企業の水リスクとは?ウォーターフットプリントで見るサプライチェーンと経営リスク
- 4 時間前
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こんにちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
今回は”企業”と”水”がテーマです。
気候変動対策と言えばCO2と思われがちですが、近年"水"も重要なテーマとなってきました。
なぜ重要なテーマになってきたのか、日本の中で既に対応している企業はあるのか、といった点を分かりやすく解説していきたいと思います。
目次
1.水リスクとは?
「水が足りなくて工場が止まる」——そんな話、日本にいるとどこか遠い国の出来事のように聞こえます。
日本に居れば、川はいつも流れていて、蛇口をひねれば水が出て、水に困った記憶がほとんどない、という方がほとんどかもしれません。
でも、その「当たり前」が大きく揺らぎ始めています。
2025年の夏、日本各地で記録的な渇水が発生しました。
関東 1 都 5 県の水源となっている利根川水系では、栗橋上流域(利根川上流 9 ダムの集水域を含む)の 8 月降水量が 98 mm と平年(207 mm)の 47% にとどまり、6 月(78%)・7 月(74%)から続いた少雨により、9 月 1 日時点の 9 ダム合計貯水率は 45%(平年 62%)まで低下しました。
国土交通省は渇水対策支部を設置する事態となりました。
関西でも深刻な状況が起きています。
兵庫県の加古川では2025年8月、加古川下流部渇水調整協議会が取水制限を決定。工業用水で15%、農業用水で25%の制限が段階的に実施され、加古川市は1994年以来31年ぶりに上水道渇水対策本部を設置しました。
さらに2026年3月には、横浜市が水源ダムの貯水率低下を理由に「異常渇水対策警戒体制」を確立。国土交通省も2025年12月に渇水情報連絡室を設置し、現在も中部・近畿・四国・九州の4つの地方整備局が渇水対策本部を稼働させています。
水不足は、もはや新興国だけの問題ではありません。
さらに、水不足は「水リスク」として企業の財務を直撃する現実の問題になっています。
水リスクとは、水不足・水質汚染・洪水・規制強化・地域住民との対立などにより、企業の操業やサプライチェーン、財務に影響が生じるリスクを指します。
今回は、水リスクを「見える化」するための考え方、ウォーターフットプリント(WF)についてお話しします。
2.水不足はサプライチェーンを止める
世界では現在、約40億人が年に1ヶ月以上、深刻な水不足を経験しています。
国連でも引用されている試算では「現在のペースで水を使い続ければ、2030年には世界の水需要が供給を40%上回る(需給ギャップが40%に達する)」と試算しています。
「それは新興国の話でしょ」と思いたいところですが、そうではないのです。
2021年、台湾では56年ぶりの大干ばつが起きました。
直撃を受けたのが、世界の先端半導体の9割以上を生産するTSMCです。
半導体の製造には大量の超純水が必要で、TSMCはタンクローリーで水を調達するという異例の事態に追い込まれました。
水不足は半導体生産への打撃の一因となり、折からの半導体不足とも相まって、トヨタやGMなど世界の自動車メーカーの減産が相次ぎました。
水が止まれば、特定の工場だけでなく、サプライチェーン全体に影響が広がる。そういう時代に入っています。
3.ウォーターフットプリントとは?
こうした水リスクを「数値で見える化する」ための指標の一つとして、ウォーターフットプリント(WF)があります。
ウォーターフットプリントとは、製品やサービスのライフサイクル全体で消費・汚染される水の量を見える化する考え方です。
例えば、コーヒー1杯(約125ml)を作るのに、その背景では約140リットルの水が消費されています。コップに入っているのはほんの少しなのに、なぜそんなに? その答えが、WFのポイントです。
WFを使うと、ある製品や事業活動に関わるすべての工程で使われた水の使用量や消費量を把握することができます。
コーヒーの場合、コーヒー豆の栽培に使われた雨水、農場の灌漑水、加工・輸送・抽出のプロセスまで含めた「水の総量」が140リットルになります。
カーボンフットプリント(CO₂排出量)の「水版」と考えると、イメージしやすいかもしれません。
身近な製品のWFを見ると、その大きさに驚かされます。
· 牛肉1kg:約15,400リットル
· 綿のTシャツ1枚:約2,700リットル
· スマートフォン1台:約13,000リットル
総量だけではなく、どんな水(取水源)を使ったのかも重要です。
例えば、雨水や地下水、河川や湖沼などの表層水がありますが、場所によってその希少性や影響が異なると考えられるからです。
水量の他にも水質があります。
単純にBODやCODを基準にするという考えもありますし、汚染された水を基準値まで薄めるのに必要な水量を基準にすることもあります。
4.水リスクは「どこで使うか」で決まる
ここが、水リスクを考えるうえでいちばん大切な話です。
企業が「節水を頑張っています」と言っても、それだけでは不十分な時代になっています。なぜなら、同じ1リットルの水でも、使う場所によってリスクがまったく違うからです。
水資源が豊富な地域で使う水と、深刻な水不足地域で使う水では、環境への影響も、事業継続リスクも、桁違いに異なります。
メキシコのメヒカリでは2020年、飲料メーカーのConstellation Brandsが当初14億ドル(当時のレートで約1,500億円)の投資計画で建設中だったビール工場を、地元住民の反対で断念しました。
深刻な水不足の地域に大量の水を消費する工場を作ろうとしたことへの抗議です。
建設はおよそ7割まで進んでいましたが、住民投票の結果が出た翌取引日に株価は約12%下落しました。
「使う量」だけ管理していても、「どこで使うか」を見誤ると、完成直前のプロジェクトが丸ごと消えてしまう——水リスクの怖さはここにあります。
5.水リスクは財務に直結する
こうした背景から、企業の水リスクへの向き合い方が、投資判断や融資条件にも影響するようになってきました。
CDPが2024年に8,500社超のデータをもとに試算した結果、企業が直面する水リスクの潜在的な財務影響は総額約50兆円。
一方、今すぐ対策に必要となるコストは約8.8兆円で済みます。
つまり、対策しないことのコストは対策するコストの約6倍という計算になります。
世界最大の資産運用会社BlackRockは2025年、投資先企業へのエンゲージメント方針として「水」を明示しました。
また、17.6兆ドル規模の機関投資家グループが食品・アパレル・ハイテク企業に対し、水への取り組みを求めるエンゲージメントを進めています。
金融機関の動きも変わっています。
オーストラリアのデータセンター大手では、「水の使用効率」を融資金利に直結させるサステナビリティ・リンク・ローンが組まれています。
水の使い方が悪ければ金利が上がり、良ければ下がる、という仕組みです。
6.日本企業の水リスク対応の現状と課題
一方、日本企業の状況は「量は多いが、質はこれから」という段階にあります。
自然関連財務情報開示(TNFD)の参加企業数では、日本は世界1位(約180社)。サントリーや花王、キリンHDなど、水リスク評価で世界トップ評価を受けている先進企業も多くいます。
ただし、WWFジャパンが日本企業65社のTNFD開示を調査したところ、採用したマテリアリティ・アプローチを明示できていた企業は13社(全体の約2割)にとどまりました。多くの開示は、外部ツールを活用した一般論的な分析にとどまり、自社の事業活動と自然との依存・影響関係を、場所に基づいて分析できている企業はごく一部であると指摘されています。
水の内部価格(社内でのコスト計算に水の価値を組み込む仕組み)を導入している企業は、CDPの調査では全体のわずか5%です。
7.おわりに
ウォーターフットプリントを把握することは、今や環境への配慮というより、経営リスクを管理するための基本ツールになりつつあります。
自社のサプライチェーンのどこに水リスクが潜んでいるか。
どの地域の水依存度が高いか。
そこが干ばつや水不足になったとき、事業にどんな影響が出るか。
そうした問いに答えを持てるかどうかが、これからの経営の土台になっていきます。
「節水している」から大丈夫ではなく、「どこで、どれだけの水を、どんなリスクのある地域で使っているか」まで把握して初めて、水リスクに向き合えたと言えます。
その「ものさし」が、ウォーターフットプリントです。
水リスクに向き合う企業と、そうでない企業。
その差は、これから確実に広がっていきます。
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参考資料
· Mekonnen & Hoekstra (2016). "Four billion people facing severe water scarcity." Science Advances.
· 2030 Water Resources Group / McKinsey (2009). Charting Our Water Future.
· Chapagain & Hoekstra (2007). "The water footprint of coffee and tea consumption." Ecological Economics.
· Mekonnen & Hoekstra (2010). The green, blue and grey water footprint of animals and animal products. UNESCO-IHE.
· Friends of the Earth / Trucost (2014). Mind Your Step.
· CDP (2024). Global Water Report 2024.
· CDP (2025). Internal Water Pricing Unlocks Resilience and Long-term Growth.
· 国土交通省「渇水情報総合ポータル」(2025〜2026年)
· TNFD Adopters登録データ(2025年7月時点、日本180社)
· WWFジャパン「2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況」(2025年)
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