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【LCAコンサルタントが解説】水リスクとは?日本・世界の制度と企業対応の考え方

  • 4月30日
  • 読了時間: 15分

こんにちは!

LCAコンサルタントの小野あかりです。


 以前、「企業の水リスクとは?ウォーターフットプリントで見るサプライチェーンと経営リスク」という記事で、水リスクの基本的な考え方や、ウォーターフットプリント(WF)の概要、企業の財務への影響をお伝えしました。

今回はその続編として、「日本・世界にどんな制度・フレームワークがあるのか」に焦点を当てて解説していきます。


 水の環境リスクとは、気候変動・人口増加・産業活動によって水資源の確保が困難になることで生じる、事業継続・財務・評判に関わるリスクのことです。

前編でもご紹介したとおり、CDP 2024 Global Water Reportによると、企業が直面する水リスクの潜在的な財務影響は約50兆円にのぼります。この数字を「何とかしなければ」と思ったとき、次に知るべきなのが「世界と日本に、どんなルール・物差しが存在するのか」です。

今回は、その全体像をわかりやすく丁寧に解説します。ぜひ最後までお付き合いください。



目次


1.水の環境リスクとは何か?基礎知識から整理する

 水の環境リスクは、大きく以下の3種類に分類されます。

リスクの種類

内容

企業への影響例

物理的リスク

水の量・質・タイミングの変化

干ばつによる生産停止、洪水による設備損傷

規制リスク

水に関する法規制の強化

排水規制強化によるコスト増、取水制限

評判リスク

ステークホルダーからの評価低下

水源地での過剰取水への批判、投資家からの圧力

物理的水不足と経済的水不足の違い

水不足には2種類あり、混同されがちなので整理しておきましょう。

◆物理的水不足とは・・・

自然界に水そのものが存在しない、または極めて少ない状態です。中東・北アフリカ地域、インド北部、中国の乾燥地帯などが典型例です。


◆経済的水不足とは・・・

水は自然界に存在するにもかかわらず、インフラや資金の不足によって人々が水にアクセスできない状態です。サハラ以南アフリカの一部地域がこれにあたります。


 重要なのは、どちらの水不足も「その地域で操業・調達する企業のリスク」に直結するという点です。

自社の工場がなくても、サプライヤーが水ストレス地域に位置していれば、そのリスクは間接的に自社に波及します。


 台湾のTSMCやメキシコのConstellation Brandsの事例など、具体的な企業の水リスク事例については前編で詳しく取り上げています。ぜひ合わせてご覧ください。



  2.なぜ今、水リスクが企業の経営課題になっているのか?

 IPCC第6次評価報告書(AR6)では、気候変動や社会経済の変化により、水需要や水利用可能性の地域差がさらに大きくなることが指摘されています。

人口増加と経済発展が重なる新興国での水需要増が主な要因です。

 国連の「The Sustainable Development Goals Extended Report 2025」によれば、2022年時点で22億人が安全に管理された飲料水を利用できず、35億人が安全な衛生施設を欠いています。

目標達成には現在の進捗速度を6倍に加速させる必要があると指摘されており、2030年の達成は現状では極めて困難な状況です。

 また、1970年から2019年の間に発生した災害を分析すると、洪水関連の災害が件数全体の44%、経済損失全体の31%を占めています(IPCC 第6次評価報告書)。

干ばつは件数こそ7%に過ぎませんが、死者数の34%を占め、その大部分がアフリカで発生しています(IPCC 第6次評価報告書)。

 

 CDPの2024年開示データに基づく試算では、企業が直面する水関連リスクの潜在的な財務影響は3,390億ドル、対策費は587億ドルとされています。

これは、対策しないことによる影響額が、対策費の約6倍に相当する計算です。

こうした数字の背景や、世界最大の資産運用会社BlackRockをはじめとする金融機関の動向については、過去の記事でさらに詳しく解説しています。



  3.世界の主要な水リスク制度・フレームワーク

企業が知っておくべき国際的な水リスク制度とフレームワークを6つ、比較表を交えながら解説します。

フレームワーク早見表

フレームワーク

発行元

主な対象

特徴

ISO 14046

ISO

製品・組織

ウォーターフットプリント評価の国際規格

TNFD

TNFD

企業

自然(水含む)関連の財務情報開示

CDP Water

CDP

企業

水セキュリティの投資家向け開示

WRI Aqueduct

WRI

地域・拠点

水リスクの地図可視化ツール(無料)

EU水枠組み指令

EU

加盟国・企業

欧州の法的水管理基準

SDGs Goal 6

国連

政府・企業

2030年目標としての水・衛生


3-1.ISO 14046 ウォーターフットプリント国際規格

 ウォーターフットプリント(WF)とは、製品・サービスのライフサイクル全体にわたる水の使用量や消費量と、その環境への影響を定量化する指標です。

ISO 14046:2014は、このウォーターフットプリントを評価するための国際規格です。

重要なのは、単純な「水量」ではなく、地域の水ストレスや水質劣化も加味して評価する点です。

水が豊富な地域での100トンの水使用と、水ストレスが極めて高い地域での100トンの水使用は、環境への影響が全く異なります。

ISO 14046はこの「地域性」を国際的に統一された手法で評価するための基準です。


 WFの具体的な数値(コーヒー1杯・牛肉1kg・スマートフォン1台に使われる水の量など)や「どこで使うかでリスクが変わる」という考え方については、過去の記事でより詳しくご紹介しています。

なお、当社代表の小野雄也は2009年に水の原単位データベースを開発し、LCA(ライフサイクルアセスメント)における水評価の先駆的な研究を行ってきました。

この分野の深さと実務への活かし方については、[水のインベントリデータベース開発者が語る]記事もぜひ参照してみてください。


3-2.TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)

 TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)とは、企業の事業活動が自然(生物多様性・水・土地・海洋)に与える依存と影響を開示・評価するための枠組みです。

2023年9月に最終勧告が公表され、2025年4月にはIFRS財団とのMOU(覚書)が締結されました。

 TNFDの評価アプローチ「LEAP」では、Locate(地域特定)→ Evaluate(評価)→ Assess(リスク・機会の評価)→ Prepare(開示準備)の4ステップで自然関連リスクを特定します。

このLocate段階では、WRI Aqueductなどの水リスクマップを活用し、拠点やサプライチェーンの水ストレス地域を把握することが有効です。

 水と生物多様性が「セットで管理される時代」が始まっています。過去の記事でご紹介した日本企業の対応状況(TNFD採用企業数・開示の質の課題)と合わせて読むと、制度と実態の両面が理解できます。


3-3.CDP Water Security(水セキュリティ)

 CDPは、企業・自治体の環境情報開示を促進する英国登録の非営利団体(慈善団体)です。毎年、投資家・金融機関を代表して企業に対し、気候変動・水セキュリティ・森林の3テーマで質問書を送付しています。

 CDPのデータによれば、世界の淡水取水量の88%が産業と農業によるものであり、企業が水資源に与える影響の大きさは明らかです。CDPへの水開示は、投資家・取引先からの信頼性を高める上でも重要性が増しています。


3-4.WRI Aqueduct(水リスクアトラス)

 WRI(World Resources Institute)が公開するAqueduct(アクエダクト)は、世界の流域ごとの水リスクを可視化する無料ツールです。

2023年に公表されたAqueduct 4.0では、ベースライン水ストレス・洪水・干ばつ・地下水位低下・水質など複数の指標をもとに、世界の流域の水リスクを地図上で確認できます。

 TNFDのLEAPアプローチでは、このLocate段階でAqueductを使った地域スクリーニングが推奨されています。

「自社の拠点・主要サプライヤーがどれほど水リスクの高い地域に立地しているか」を把握する第一歩として、ぜひ活用してみてください。


3-5.EU水枠組み指令(Water Framework Directive)

 EU水枠組み指令(WFD:Water Framework Directive)は、2000年に採択された欧州の水管理に関する基本法です。

EU加盟国の河川・湖沼・地下水・沿岸水域を「良好な状態(good status)」に保つことを義務付け、流域(River Basin District)単位での統合管理を6年周期の計画で実施することを定めています。

 企業にとって重要なのは、EU市場に製品を輸出する企業や欧州にサプライヤーを持つ企業が、この指令に基づく水質規制・取水規制の影響を受ける可能性があるという点です。

また、PFAS(有機フッ素化合物)をはじめとする化学物質の排水規制強化もWFDの枠組みで進んでおり、今後さらに厳格化が見込まれています。


3-6.SDGs Goal 6(安全な水とトイレを世界中に)

 SDGs(持続可能な開発目標)の目標6は、2030年までに「すべての人々に安全な水と衛生へのアクセスを確保する」ことを掲げています。

 国連「The Sustainable Development Goals Extended Report 2025」によると、越境河川の協力体制については、153カ国のうち90%以上の流域で運用取り決めがある国は43カ国に留まっています。 水問題は一国だけでは解決できない国際課題であることを示す数字です。



  4.日本の水リスク制度状況——法律・政策の全体像

 日本の水政策を理解するには、複数の省庁と法律が関係していることを知っておく必要があります。


4-1.水循環基本法と水循環基本計画

 水循環基本法(2014年制定)は、水循環に関する施策を総合的・一体的に推進するための基本法です。内閣官房に設置された水循環政策本部(本部長:内閣総理大臣)が、省庁横断で水政策を調整しています。

 2024年8月30日には新「水循環基本計画」が閣議決定されました。新計画の4本柱は以下の通りです。

 1. 代替性・多重性による水の安定供給

 2. 上下水道の一体的・持続可能な再構築

 3. 2050年カーボンニュートラルへの貢献

 4. 流域総合水管理の推進

 企業にとって特に注目すべきは、「2050年カーボンニュートラルへの貢献」です。水処理施設は大量のエネルギーを消費するため、水管理の効率化がGHG(温室効果ガス)削減にも直結します。

水とエネルギーの問題は、切り離して考えられない時代になっています。


4-2.環境省の水環境政策

 環境省は、水質汚濁に係る環境基準の設定と、工場・事業場からの排水規制の監督を担っています。

近年の大きな注目トピックはPFAS(有機フッ素化合物)規制です。PFOAやPFOSをはじめとするPFASは、自然界でほぼ分解されないことから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれ、環境・健康への影響が世界的に懸念されています。

 PFOS・PFOAについては、暫定目標値の運用や水道水質基準化に向けた議論が進んでおり、2026年4月からは水道事業者による検査義務の強化も予定されています。

製造業・化学メーカー・電子部品業界は特に注意が必要です。

 また環境省はTNFDへの参画を表明し、2024年のCOP16(生物多様性条約締約国会議)では約50万ドルの拠出を決定しています。

水と生物多様性の関係を政策的に重視する姿勢が明確になっています。


4-3.国土交通省の水資源管理

 2024年には上水道行政が厚生労働省から国土交通省へ移管され、上下水道の一体管理体制が整いました。

国土交通省 水管理・国土保全局によると、日本の水資源の概況は以下の通りです。

・年間降水量:約6,600億m³

・水資源賦存量(利用可能量):約4,300億m³

・年間水使用量:約785億m³


 一見、水が豊富に見える日本ですが、地域差・季節差が大きく、渇水リスクが全くないわけではありません。

2023年10月に公表された「リスク管理型の水資源政策の深化・加速化について」では、気候変動による渇水・洪水の激化に対応した事前のリスク管理を求める方向性が明確に示されています。



  5.日本企業が直面する「見えない水リスク」

 日本国内の水環境は比較的良好ですが、問題は海外サプライチェーンにあります。

産業技術総合研究所(産総研)の分析によると、日本のウォーターフットプリントのうち、海外で誘発する水消費量は53.2 billion m³(約530億立方メートル)にのぼります。

これは、仮想水貿易によって削減できた国内水消費量の3倍に相当する規模です。

仮想水(バーチャルウォーター)とは、農産物・製品の輸入を通じて、その生産に使われた水を間接的に輸入することです。

日本は食料自給率が低いため、大量の仮想水を海外から「輸入」しています。

その輸入先の多くは、タイや東南アジアなど水ストレスが高い地域を含んでいます。

同研究によれば、日本の食料や製品消費は、タイをはじめとする海外流域の水資源に対して大きな依存と責任を負っているとされています。


 つまり、日本企業のサプライチェーンは、一見、水リスクと無縁に見えても、実は水ストレスが高い地域に深く依存している可能性があるのです。

 この「見えない水リスク」を把握するために有効なのが、WRI Aqueductによる地域スクリーニングと、ISO 14046に準拠したウォーターフットプリント評価です。

TNFD対応が求められる企業には、まずサプライチェーンの地理的マッピングと水リスクスクリーニングの実施が推奨されます。



  6.企業が今すぐ取り組むべき3つのステップ

 「水リスクは重要そうだけど、何から始めればいいかわからない」という方のために、実務的な入口を整理しました。


ステップ1:自社に関係する制度・開示フレームワークを把握する

 まず、自社がどの開示制度・フレームワークの対象になるかを整理しましょう。

CDP Water質問書を受領しているか、EU市場向け輸出でWFDの影響を受けるか、TNFDに対応した自然関連リスクの開示が求められているか——これらを確認するだけで、優先的に対応すべき制度が見えてきます。


ステップ2:水使用量・排水量のデータ収集を始める

 CDPやTNFDへの対応を見据えると、取水量・排水量・水質データの把握が不可欠です。まずは自社工場・事業所の水使用量データを整備し、可能な範囲でサプライヤーへのデータ要請も検討しましょう。

「測れないものは、管理できない」——この原則は水にも当てはまります。


ステップ3:LCAを活用してウォーターフットプリントを評価する

製品のライフサイクル全体での水使用・水への影響を定量化するには、ISO 14046に準拠したウォーターフットプリント評価が有効です。

LCA(ライフサイクルアセスメント)のアプローチを用いることで、製品のどの工程・どの調達先で水リスクが集中しているか(ホットスポット)を特定できます。

 この評価結果を、CDP開示やTNFD対応、ステークホルダーへの説明に活用することで、「やって終わり」ではなく経営判断に役立つ情報として機能します。


  7.まとめ

 この記事では、水の環境リスクについて基礎から日本・世界の制度状況、企業の実務対応まで幅広く解説しました。

改めて重要なポイントを整理します。

◆水リスクは企業の財務リスクにもなり得ます ◆世界的に水需要は増加し、供給は不安定化しています

◆国際的にはISO 14046・TNFD・CDP Waterなど、開示・評価フレームワークの整備が急速に進んでいます

◆日本国内では水循環基本計画(2024年改定)やPFAS規制など、制度整備が進行中です

◆日本企業の水リスクの多くは、海外サプライチェーンに潜む「見えない水リスク」です(産総研)


「やって終わりではなく、しっかり活用する。これは投資であり、損をさせない」

——これが私たちGreenGuardianの信念です。

水リスク評価も、数字を出して終わりではなく、経営判断・調達戦略・ステークホルダーコミュニケーションに活かしてこそ意味があります。

本記事と過去編を合わせてお読みいただくことで、「水リスクとは何か・なぜ怖いのか(過去編)」と「世界・日本にどんな制度があるのか(本記事)」の両面が揃います。

ぜひセットでご活用ください。

一緒に、しっかりと使える水リスク対策を進めていきましょう!

もしここまで読んで、

「自社の水リスク、正直よく分からない」

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と感じた方は、一度状況を整理するだけでも大丈夫です。

 

GreenGuardianでは、

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などについて、初回相談を無料で受け付けています。

また、GreenGuardianでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。

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「まだ質問としてまとまっていない」「少し話しながら整理したい」 といった段階でも構いません。

必要に応じて、評価の考え方や進め方を一緒に整理させていただきます。

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参考文献・情報源

【国際機関・条約】

· IPCC(気候変動に関する政府間パネル)「第6次評価報告書(AR6)第II作業部会 第4章:水」(2022年) https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg2/chapter/chapter-4/

· 国連「The Sustainable Development Goals Extended Report 2025 — Goal 6: Clean Water and Sanitation」 https://unstats.un.org/sdgs/report/2025/extended-report/Extended-Report-2025_Goal-6.pdf

· 国連持続可能な開発目標(SDGs)Goal 6 公式ページ https://sdgs.un.org/goals/goal6

· 欧州委員会「EU水枠組み指令(Water Framework Directive)」(2000年採択) https://environment.ec.europa.eu/topics/water/water-framework-directive_en

【国際規格・評価フレームワーク】

· ISO「ISO 14046:2014 Environmental management — Water footprint」 https://www.iso.org/standard/43263.html

· TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)「最終勧告(Final Recommendations)」(2023年9月) https://tnfd.global/recommendations/

· CDP「Water Security」 https://www.cdp.net/en/water

· WRI「Aqueduct Water Risk Atlas(Aqueduct 4.0)」(2023年) https://www.wri.org/aqueduct

【日本の行政機関】

· 内閣官房 水循環政策本部事務局「水循環基本計画」(2024年8月30日閣議決定) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mizu_junkan/

· 環境省 水・大気環境局「水環境関係」 https://www.env.go.jp/water/mizu.html

· 環境省「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に対する拠出について」(報道発表) https://www.env.go.jp/press/110354.html

· 国土交通省 水管理・国土保全局 水資源部「リスク管理型の水資源政策の深化・加速化について」(令和5年10月) https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/index.html

【研究機関】

· 産業技術総合研究所(産総研)「日本のウォーターフットプリント分析」 https://riss.aist.go.jp/research/20230907-2672/

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