業にとって無視できないテーマになりつつあります。特に近年は、企業活動における環境・社会・ガバナンスへの配慮が、企業の信頼性や持続可能性を示す重要な指標として注目を集めています。
こうした流れをリードしているのが、ヨーロッパの国々です。たとえば、EUでは「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」が導入され、対象企業に対してサステナビリティ情報の開示を義務付ける動きが加速しています。この背景には、気候変動対策や人権尊重といったグローバルな課題に対する、欧州全体としての高い問題意識があります。
一方で、アメリカでも情報開示に関する議論は活発化しています。米国証券取引委員会は気候関連情報の開示ルール案を発表するなど、規制整備を進めていますが、その動きは日々変化しており、今後の展開を注視する必要があります。※本稿は2025年6月時点の情報に基づいています。
アジアでも、日本をはじめ韓国やシンガポールといった国々が、国際基準に合わせた情報開示の整備を進めており、企業の対応が求められています。
このように、世界的に見てもサステナビリティ情報開示の重要性は高まっており、特にヨーロッパを中心に規制や基準の整備が先行して進んでいます。企業にとっては、こうした動きを的確に捉え、自社の取り組みをどのように伝えていくかが、これからますます重要になっていくでしょう。
4.日本のサステナビリティ情報開示の現状と種類
日本企業を取り巻くサステナビリティ情報開示の状況は、近年大きく変化しています。いま、企業が知っておくべき枠組みは複数あり、それぞれが異なる特徴を持ちながらも、共通する方向性を示しています。
現在、日本で主要な情報開示の枠組みは次のとおりです。
SSBJ基準(サステナビリティ開示基準)
日本企業の実務に即した基準として2025年から任意適用が始まります。国際基準との整合性を取りながらも、国内の事情を反映した内容になる予定です。
有価証券報告書制度(金融庁)
上場企業に対し、非財務情報の拡充が求められるようになりました。特にサステナビリティや人的資本に関する情報の開示が義務づけられつつあります。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示
気候変動が企業にもたらすリスクと機会に関する情報を開示する枠組みで、国際的なスタンダードとなりつつあります。
GRIスタンダード(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)
国際的に最も広く利用されているサステナビリティ報告ガイドラインで、幅広いステークホルダー向けの情報開示を重視しています。
こうした制度の多くに共通して求められているのが、次の「4つの柱」に沿った情報整理です。
柱1: ガバナンス サステナビリティ課題に対する組織の意思決定体制を明示します。
柱2: 戦略 企業が認識するリスクと機会、それに対応する戦略を説明します。
柱3:リスク管理 リスクをどのように特定・評価・管理しているかを示します。
柱4: 指標と目標 サステナビリティの取り組みを数値で示し、達成目標を設定します。
この「4つの柱」は、TCFDをはじめ、国際的な基準でも共通して採用されており、今後の情報開示のベースラインとなっていくと考えられます。新たな制度が出てきても、この枠組みを理解しておけば、対応の負担を大幅に軽減できるでしょう。
5.情報開示に先行して取り組むべき企業たち
こうした情報開示に、特にどのような企業が早期に対応を進めるべきでしょうか。現状、次のような企業群が中心になると見られています。
上場企業(プライム市場)
金融庁による情報開示義務強化の対象であり、積極的な対応が求められます。
グローバルサプライチェーンを持つ製造業・素材産業
欧州など国際的な開示基準への対応が必要不可欠です。
金融機関
気候関連リスクへの開示義務(TCFD対応)が、すでに求められています。
サプライチェーン上流企業
大企業からサステナビリティ情報の提出を求められるケースが増加しています。
これらの企業にとって、情報開示は単なる義務対応ではなく、新たな競争力の源泉になる可能性もあります。早い段階から取り組みを進めておくことが、今後の事業継続と成長に直結すると言えるでしょう。
6.おわりに: 情報開示は“やらされるもの”ではなく“伝える手段”
情報開示と聞くと、つい「義務だからやらなきゃ」と受け身になりがちです。しかし、本来「自社の価値や強みを伝えるチャンス」でもあります。
たとえば、気候変動への取り組みや人材育成への姿勢をきちんと伝えることで、投資家からの評価が高まることもあります。開示は“守り”だけでなく、“攻め”の経営にもつながるのです。
今後もGreenGuardianでは、情報開示や業界ごとの規制内容、データベース関連など多岐にわたり、サステナビリティ実務に寄り添う情報を発信してまいります。
山口が担当するサスティナビリティ情報開示シリーズ第2弾は、
2025年から任意適用が始まる「サステナビリティ開示ユニバーサル基準(SSBJ基準)」について詳しくご紹介していきます。
この基準は、日本企業にとって今後とても重要なものになります。IFRSの国際基準と整合性をとりつつ、日本企業の実務に合った形で整理されているのが特徴です。
「他の制度と何が違うの?」「うちはどう備えればいい?」といった疑問に、具体的にお答えしていきます。
また、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応もお手伝いしています。
「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。
気軽に話せる【CO2算定まわりの“コンサル”】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。
ご相談はいつでもお気軽にどうぞ!

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