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コラム記事

LCAについての解説記事 1

脱炭素やサステナビリティ関連の情報が頻繫に話題となる昨今、重要なキーワードであるLCAについては動画でもご紹介しましたが、この記事ではもう少し詳しく解説していきたいと思います。


目次


 


LCAとこれまでの活用


LCAとは Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)の略で、環境負荷を定量的に評価する手法です。ISOの規格化をきっかけに日本でもLCAの認知度が高まり、当初は企業の製品開発や改善、CSR報告書やサステナビリティ報告書の公表、エコプロダクツ展示会などの環境型展示会イベントでアピールといった限定的な活用が大半でした。近年では、CDPやTCFDを通した投資機関とのコミュニケーション、あるいは銀行や自治体からのグリーンボンド活用などで非財務情報(環境負荷項目)の公開と改善要求が徐々に浸透すると、環境意識の高い単独企業だけでなく取引企業へも環境負荷情報(主にCO2)と改善を要求する企業が増え始め、その流れが加速していきました。独自の取り組みとして、ある大手小売チェーンでは、LCAを実施したメーカー製品の売り場面積を増やす、より目立つエリアに製品を置くといった特典を付けて自社のサステナビリティを推進した例もあります。更に企業役員の報酬や部署と環境負荷の改善を仕組みとして連動させる企業も出てきており、カーボンニュートラルあるいはカーボンネガティブ達成を戦略的に進めるためにLCAを活用している企業が出てきています。まだここまでのアクションに結びつかずとも既に投資機関が非財務情報を重要視し始め、自社の株価にも少なからず影響が及ぶことから、似たような動きが活発化することが予想されます。このように世界的な潮流は脱炭素・サステナビリティに向けて大きく動き出しており、逆に言えば、このような動きに後ろ向きな組織は市場を失うリスクが出てきたとも言えるかもしれません。




LCAの有用性とイメージ


環境負荷が低い製品を開発する為の検討にLCAはしばしば用いられます。LCAではライフサイクル全体を評価に含める必要がありますが、その理由は下図で説明できます。下図は機能が同じ製品AとBのCO2排出量を比較したものです。製品生産までを評価した場合、製品Bの方がCO2が少ないという結論になりますが、ライフサイクル全体を含めて評価した場合、製品Aの方がCO2が少ないという結論になります。このようにLCAでは、全工程を含めて評価することによって環境負荷の全容を正しく把握することができます。また、製品によって、どの工程を重点的に改善しなければならないのかを結果から導き出すことが出来ます。これらを活かして、より環境に配慮した製品・サービスを検討するための有用なデータを提供することができるという訳です。



LCAの有用性_各工程の違い

図1. LCA有用性とイメージ




LCAの実務・技術的概要


LCAでは、製品やサービスのライフサイクル全体(資源採取、原料生産、製品生産、流通、消費、廃棄、リサイクル、つまり、ゆりかごから墓場まで)又はその特定段階を対象に環境側面及び潜在的な環境影響を評価しますが、近年では従来の製品やサービスに限らず、イベントや組織、地域や国、世界といったより大きな単位にも活用されています。環境負荷(評価対象)とは、CO2だけを指すのではなく、CH4やNOx, エネルギーや水、金属や土地など多岐に渡ります。CO2の算定に活用されることが多いですが、何を評価するかは目的の設定に依存します。

LCAはISO14040,14044によって規格化がされており、枠組みが説明されています。まず、目的及び調査範囲の設定に始まり、インベントリ分析、影響評価、解釈を実施する必要があります。得られた結果は報告書としてまとめられ、上記で紹介したような用途に応じて活用されていきます。クリティカルレビューは必須ではなく、実施するかどうかは目的に依存します(図2)。LCAの枠組みにおける各段階の概要は以下の通りです。


LCAの枠組み

図2. LCAの流れ



目的及び調査範囲の設定:                   

目的の設定では、意図する用途や調査をする為の理由、伝達先、比較主張において結果を用いるか等を設定します。調査範囲の設定では、LCAを実施する評価対象製品やその機能、機能単位(例えば、お米1kgあたり、500mlのペットボトル1本あたり等)や評価(調査)範囲、前提条件やデータに関する情報、クリティカルレビューするかどうか等を明確に設定する必要があります。以降の分析の詳細度はこの段階で決定されることから、重要な段階と言えます。




インベントリ分析:                      

インベントリ分析はライフサイクルの全体を通してのインプット及びアウトプットデータのまとめ,並びに定量化を行うLCA の段階です。料理本やレシピをイメージすると分かりやすいかもしれません。当然ながら料理本には、料理を作るのに必要な情報が載っています。パンであれば、強力粉や水、砂糖やバター、塩やドライイーストなどがそれぞれどのくらいの数量、どの工程で必要かを紹介しています。実際のLCAではこれらに加えて、電気や燃料、その他製品などの項目があり、これらを追加・整理するとインプットデータになります。一方でアウトプットデータは結果として、パンが何グラムつくれたか、環境負荷(例えば、CO2)がどのくらい排出されたかといった情報を整理することで完成します。インプット及びアウトプットデータの整理は、どの工程で必要になるのか、または発生したかといった情報を一緒にすることが非常に重要であり、それにより分析や考察、改善がしやすくなります。



表1. インプットデータの例

インプットデータの例



影響評価(LCIA):                    

影響評価は、ライフサイクル全体を通した潜在的な環境影響の大きさ及び重要度を理解し、かつ 評価することを目的としたLCA の段階です。(影響評価手法は複数提案されていますが、ここでは被害算定型環境影響評価手法を基に解説します。)影響評価は分類化、特性化、被害評価、正規化(重みづけ)、統合化といった流れがありますが、必須要素は特性化までで、以降は任意要素になります。

分類化は、インベントリ分析で得られたCO2やCH4, NOxなどがどのような環境問題に影響を及ぼすか(インパクトカテゴリー)を関係付ける工程です。上記であれば、地球温暖化に関係付けることができます。

特性化は、それぞれの物質が各インパクトカテゴリーで、どの程度の影響を及ぼすのかを定量的に示す工程です。例えば、地球温暖化であれば、インベントリ分析で把握したCO2やCH4, NOxの重量にそれぞれの地球温暖化係数(GWP)をかけることでそれぞれのCO2換算重量が得られます。最後にそれらを集計することで特性化(地球温暖化)が把握できるという訳です。

被害評価は、環境の変化を通じて受け得る被害量について評価する工程です。たとえば、日本が開発した影響評価手法のLIME(Life Cycle Impact Assessment Method based on Endpoint Modeling)では、人間健康や生物多様性、社会資産や一次生産を対象に被害量を集計しています。この集計には、疫学や生態学、数理生物学や毒性学、気象学などの自然科学的知見を取り入れています。

正規化(重みづけ)は、これまで得られた結果(被害)をそのまま比較することができない問題を解決する為にある工程です。比較を可能にするためにそれぞれの寄与率を算定し、かけることで単一指標としています。LIMEであれば、人間健康(DALY)や生物多様性(EINES)、社会資産(円)や一次生産(乾物ton(dry-t))は単位が異なる為、比較ができません。しかし、正規化を実施することで単一指標(円)換算することができ、統合化が可能になります。前述の通り、被害評価までだとそれぞれの被害影響を比較することが出来ません。その為、「どういったアクションを優先すべきか?どこに着目するべきか?」といった迷いが生じ、意思決定することが困難な状況になりますが、統合化によって、比較が可能になると、どの環境負荷項目を優先的に改善する必要があるかがしっかりとした根拠として示すことが出来ます。


※LIMEは現在LIME3まで開発が行われている。地理的評価範囲は世界規模に改良された他、全面的なバージョンアップがなされた。


LIME3の概念図

図3. LIMEの概念図と評価対象範囲



解釈:                            

インベントリ分析もしくは影響評価のいずれか,又はその両方から得られた知見をLCA の結論及び提言を得るために、設定した目的及び調査範囲に関して評価するLCA の段階。

つまり、解釈で得られたインベントリ分析や影響評価の結果から結論を導き、提言をまとめる段階です。重要な項目の特定、結果の確実性と信頼性の評価、結論及び提言を言及します。重要な項目の特定では、インベントリ分析や影響評価の結果から、寄与度の高いライフサイクル段階や原因を特定します。結果の確実性と信頼性の評価では、特定された重要な項目の信頼性を明確にするため、LCAの結果や用いたデータに関する点検を実施する必要があります。結論及び提言は、LCAの結論を導き出し、分析の依頼者に向けて提言を行う。というものです。




クリティカルレビュー:                   

報告書を基にLCA に関するISO規格の原則及び要求事項との間の整合性を確実にする為の工程です。レビュー文書、LCA 実施者のコメント及びレビュー実施者の提言への対応はLCA 報告書に含めなければなりません。ただし、注意が必要なのはクリティカルレビューは報告書にある数値が必ずしも正しいことを保証するものではなく、以下を保証するものになります。

- LCAを実施するために用いた手法が規格(ISO14044)に合致している

- LCAを実施する為に用いた手法が科学的及び技術的に妥当である

- 使用したデータが調査の目的に照らして適切、かつ合理的である

- 解釈は、明らかになった限界および調査の目的を反映している

- 調査報告書は、透明性および整合性がある





LCAの課題

LCAの課題としては、主に下記3点が挙げられると思います。

・LCAの実施には時間とコスト、ステークホルダーの協力が必要

・データベースにない情報は作る必要がある

・属人化:高い専門性が必要


LCAの実施には時間とコスト、ステークホルダーの協力が必要        

当たり前の話ですが、ある程度、LCAのことを担当者は勉強しておく必要があるため、初期費用として教育コストがかかります。専門家と一緒にやる場合はその限りではありませんが、それでもどういった情報が必要になるか、どのようにして、誰からデータを取得するのかといったことは把握しておく必要があります。また、データは最初から集約されていない場合が多い為、必要な情報を方々から集める為にどうしても時間がかかります。特にサプライヤーに要請して情報を得る場合は、趣旨説明やお願い、先方マターの対応もあります。更にクリティカルレビューまで実施する場合はその期間も必要となるので、それを見越したスケジュールを組む必要があります。



データベースにない情報は作る必要がある                  

インベントリデータベースは有料・無料含めて複数ありますが、前提条件に合わせて見合ったものを活用することが望ましいです。しかし、必ずしもデータベースにピッタリな係数がある訳ではありません。その場合は最も近いものを選ぶことになりますが、影響が大きいものや近しいものもない場合に関しては、独自に係数を作成する必要があります。しかしながら、専門知識がない場合はそういった対応は難しく、その結果として、環境性能が実態と乖離(過小または過大評価)されたものになることがあります。



属人化:高い専門性が必要                        

簡単なLCAの計算自体はすぐに誰でもできる(数字は得られる)一方で、活用している係数(原単位)や影響評価係数、収集データなどを正しく理解しているか、それぞれの意味合いや特徴が把握できているかは専門家でないとハードルが高いといえます。特に国や地域によって、求められている手法は異なります。それぞれのシーンで求められる対応をすることで海外でも反発なく情報のやりとりができるようになります。また、ISOに基づいたクリティカルレビューでは、そもそもLCAの経験と知識が十分にある人材を集めて実施しなくてはならないとあり、ある程度、属人化してしまうことが前提になっていることから仕方がない部分もあるといえるかもしれません。




まとめ

今回の記事ではLCAの有用性や枠組み、各段階などについて解説しました。

課題をいくつか述べましたが、昔と比べると現在はかなり状況が良くなってきています。例えば、基盤技術であるインベントリ(原単位)と影響評価係数は、たゆまぬ研究者や技術者の努力でどちらも大きな質的・量的改善がはかられていますし、サプライヤーに情報共有を要請する際も脱炭素やサステナビリティへの潮流からそれに協力的な企業も確実に多く、情報収集に必要な時間も短くなりました。LCAの専門家や実務者も増え、社会全体でLCAを実施する体制が整いつつあるように感じます。コストもかかりますが、それよりも大きなリターンや実施しないことへの損失も現在は簡単に想像できることから、経営者や実務担当者のLCA実施に対するハードルも遥かに下がってきています。

最後になりますが、正しい手順や方法を基にしたLCAの実施をすることで、製品やサービス、または自社全体のサステナビリティを高めるとともに外部の専門家を交えた議論やレビューを定期的に実施することで透明性を担保することが重要です。泥臭い作業も多いですが、このような状況を勢いに変えてビジネスチャンスを掴んでいきましょう。



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