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Scope1・2・3とは?それぞれの定義と企業が対応すべき理由をLCAコンサルタントが徹底解説

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  • 4月23日
  • 読了時間: 14分

こんにちは。LCAコンサルタントの小野あかりです。

今回は、Scope3の起源・歴史から、役割・位置づけ、現時点での各企業の主な動きなどを解説していきたいと思います。


目次




1.Scope1〜3がなぜ注目されているのか

 気候変動への対応が企業経営においてますます重要となる中、「Scope1・2・3」という温室効果ガス排出量の区分が大きな注目を集めています。企業のカーボンフットプリントの大部分が実は自社の外にあるサプライチェーン(Scope3)に由来することが多く、ある分析では平均で全排出量の約7割、場合によっては8割前後を占めるとも報告されています。そのため、自社の工場や社用車など直接的な排出(Scope1)や購入した電力などの間接排出(Scope2)だけでなく、バリューチェーン全体に視野を広げたScope3の管理が不可欠となってきました。また、投資家や取引先、消費者からの環境対応要求も年々高まっており、自社の温室効果ガス排出を包括的に把握・削減していくことが持続可能な経営のカギとなっています。



  2.GHGプロトコルにおけるScope区分の起源と歴史

 企業の温室効果ガス排出量を「Scope1・2・3」に分類する考え方は、2001年に世界資源研究所(WRI)と世界持続可能な開発企業協会(WBCSD)によって策定されたGHGプロトコル(温室効果ガス排出量算定基準)に端を発します。

京都議定書(1997年のCOP3)では国家単位の排出削減目標が定められましたが、企業レベルでも国際的に整合した算定・報告基準が求められ、GHGプロトコルはそうしたニーズに応える形で生まれました。

以降、GHGプロトコルは事実上のグローバルスタンダードとなり、多くの企業や自治体が自らの排出量をScope1〜3に分類して報告するようになります。

国際合意の場でもこの流れは加速しました。

 とりわけ2015年のパリ協定(COP21)では「産業革命以前比で気温上昇を2℃未満(できれば1.5℃に抑える)」との長期目標が掲げられ、各国政府だけでなく企業も含めたあらゆる主体の排出削減が重要と位置付けられました。

これを受けて2015年にはScience Based Targets (SBTi)が発足し、企業がScope1・2に加えてScope3を含む科学的根拠に基づく削減目標を設定する動きが広がりました。

また近年のCOP26(2021年)では、国際会計基準機構(IFRS財団)が企業のサステナ情報開示の新たな基準策定(ISSB)を発表するなど、国際的な枠組みづくりも進展しています。

こうした流れの中でScope1〜3という概念は気候変動対策の共通言語として定着し、企業が自らの排出プロファイルを戦略的に見直す際の基本軸となっています。



  3.Scope1・2・3の定義と役割の違い


図1: 企業のバリューチェーン全体におけるScope1・2・3の排出源区分の概要
図1: 企業のバリューチェーン全体におけるScope1・2・3の排出源区分の概要(出典:GHG Protocol)

 中央に「Reporting company(報告企業)」があり、左側の円弧が原材料調達や資材生産など上流の排出源(Scope3の上流部分)、右側の円弧が製品の輸送・使用・廃棄など下流の排出源(Scope3の下流部分)を示しています。上向きの太矢印が企業自身から直接大気中に放出される排出(Scope1)、左上に伸びる矢印が他社から購入した電力・熱の使用に伴う間接排出(Scope2)を表しています。

このようにScope1は自社の事業所や工場設備、社用車などからの直接排出、Scope2は他社から供給されたエネルギーの使用による間接排出、そしてScope3はそれ以外のサプライチェーン全体における上流・下流起因の間接排出を指します。


実際の定義をもう少し詳しく見てみましょう。GHGプロトコルでは企業活動に伴う温室効果ガス排出を以下のように分類しています:


  • Scope1(直接排出) – 自社が所有または支配する施設・設備からの直接的な温室効果ガス排出。例えば工場のボイラーで燃料を燃やす際に出るCO₂や、社用トラック・営業車の走行に伴う排出が該当します。自社の事業活動で直接発生する排出であり、企業が最もコントロールしやすい排出源です。


  • Scope2(間接排出:購入エネルギー) – 他社から供給を受けたエネルギーの使用に伴う間接的な排出。例えば電力会社で発電時に生じたCO₂を、自社が電力を購入することで間接的に排出したものと見なすケースです。Scope2は自社の需要に起因する排出であるため、再生可能エネルギーの購入や省エネ施策により削減が可能です。


  • Scope3(その他の間接排出) – 上記Scope1・2以外の、バリューチェーン全体(サプライチェーンの上流および下流)で発生するあらゆる間接的な排出です。具体的には原材料の生産・調達、製品の物流、従業員の出張・通勤、販売した製品の使用や廃棄に伴う排出など、多岐にわたる15のカテゴリに細分化されています。範囲が広く企業ごとに排出源の特徴が異なるのが特徴で、把握や削減の難易度は高いものの、前述の通り全体に占める割合が大きい重要領域です。



  4.同じ排出でも立場によってScopeが変わる事例

 Scopeの区分は「誰の排出か」という視点によって変わるため、同じ排出行為でも立場が変われば分類が異なることになります。

例えば、電力会社の発電所から排出されたCO₂は電力会社にとってはScope1(自社の直接排出)ですが、その電力を購入した工場にとってはScope2(購入エネルギー由来の間接排出)として計上されます。

同様に、製油会社が販売したガソリンが自動車で燃焼されて出るCO₂は、製油会社にとっては「販売した製品の使用」によるScope3排出(カテゴリ11)ですが、実際に車を運転している運送会社や個人にとってはScope1の直接排出となります。

つまり、ある企業のサプライチェーン上流で発生した排出はその企業のScope3(上流)となり、逆に自社が供給した製品の使用段階で発生する排出は自社のScope3(下流)になるのです。

 このようにサプライチェーン全体で見ると、ある企業におけるScope1が他の企業から見ればScope3にあたるという関係が網の目状に存在します。

企業間で排出情報を共有・連携することが重要と言われるのは、まさにこの理由からです。例えば前述の電力のケースでは、電力会社の排出削減(再エネ化など)が顧客企業のScope2削減に直結しますし、製品供給側が省エネ型の商品を開発すれば使用時排出が減り、供給側のScope3(下流)と顧客側のScope1双方でメリットが生じます。サプライチェーン全体の連携によってはじめて効果的な脱炭素が達成できるのです。



  5.国際的制度および国内制度との関連性

 昨今のScope1〜3への注目の高まりの背景には、各種ルールやイニシアチブによる開示・削減要請の強化もあります。

まず国際的には、EUが制定したCSRD(企業サステナビリティ報告指令)があります。CSRDに基づく報告基準(ESRS)では、企業はScope1・2・3すべての温室効果ガス排出量を開示することが求められています。

つまりヨーロッパでは、自社だけでなくバリューチェーン全体の排出量報告が法的に義務化されつつある状況です。

 一方、アメリカの証券取引委員会(SEC)も気候関連開示ルールを検討しており、当初の案ではScope3の開示も含まれていました。最終的に2024年3月に公表されたルールでは、議論の結果Scope3開示は義務から外れましたが​、依然としてScope1・2の開示は求められており、今後も状況次第では追加の要求があり得ます(現在、このルールは訴訟により適用が一時停止中です)。

このように地域によって温度差はあるものの、グローバルには企業の温室効果ガス排出情報を投資家やステークホルダーに開示する流れが確実に強まっています。

 またSBTi(科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ)の存在も見逃せません。

SBTiは企業がパリ協定と整合した削減目標を設定することを推進する民間主導の枠組みで、2015年の発足以来世界で数千社が参加しています。

SBTiの認定基準ではScope1・2だけでなくScope3の排出量も対象とすることが求められているため、SBT認定を目指す企業は必然的にサプライチェーン排出量の把握・削減に取り組むことになります。

実際、大手企業の中には自社の主要サプライヤーに対してSBT認定取得や排出削減計画策定を求める動きも広がっています​。


 国内に目を向けると、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)を軸にした自主的な開示や、証券取引所を通じた事実上の義務化が進みました。

TCFD提言(2017年)では、経営に影響を及ぼす温室効果ガス排出量としてScope1・2(必要に応じてScope3)の開示が推奨されており、日本ではこれを支持する企業数が世界最多となっています。

金融庁・東証も動きを後押しし、2022年以降はプライム市場上場企業に対しTCFDに沿った気候関連情報の開示が求められるようになりました。

さらに2022年には日本版ISSBともいえるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が設立され、国際的なサステナ開示基準を国内企業向けに整備する取り組みが進行中です。

こうした国内外の制度面の変化により、企業はScope1〜3を網羅した排出量情報を開示・管理することが当たり前の時代になりつつあります。



  6.国内外企業の対応状況

 このような潮流を受け、世界の企業は続々と自社のサプライチェーン排出量の把握と削減に動き出しています。国際的には、たとえばRoyal Philips(オランダ)やIKEA(スウェーデン)ユニリーバ(英国)、自動車部品のZF(ドイツ)といった業界リーダー企業が、自社の供給網全体での排出削減に挑戦しています。

これらの企業はサプライヤーとの協働や製品設計の工夫、経営トップのコミットメントによってScope3排出の削減を加速させており、CEO気候リーダーズ組合の調査ではこれら企業では平均80%もの排出がサプライチェーン由来であることから、直接管理範囲外への働きかけが不可欠だと指摘されています​。

日本企業も同様に、多くの先進的な取り組みが見られます​。

以下、代表的な業種から3社の事例を紹介します。


  • 小売業:イオン株式会社 – 大手小売のイオンは、自社事業からの温室効果ガスを将来的に実質ゼロにする目標を掲げています。同社の算定によれば、Scope3排出量のうち約55%がカテゴリ1「購入した製品・サービス」すなわち調達する商品自体の生産に伴う排出です​。そこでプライベートブランド商品を製造する主要取引先に対し気候変動への取り組み状況をアンケート調査し、サプライヤー各社の方針や要望をヒアリングするなど、協働による脱炭素化をスタートしています。今後はサプライチェーン全体での具体的な削減計画策定へと発展させる考えです。


  • 製造業(設備):新菱冷熱工業株式会社 – 産業用空調など設備エンジニアリングを手掛ける新菱冷熱工業では、自社の排出量の大半がScope3で占められていることが判明しました。その内訳はカテゴリ11「販売した製品の使用」、カテゴリ1「購入した製品・サービス」、カテゴリ4「(上流)輸送・配送」の順で多く(2019年度)​、特に顧客による製品使用時のエネルギー起源排出(カテゴリ11)が主要な排出源となっています。同社はまず自助努力で削減しやすいカテゴリ4(上流物流)に注目し、ウェアラブルカメラを活用した現場の遠隔監視による効率化で輸送回数を減らし排出削減を実現しました。また工事等で発生する廃棄物についてコンクリートや金属くずのリサイクルを進め、2020年度には88%という高いリサイクル率を達成することでカテゴリ5「事業から出る廃棄物」の削減にも寄与しています。


  • 製造業(化学):DIC株式会社 – インキや樹脂など化学素材メーカーのDICでは、サプライチェーン排出量の中でカテゴリ12「販売した製品の廃棄」による排出が比較的多いという結果が出ました​。プラスチックを扱う事業特性上、製品の廃棄・分解に伴う排出(およびそれによる環境負荷)が大きいことを示しています。そこで同社はライフサイクル全体での環境負荷把握と削減に乗り出し、サーキュラーエコノミーを意識した製品設計を推進するとともに、仕入先・顧客・消費者・リサイクル事業者などバリューチェーン上のあらゆる関係者と連携し、廃棄物排出量の抑制や資源循環型の調達に取り組んでいます。こうした包括的なアプローチにより、製品の最終処分段階における排出削減と環境影響低減を図っています。


 以上の事例からも分かるように、業種によってScope3の中で特に重要となるカテゴリは異なります。

自社の商品特性やビジネスモデルに応じて排出の主な源(ホットスポット)を見極め、サプライチェーン全体を巻き込んだ削減策を講じることが先進企業の共通点と言えるでしょう。近年では国内外問わず多くの企業がScope3を含むサプライチェーン排出量の算定・開示に踏み出しており、それを前提にした競争優位策や協働施策が新たな経営テーマとなっています。



  7.対応するメリットと、対応しない場合のリスク

 気候変動への対応としてScope1〜3の排出管理に取り組むことは、多大な労力を要しますが、それ以上のメリットを企業にもたらします。一方で無視を続ければ将来的なリスクも大きく膨らみます。ここでは、Scope1〜3に包括的に対応するメリットと、対応しない場合に考えられるリスクを整理します。


対応するメリット

  • 規制順守とコスト回避:早期に排出量の可視化・削減に着手することで、CSRDや国内外の規制強化にもスムーズに対応できます。将来的に炭素税やカーボンプライシングが導入された場合でも、自社の排出削減が進んでいれば余計なコスト負担を回避できるでしょう。


  • 効率改善と競争優位:排出量データを分析する中でエネルギーや資源のムダが見える化され、生産プロセスの効率改善や省エネによるコスト削減につながります。また低炭素な製品やサプライチェーンは市場で付加価値となり、環境配慮型製品を求める顧客層の獲得や差別化にも寄与します。

  • ステークホルダーからの評価向上:脱炭素経営に積極的な企業は投資家から高いESG評価を得やすく、資金調達面で有利になります。加えて、サプライヤーとして見た場合にも大手企業から選好されたり、消費者からブランド好感度が上がるなどの効果が期待できます。社員の環境意識が高まり社内エンゲージメントが向上する例も報告されています。

対応しない場合のリスク

  • 規制対応の出遅れ:各国で開示義務や排出削減目標の強化が進む中、対応を怠る企業は突如法対応を迫られて多額の投資や対応コストが発生するリスクがあります。最悪の場合、規制不遵守による罰則や市場からの排除につながる可能性も否定できません。

  • 取引機会の喪失:サプライチェーン全体での脱炭素化が標準になれば、対応しない企業は取引先から敬遠される恐れがあります。実際に多くのグローバル企業が「サプライヤーにも気候目標を求める」方針を打ち出しており、対応できない企業はサプライチェーンから淘汰されるリスクがあります。

  • 評判・信頼の低下:気候変動問題への関心が高い社会において、対応の遅れた企業は消費者や投資家、従業員からの信頼を失いかねません。「気候危機に背を向けている企業」というレッテルが貼られるとブランド価値の毀損や株価下落につながる可能性があります。また、環境NGO等から名指しで批判を受けるといったリスクも増大します。



  8.おわりに

 Scope1・2・3は企業の温室効果ガス排出量を包括的に捉えるための基本フレームワークであり、今日のサステナビリティ経営に欠かせない概念となりました。導入で述べたように、自社の直接排出からサプライチェーン全体に至るまで網羅的に把握・削減していくことが、脱炭素社会に向けた企業の責任であると同時に、新たな競争力の源泉ともなりつつあります。本記事で解説したように、Scope1〜3の起源はGHGプロトコルに遡り、国際合意や規制の進展と歩調を合わせて企業実務に浸透してきました。今や多くの先進企業が具体的なメリットを享受しながら取り組みを進めており、対応しないリスクは増す一方です。


私たち株式会社Green Guardianでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたScope3算定サポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。

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