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LCAの結果が40%も変わる?──原単位データベースとソフトウェア選びが“見えない差”を生む理由

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    o a.
  • 6月4日
  • 読了時間: 9分

こんにちは。

LCAコンサルタントの小野あかりです!


先日、国土交通省が建築物におけるLCA算定の義務化に向けた検討会を発足したとのニュースを耳にした方も多いのではないでしょうか。

来年1月には、算定時期や対象条件、事業者向けの補助制度などを含めた制度設計の取りまとめが予定されているそうです。

これは、素材調達から廃棄までのCO2排出量を可視化する取り組みを、建築業界全体で本格的に進めることを意味しています。


こうした流れは建築業界に限った話ではありません。

製造業や流通業、サービス業など、あらゆる産業分野で「自社の製品やサービスが、どれだけ環境負荷を持っているのか」を定量的に捉え、説明する力が問われています。


このような加速度的にLCAが重要視されてきている中で、LCA算定における「原単位データベースの選定」が極めて重要なテーマとなっています。

原単位は、LCAを行うために"必要な要素"であり、使用するデータベースによって最終的な算定結果が20〜40%以上変わることもあるセンシティブなモノなのです。


本記事では、2023年にJournal of Industrial Ecologyに掲載された論文「Data implementation matters」(Miranda Xicotencatlほか)をもとに、LCA結果のばらつきの背景と、実務者が押さえるべき視点について分かりやすく解説していきます。


原単位そのものについては、過去の記事で解説をしておりますのでご興味がありましたら併せてご覧ください。



それでは早速、本題に入ります!


目次



1.LCAソフトウェアと原単位データベースの関係とは?

さて、LCAは「活動量 」と「 原単位」を掛け合わせることで算定されるとてもシンプルな手法になっています。しかし原単位と言っても、実は様々な種類が存在し、その背景には多くの前提や構造的な違いが存在していることをご存知でしょうか。

つまり、使用するソフトウェアやデータベースが異なれば、出てくる数値(LCA結果)にも当然差が出てくるのです。


そして各原単位データーベースを搭載したLCAソフトウェアと呼ばれるプラットフォームモデルも複数存在します。


以下が、LCAソフトウェアと原単位データーベースについて簡単に整理した表になります。

種別

主な名称

特徴

LCAソフトウェア

SimaPro / openLCA / GaBi /MiLCA

モデル構築や算定を行うプラットフォーム。各ソフトに適したデータベースと連携して使用する。

原単位データベース(LCI DB)

ecoinvent(スイス)/ Agri-footprint(オランダ)/ IDEA(日本)

各工程の環境負荷データがまとめられている。地域や業種に応じて選定が必要。

LCAの報告書や論文などを見た際に、"算定条件"のところで、SimpaProというLCAソフトウェアの名称が書かれていたり、ecoinventという原単位データーベースの名称が書かれていることが良くあると思います。

LCAソフトウェアと原単位データーベース、どちらを使って算定するのか、は評価対象の前提条件や目的によって変わってきます。


LCAソフトウェアの良さは、最初からいくつかの原単位データーベースを搭載した状態で算定ができるところにあります。

たとえばSimaProには、デフォルトでecoinventが搭載されており、Agri-footprintなど他のデータベースを追加して使用することも可能です。デフォとのデータベースは異なるものの、GaBiやMiLCAも同様です。一方、openLCAではソフトウェア自体が無料であることに加えて、複数の無料・有料データベースを選んで連携する柔軟性があります。


既に使用する原単位データベースがExcelなどのデータファイルで持っている状態の場合には、LCAソフトを使わずに、Excelなどで手動計算(または自社で開発した簡易ツール)で対応することも可能です。


LCAソフトウェアや原単位データーベースをどうするか迷っている実務担当者の方は、それぞれの特性・利点を理解した上で選択していく事をお勧めします。



  2.なぜ“どのデータベースか”が重要なのか?

実は、LCAの精度や信頼性を左右する最大の要素のひとつが、「どの原単位データベースを使ったか」です。

LCAにおける原単位は、

◆電力ミックス

◆輸送手段

◆使用する原材料の前提条件

などが異なる構造で作られています。


たとえば、企業が再生可能エネルギーを導入していても、当てはめた原単位が“石炭主体”の電力モデルであれば、せっかくの努力が数字に反映されないということも起こり得ます。

特にSSBJやCDP、TCFDといったサステナビリティ情報開示においては、「なぜこの数値なのか」を示す必要があります。原単位の出所や構造を理解せずに数字だけを使うと、後から整合性を問われるリスクもあるのです。


つまり、「自社がどの原単位データベースを使っているのか」は、LCAを使うすべての企業にとって“知らなくてはならない知識”と言えます。

同時に、「他の原単位データベースを使った場合はどうなるのか」といった視点も、“知っておいた方が良い知識”になるでしょう。


こうした背景を踏まえて、今回紹介する論文では、「異なるソフトウェアや原単位データベースを使用した場合、同じ製品でもLCA結果がどの程度異なるのか?」という実務的な疑問に対して、定量的な分析を行っています。



  3.論文の目的とアプローチ:何を検証したのか?

本研究の目的は、「LCAツールや原単位データベースの違いが、算定結果にどのような影響を与えるか」を明らかにすることです。

日常的に使用される農産品(じゃがいも、とうもろこし、牛乳など)やプラスチック容器といった包装資材を対象に、SimaProやopenLCAなどのソフトウェアと、Agri-footprintやecoinventといった原単位データベースを組み合わせた複数のケースで算定が行われました。


たとえば、SimaProに搭載されているAgri-footprintと、openLCAで利用されたecoinventの比較では、同じ製品に対しても温室効果ガス排出量に最大で約30%の差が見られました。

このような差は、

◆電力ミックス

◆プロセスの詳細度

◆補完方法

など、原単位データの構造やモデル設計の違いに起因します。


さらに論文では、同一の原単位データベースを異なるLCAソフトウェア上で使用した場合でも、結果に10〜15%の差が出ることがあることも示されています。

これは、ソフトウェアごとに設定されている

◆カットオフルール

◆割当処理

◆データリンクの方式

が異なることに起因します。


つまり、ソフトウェアの違いも一定の影響を与えるため、単に原単位だけでなく、ソフトウェアの設定や挙動も意識する必要があるということです。



  4.主な研究結果:LCA結果の“ばらつき”はどれくらい?

本研究では、以下のような実務的に重要な示唆が得られました:

  • 同一製品でも、ツールと原単位の違いによって20〜40%以上の差が生じることがある。

  • 特にじゃがいもや牛乳など、農業関連製品で大きな差が確認された。

  • 差の主な原因は、電力ミックス、データ粒度、プロセス補完の方法などに起因。

  • また、同一原単位データベースでも、使用するLCAソフトウェアの設定の違いにより10〜15%の差が生じうる。

著者は、こうしたばらつきは偶然の誤差ではなく、LCAの設計段階における選択が大きく関与していると結論づけています。

"Data implementation is not just a technical detail—it defines the output."(データの実装は単なる技術的な話ではなく、結果そのものを左右する)

  5.実務で役立つ!原単位選定の3つの視点とチェック例

本研究の示唆を踏まえ、LCAを導入・活用する企業が原単位を選定する際に意識すべきポイントを整理します。


① データの出所と構造

チェック例:データベースの公開情報を確認し、作成主体や更新頻度をチェック。

判断基準:自社製品や業種、地域に近い前提条件で作られているか?

比較ポイント:再エネ比率や廃棄物処理モデルの違いを可視化する。


② 活動量との整合性

チェック例:自社のスコープ3データや原材料調達データと単位が一致しているかを確認。

判断基準:入力する活動量と、原単位が掛け算できるようになっているか?

比較ポイント:同じ活動量を適用した際に、どの原単位が最も一致するかを検証する。


③ 利用目的との適合性

チェック例:その原単位を使って開示した際、顧客や第三者からの説明要請に対応できるか?

判断基準:開示用・改善用・社内分析用など、目的に適した精度・透明性があるか?

比較ポイント:第三者レビュー実績やガイドライン適合性を確認する。



  6.おわりに:数字を読む力と、説明する力を一緒に育てよう

今回ご紹介した論文は、LCA実務における「ソフトウェアとデータベースの選定」がいかに結果を左右するかを教えてくれます。

サステナビリティ経営の一環としてLCAを活用する際には、数値の“正しさ”だけでなく、“なぜこの数字なのか”を説明できることが信頼性を支える大切な要素です。

原単位の選定は「活動量 × 原単位」という単純な構造の中にある“奥の深さ”とも言える領域。だからこそ、原単位の意味を理解し、自社に適した選定を行うことが、精緻なLCAの第一歩になります。


今後もGreenGuardianでは、情報開示や業界ごとの規制内容、算定手法など、サステナビリティ実務に寄り添う情報を発信してまいります。

ぜひ、noteやSNS、メルマガなどでもご覧いただければ嬉しいです。


また、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応もお手伝いしています。


「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。

気軽に話せる【CO2算定まわりの“コンサル”】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。

ご相談はいつでもお気軽にどうぞ!



社員のプロフィール

🔗参考文献

Xicotencatl, C. M., Sanyé-Mengual, E., Tonini, D., & Peñaloza, D. (2023).

Data implementation matters: Effect of software choice and LCI database on LCA results.


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