【2026年最新】記録的な大雨でも水リスクは高まる?企業が知っておきたい理由とウォーターフットプリント
- 7月9日
- 読了時間: 11分
こんにちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
2026年7月8日、気象庁は九州北部・中国・近畿の梅雨明けを発表しました。
平年より11日も早い梅雨明けです。
今年の梅雨は、佐賀で平年の2倍を超える雨が降るなど、各地で記録的な大雨に見舞われました。
「たくさん降った」けど「早く終わった」——そんな夏です。
ここで一つ、素朴な疑問が浮かびます。
あれだけ雨が降ったのに、それでも「水不足」や「水リスク」を心配しなければならないのでしょうか?
実はこの問いこそが、いま企業に求められている水リスク開示の本質に直結しています。
今日は、梅雨明けというタイムリーな話題を入り口に、「雨が多い=水が豊富」ではないという逆説と、それをどう自社の経営課題として捉えればよいのかを、一緒に考えていきたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
1.記録的な雨のあとに、なぜ渇水を心配するのか
まず、今年の梅雨をおさらいします。
2026年7月8日、気象庁は「九州北部(山口県を含む)、中国、近畿が梅雨明けしたとみられる」と発表しました。
3つの地方とも平年(7月19日ごろ)より11日早く、梅雨明けと同時に各地で猛暑日となり、熱中症への警戒が広く呼びかけられました。
一方で、今年の梅雨は決して「雨が少なかった」わけではありません。
むしろ逆です。
梅雨入りから梅雨明け前日までの降水量(速報値)を見ると、次のようになっています。
地点 | 今年の梅雨の降水量 | 平年値 | 平年比 |
福岡 | 582.0mm | 342.2mm | 約1.7倍 |
広島 | 517.5mm | 319.5mm | 約1.6倍 |
大阪 | 410.5mm | 235.2mm | 約1.7倍 |
佐賀 | 908.5mm | 447.2mm | 約2.0倍 |
※降水量は速報値。梅雨入り(6月4日ごろ)から梅雨明け前日(7月7日)までの積算。
佐賀にいたっては平年の2倍を超える雨量です。
東京都心でも6月の降水量が436.5mm(平年比260%)と60年ぶりに400mmを超えるなど、今年の梅雨は全国的に「よく降った」のです。
ここで冒頭の疑問に戻ります。
これだけ降ったのに、なぜ渇水リスクについて考えなければならないのでしょうか。
答えは「タイミング」と「偏り」にあります。
2.豪雨でも渇水が起こる理由──1994年の教訓
梅雨明けが早いということは、盛夏に向けて水を蓄える期間が短くなるということです。
そこへ猛暑と少雨が重なると、貯めたはずの水は一気に枯れていきます。
この「早い梅雨明け→猛暑→少雨」というパターンが最悪の形で現れたのが、平成6年(1994年)の大渇水でした。
この年も、異常に早い梅雨明けと記録的な猛暑から始まりました。
給水制限や断水を実施した都道府県はのべ42にのぼり、影響を受けた人口は約1,666万人、農業被害は1,409億円に達しました。
四国最大の早明浦ダムは貯水率0%まで干上がり、福岡市の断水は延べ295日に及びました。岡山・水島の製鉄所や化学工場は減産を迫られ、ある化学メーカーは他県から海上輸送で工業用水を確保する事態にまで追い込まれました。
重要なのは、1994年が「豊水」と無縁の年ではなかったという点です。
局地的な豪雨は洪水リスクを高める一方で、流域全体の安定的な供給には必ずしも寄与しません。
大雨で貯めても、その後の少雨と猛暑で使い切れば渇水になる。
豊水と渇水は、同じ気候変動という一枚のコインの裏表なのです。
3.降水は「二極化」している——構造的なトレンド
そしてこれは、"たまたま今年だけ"の現象ではありません。
日本の降水は構造的に「極端化」しています。
気象庁の観測データによれば、アメダス観測による日降水量200mm以上の年間日数は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)と最近10年間(2015~2024年)を比べると約1.5倍に増えています。
1時間に50mm以上の激しい雨(短時間強雨)も、同じく最初の10年間と最近10年間で約1.5倍に増加しました。
その一方で、日降水量1.0mm未満の「雨の降らない日」そのものは増加傾向にあります。
つまり、「雨の降らない日が増え、降るときはまとめて降る」という二極化が進んでいるのです。
これが企業の水リスクの本質です。
年間の総雨量は大きく変わらなくても、洪水と渇水の「振れ幅」が拡大していく。
今年の梅雨が示した「記録的多雨のあとの早い梅雨明け」は、まさにこの二極化の一例だといえます。
4.水リスクは「水量」ではなく「希少性」で評価する
ここで、発想の転換が必要になります。
「今年は雨が多かった/少なかった」という量の議論だけでは、企業の水リスクはほとんど説明できません。
本当に重要なのは、「その水を、いつ、どこで、どれだけの競合のなかで使えるか」という希少性(scarcity)です。
意外に思われるかもしれませんが、日本は年間降水量こそ多いものの、国土が狭く人口が多いため、国民一人あたりの水資源量は世界平均を下回ります。
しかも季節や地域による偏りが大きく、「降るときは一気に降り、必要な時期に足りない」という構造を抱えています。
降水量が多い=水が豊富、ではない。 同じ1立方メートルの水を使うのでも、それが水の豊かな地域・時期なのか、逼迫した地域・時期なのかで、環境と事業に与える意味はまったく異なります。 この「希少性で測る」という視点こそが、いま国際的な開示フレームワークが企業に求め始めているものです。 |
5.TNFDとCDPが企業に求め始めていること
「希少性ベース・地域別」の水評価を、具体的に企業へ要求し始めているのが、TNFDとCDPです。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然に対して持つ「依存」と「影響」の双方向を評価することを求めており、水については流域という地域単位での把握が推奨されています。
TNFDに沿った開示を表明した企業は世界で700組織を超え、なかでも日本は世界最多の採用国となっています。
水についても、TNFDは「どの拠点が、どれだけ水ストレスの高い流域に依存しているか」の把握を促しています。
CDP Water Securityも同様です。
CDPは水を単なる「使用量」ではなく、流域の水ストレスのもとでの取水・排水・リスク管理として問います。
「管理するには、まず測定しなければならない」——これはCDPが繰り返し掲げてきた考え方です。
日本国内でも、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の開示基準が確定し、プライム市場の企業から段階的に義務化されていく見込みです。
自然や水に関する情報開示は、いまや「任意でやるもの」から「事実上やらなければならないもの」へと移行しつつあります。
実際に、飲料メーカーや化学メーカーでは、世界中の自社拠点を流域単位で評価し、特定の季節に水の需給が逼迫しうる拠点を具体的に洗い出す動きが始まっています。
水リスクの開示は、もはや先進企業だけの取り組みではなくなってきているのです。
6.希少性を数値にする——ISO14046とAWARE
では、企業はどうやって「希少性」を数値にすればよいのでしょうか。
ここで国際標準が答えを用意しています。
ISO 14046(ウォーターフットプリント)は、単なる取水量ではなく「水希少性フットプリント」を定義します。
これは、消費した水の量に、その地域・時期の希少性を反映する重み(特性化係数)を掛け合わせて算出するものです。
その特性化係数の国際標準がAWARE(Available WAter REmaining)です。
AWAREは「人間の活動と生態系のニーズを満たしたあとに、その地域に残された利用可能な水量」を数値化します。
言いかえれば、「この地域で水を使うと、他の利用者(人や生態系)からどれだけ水を奪う可能性があるか」を問う指標です。
AWAREの係数は、世界平均を1として、0.1から100の範囲で表されます。
値が10であれば「世界平均の10倍、水が残っていない地域」を意味します。
ここが決定的に重要なのですが、AWAREは月単位・流域単位で計算されます。 同じ日本国内でも、豪雨の月と渇水の月では係数が大きく変わります。 つまりAWAREは、2026年の梅雨が示した「多雨と渇水の同居」を、そのまま数値に落とし込める枠組みなのです。 降水量では見えない希少性が、AWAREでは見えるようになります。 |
弊社(株式会社GreenGuardian)が提供しているウォーターフットプリント評価は、このISO 14046・AWAREに準拠しています。
自社拠点だけでなくサプライチェーン全体の水消費を、地域・時期ごとの希少性で重み付けして評価します。
これはTNFDが求める流域単位の依存・影響評価にも、CDP Waterが求める水ストレス下のリスク開示にも、そのまま接続できるものです。
7.半導体も、食品も、繊維も——他人ごとではない水リスク
希少性のリスクは、決して抽象論ではありません。
水依存度の高い産業では、気象の極端化が直接、操業と調達を止めます。
半導体の例が象徴的です。
2021年、台湾は56年ぶりの大干ばつに見舞われ、政府は工業用水の削減に踏み切りました。
直撃を受けたのが、世界有数の半導体受託製造企業であるTSMCです。
半導体の製造には大量の超純水が必要で、TSMCはタンクローリーで水を確保するという異例の事態に追い込まれました。
水が止まれば、その影響は一つの工場にとどまらず、世界のサプライチェーン全体に広がります。
食品・飲料も水依存の高い産業です。
前述のとおり、飲料メーカーでは特定の季節に水の需給が逼迫しうる拠点が現実に存在します。
原料となる農産物の栽培も、大量の水に支えられています。
繊維はどうでしょうか。
WWFジャパンの試算では、日本のウォーターフットプリントは畜産と繊維(テキスタイル)が大きな割合を占めます。
綿花の栽培や染色には膨大な水が使われ、その多くは水ストレスの高い地域での生産に依存しています。
そして日本は、食料自給率がカロリーベースで38%と低く、輸入を通じて海外の水に大きく依存しています。
海外の水ストレス地域で起きる豪雨や干ばつは、日本企業の調達リスクに直結します。
今年の梅雨が示した気候変動のサインは、国内拠点だけの問題ではなく、グローバルなサプライチェーンの水リスクを映す鏡でもあるのです。
8.企業は何から始めればよいのか
では、具体的に何から手をつければよいのか。
3つの段階でご提案します。
◆第1段階:スクリーニング
まず、自社と主要サプライヤーの全拠点を、無料で使えるWRI Aqueductなどの水ストレスマップでスクリーニングします。
「水ストレスが高い」拠点を洗い出すことが、あらゆる評価の出発点になります。
◆第2段階:希少性評価
高ストレス拠点と水依存度の高い調達品について、ISO 14046・AWAREに準拠したウォーターフットプリント評価を行います。
「量」ではなく「希少性」で水消費を見直し、季節変動(多雨の月と渇水の月)まで織り込みます。
ここが、弊社のような専門コンサルがお手伝いできる領域です。
◆第3段階:開示と対策
評価結果をTNFDやCDP Water Securityの開示につなげます。
優先度の高い拠点では、節水・水循環・代替水源の確保や事業継続計画(BCP)を策定し、財務影響の評価につなげていきます。
大切なのは、完璧を目指して立ち止まるのではなく、まず第1段階のスクリーニングから始めてみることです。
無料ツールで自社拠点を眺めてみるだけでも、「意外なあの拠点が高ストレスだった」という気づきが得られるはずです。
9.まとめ
今年の梅雨は、記録的な大雨と、平年より11日早い梅雨明けという、一見矛盾した姿を見せました。
しかしこれは矛盾ではなく、降水の二極化という構造的なトレンドの一例です。
• 雨が多くても、時期と場所が偏れば水は逼迫する(豊水と渇水は裏表)
• だから水は「量」ではなく「希少性」で測る必要がある
• TNFDとCDPは、まさにこの希少性ベースの水評価を企業に求め始めている
• ISO 14046・AWAREを使えば、希少性を月単位・流域単位で数値化できる
今年の梅雨が示した気候変動のサインを「今年は変な天気だったね」で終わらせるのか、それとも「自社の水リスクを見直すきっかけ」にするのか。
その差は、数年後の開示対応や事業継続力に、確実に効いてきます。
水リスクの「見える化」、始めませんか? 弊社Green Guardianでは、ISO 14046・AWAREに準拠したウォーターフットプリント評価を通じて、企業の皆さまの水リスクの「見える化」をお手伝いしています。「まず自社の状況を知りたい」という段階からで構いません。 お気軽にご相談ください。 |

参考文献
[1] 気象庁「令和8年(2026年)の梅雨入り・梅雨明け(速報値)」 https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/baiu/kongetsu_baiu.html
[2] 気象庁「日本の気候変動2025」(大雨・短時間強雨の長期変化傾向) https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html
[3] 気象庁「災害をもたらした気象事例(平成6年 列島渇水)」 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index_1994.html
[4] 国土交通省「渇水対策・全国のダム貯水状況」 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000015.html
[5] WULCA, “What is AWARE (Available WAter REmaining)?” https://wulca-waterlca.org/aware/what-is-aware/
[6] Boulay et al. (2018) The WULCA consensus characterization model for water scarcity footprints (AWARE), Int J LCA https://link.springer.com/article/10.1007/s11367-017-1333-8
[7] TNFD 公式サイト(Adopters/セクターガイダンス) https://tnfd.global/
[8] CDP “Water Security” 質問バンク https://www.cdp.net/en/water
[9] WRI Aqueduct Water Risk Atlas https://www.wri.org/aqueduct
[10] WWFジャパン「日本のウォーターフットプリント」 https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4586.html
[11] 農林水産省「令和6年度 食料自給率」 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
[12] 気象庁「過去の気象データ(東京・2026年6月の月合計降水量)」 https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/monthly_s1.php
[13] TSMC「Climate and Nature-related Statements, Policies and Reports(水資源管理・渇水対応)」 https://www.tsmc.com/english/aboutTSMC/dc_climate_business
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