【2025年版】世界の原単位データベースとその潮流について:LCAコンサルタントが徹底解説
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- 3月4日
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更新日:3月14日
こんんちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
今回は、【原単位データーベース】がテーマとなります。
原単位データーベースはLCAを行う際に欠かせない重要な要素でありながらも、その種類の多さや構造の複雑さから、なかなか理解するのに苦労するものでもあります。
私たちは、これまでもいくつかのコラム記事で原単位データーベースについて解説を行ってきました。
今回は、いくつかの学術論文および原単位データベースの公式サイトなどから情報を入手する形で以下の項目を整理しました。
◆ 世界で最も使用されているLCA原単位データベース ◆ 日本で最も使用されているLCA原単位データベース ◆ 中国で最も使用されているLCA原単位データベース ◆ LCA原単位データベースの歴史的発展と主なマイルストーン ◆ LCA原単位データベースの現在の傾向(新手法と新技術)
ここでなぜ、中国で最も広く使用されているLCA原単位データーベースについても調べるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
以前、近年のLCA論文投稿数について整理したコラム記事の中で、近年は中国においてLCA研究および論文投稿が盛んに行われてているという内容をご紹介しました。
これまで中国におけるLCA研究には着目してこなかったため、世界の動向、日本の動向と併せて、中国ではどのような原単位データーベースを使用しているのかを知ろうと思った次第です。
さて、それでは早速本題に入りたいと思います!
よろしければ是非最後までお付き合いください。
目次
1.世界で最も使用されているLCA原単位データベース
世界で最も使用されている原単位データーベースは、ecoinvent(スイス)です。
その主な特徴を表1に整理しました。
表1.ecoinventの特徴
対象 | 世界 |
開発国 | スイス |
リリース年 | 2003年~2004年 |
バージョン | ecoinvent3.11(2024年11月に提供開始) |
データセット数 | ~18,000(世界中の幅広い産業と製品を網羅) |
管理団体 | 独立した非営利団体 |
更新頻度 | 定期(年1回リリース) |
主な特徴と 優位性 |
|
出典 |
ecoinventが世界で最も使用されている主な理由として、以下が挙げられます。
【規模と範囲】
ecoinventは、世界中の幅広い産業と製品を網羅する、約18,000件の詳細なデータセットを含んでいます
この広範囲なカバーにより、LCA(ライフサイクルアセスメント)の専門家は、必要なほとんどの材料、エネルギー、プロセスに関するデータを見つけることができ、LCAのための包括的なデータベースとして利用できます
【透明性と一貫性】
ecoinventは「世界で最も透明性の高いライフサイクルインベントリデータベース」として知られています
各データセットには、投入物、出力物、モデリングの前提に関する詳細な文書が含まれています
データベースは一貫した方法論的フレームワークを使用しており、ユーザーは自信を持ってプロセスをサプライチェーンにリンクさせることができます
高い透明性と査読されたデータ品質は、信頼性と学術的な受け入れを高めます
【ツールの統合とアクセス性】
ecoinventは、事実上すべての主要なLCAソフトウェア(SimaPro、OpenLCA、GaBiなど)に統合されており、その広範な利用を促進しています
5,000以上の組織のユーザーが上記のソフトウェアなどを通じてecoinventを利用しています
学術ライセンスとパートナーシップにより、世界中の研究と教育にアクセスしやすくなっています
【グローバルな代表性】
当初はスイス/ヨーロッパのデータに焦点を当てていましたが、ecoinventはグローバルなサプライチェーンに拡大しました
現在、地域化されたデータを含み、国際的な基準として使用されています
広範な地理的範囲と幅広い分野をカバーしているため、多くの国々で利用されています
【評価とサポート】
スイスの研究機関に支えられ、ecoinventは20年以上の実績があります。
その独立性(単一の企業や政府に縛られていないこと)と使命主導のアプローチは、データの中立性を保証します
継続的な開発、ユーザーサポート、および活発なユーザーコミュニティは、そのグローバルな地位をさらに強固なものにしています
上記の特徴および優位性を整理すると、ecoinventは、
◆ 包括的なカバー範囲
◆ 品質
◆ 統合性
により、事実上、LCA原単位データベースのグローバルな選択肢となっています。
2.日本で最も使用されているLCA原単位データベース
日本で最も使用されている原単位データーベースは、Inventory Database for Environmental Analysis (IDEA)です。
その主な特徴を表2に整理しました。
表2.IDEAの特徴
開発国・開発元 | 日本 産業技術総合研究所(AIST)が主導し、JEMAIと共同開発 |
リリース年 | 2010年 |
バージョン | IDEA Ver.3.4(2024年6月に提供開始) |
データセット数 | 約5,300(日本経済、IOとプロセスデータのハイブリッド) |
管理団体 | 産業技術総合研究所(AIST) |
更新頻度 | 定期(年1回リリース) |
主な特徴と 優位性 |
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出典 |
IDEAが日本で最も使用されている主な理由として、以下が挙げられます。
【日本の経済を網羅する包括的なカバレッジ】
IDEAは、約5,300のユニットプロセスデータセットで、日本のほぼすべての経済活動をカバーしています
製造業(電子機器、鉄鋼、化学など)、第一次産業(農業、鉱業)、エネルギー(電力グリッドミックス、燃料生産)、インフラ、サービス、廃棄物管理などのデータが含まれています
この広範な範囲により、日本で製造または使用されるあらゆる製品に対して、IDEAは対応するデータセットを持っている可能性が高いです
したがって、専門家は、LCAが日本の状況(日本の電力ミックス、輸送モードなどを使用)を反映するように、IDEAを好んで使用します
データベースは「日本で製造されたすべての製品と多くの日本のサービスをカバー」し、日本の製品システムのほぼすべてのプロセスに対して、少なくともいくつかの二次データを提供します
【日本固有のデータと方法】
多くのIDEAデータは、日本の国家統計と調査から派生しており、代表性を確保しています
例えば、排出係数、エネルギー効率、サプライチェーン構造は、日本の状況(エネルギーミックス、技術、規制など)に合わせて調整されています
この地域固有の特性により、国内LCAの精度が向上します
実際、IDEAのサブセットは、日本の国家カーボンフットプリント試行プロジェクトの排出係数を決定するために使用され、そのデータに対する政府の信頼を示しています
IDEAは、影響評価のためのインパクト係数(LIME2やLIME3)も組み込んでいます
これらの要因により、IDEAは日本でのデフォルトの選択肢となっています。ecoinventのような外国のデータベースを使用すると、日本のシナリオが誤って表現される可能性がありますが、IDEAは文化的および地理的に適切なデータを提供します
【ハイブリッドプロセス+投入産出アプローチ】
IDEAは、「ハイブリッドインベントリデータベース」と呼ばれ、プロセスベースのLCIデータと経済投入産出表から派生したデータを組み合わせています
つまり、集計データを使用してプロセスデータの取得が困難なセクターのギャップを埋め、完全性と一貫性の両方を実現できます
たとえば、サービスや行政のようなセクター(プロセスLCAだけではモデル化が困難)は、投入産出分析によって表現されます
これにより、LCAの範囲が経済全体のカバレッジに広がるため、日本が経済レベルの評価を推進する上で高く評価される機能です
その結果、ユーザーが単一の製品から経済全体のフットプリントまで分析できる、日本のニーズに合ったデータベースとなっています
【支持と統合】
IDEAデータベースは、日本のLCAインフラに組み込まれています
MiLCAソフトウェア(日本独自のLCAツール)の標準データベースであり、日本の分類でSimaProでも利用できます
日本LCA学会は、IDEAを国内の主要なデータベースとしてリストしています
この機関のサポートにより、IDEAの使用が確固たるものになりました
実際、日本におけるほとんどの専門的なLCA研究は、IDEAを単独で使用するか、グローバルデータと組み合わせて使用します
業界団体データ(古いJLCAデータベース)も存在しますが、IDEAの広範な範囲と公式の裏付けにより、日本で支配的なデータベースとなっています
上記を整理すると、IDEAが日本のLCA分野で圧倒的な優位性を誇っているのは、それが日本向けに特化して構築されたからです。
データベース提供者が述べているように、「IDEA日本インベントリデータベースは、日本のプロセスを包括的かつ代表的にカバーしているため、日本でLCAに広く使用されています。」
日本に特化したワンストップのデータソースを提供することで、IDEAは海外データへの依存を減らし、日本のLCA実践の基盤となりました。
3.中国で最も使用されているLCA原単位データベース
中国で最も使用されている原単位データーベースは、Chinese Life Cycle Database(CLCD)です。
その主な特徴を表3に整理しました。
表3.CLCDの特徴
開発国・開発元 | 中国 四川大学(中国)、IKE 環境技術株式会社(中国) |
開発年 | 2010年 |
データセット数 | ~600(中国の主要材料、エネルギー、輸送、廃棄物) |
主な特徴と 優位性 |
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出典 |
CLCDが中国で最も使用されている主な理由として、以下が挙げられます。
【地域データギャップの解消】
2000年代後半には、国内LCIデータベースの不足が中国におけるLCAの大きな障壁であることが認識されていました。
CLCDはこのギャップを埋めるために作成されました
中国の生産または状況を含む研究が、中国の現実を反映しない可能性のある海外データ(ecoinventなど)への依存を回避できるように、中国固有のLCIデータセットを提供します
たとえば、中国のグリッド電力、セメント、鉄鋼、輸送などは、ヨーロッパのものとは異なる排出プロファイルを持っています(CLCDはこれらの違いを捉えています)
ある研究では、「採掘は中国で行われるため、LCA原単位データベースとしてはCLCDが優先データベースでした…」と指摘されており、中国の専門家が関連性を高めるために利用可能な場合はCLCDを選択することを強調しています
【主要セクターのコアデータ】
現在のCLCDには、中国で普及している主要な材料、エネルギーキャリア、輸送モード、および廃棄物管理プロセスをカバーする約600のデータセットが含まれています
これらには、鉄鋼、セメント、化学薬品、石炭火力などの影響の大きい産業が含まれます
ecoinventよりもデータ数は少ないものの、これらのデータセットは、中国経済において「広く使用され、かつ重要な製品」として優先的に選定されました
この重点化により、CLCDは中国の主要な産業サプライチェーンの分析に即座に役立つものとなっています
データはcradle-to-gate (原材料調達から⽣産まで)であり、LCAソフトウェアへの統合に適した一貫したモデリングアプローチを使用して編集されています
【中国固有の高品質データ】
CLCDは、四川大学とIKE Environmental Tech. Co.によって開発された中国の国家参照LCIデータベースです
産業統計、政府出版物、国内研究、および他のLCA研究のいくつかの統合など、中国のデータを情報源としています
2010年頃の中国の技術ミックスと効率を反映したデータが得られます
例えば、CLCDの地域別発電量データは、世界的なデータベースよりも中国の送電網構成をより正確に反映しています
CLCDを使用することで、アナリストは中国製品(または中国での生産)のLCAに現地のデータを確実に使用することができます
これは、国内政策の議論における信頼性を確保するために不可欠です
【中国のLCAツールとの統合】
CLCDは、中国のLCAソフトウェア「eBalance」内で無料で配布されています
eBalanceには中国国内のデータが組み込まれているため、中国企業や研究者がLCAを採用する際の障壁が大幅に低くなりました
中国LCAツールとデータベースが一体となった利便性により、CLCDは実務において非常に優れたツールとなっています
さらに、CLCDは国際形式(EcoSpold、ILCD)でも利用可能であるため、必要に応じて他のツールにインポートできます
中国政府と学術界は、トレーニングや国家研究プログラムを通じてCLCDを推進し、中国のデフォルトのバックグラウンドデータベースとして組み込んでいます
CLCDが中国で最も使用されている理由としては、 ◆ 中国で開発され ◆ かつ無料で ◆ 中国向けに調整されたデータベースである
という役割によるものです。
中国のLCA研究は、以前は海外のデータベースに頼らざるを得なかったのに対し、CLCDが「中国固有の原単位データベース」を提供することで、力を得ることができました。
2010年代に中国のLCA活動が急増するにつれて(持続可能性イニシアチブと政策によって推進)、CLCDは頼りになるデータベースになりました。
多くの研究では、CLCDとecoinventの組み合わせが依然として使用されています(CLCDにまだ含まれていないプロセスがあるためです)が、CLCDは中国国内のプロセスで最も広く使用されているデータベースです。
その継続的な開発は、その重要性をさらに強固にしています。
さて、ここまで世界・日本・中国における主要な原単位データベースについて解説を行ってきました。
次からは、原単位データベースの歴史について見ていきたいと思います。
4. LCAデータベースの歴史的発展:主要なマイルストーン
LCA原単位データベースの開発は、過去約50年にわたって進化してきました。
断片的なデータベースから今日の包括的なデータベースに至るまでの進歩を示す主要なマイルストーンがあります。
以下の表4では、原単位データベースの歴史における主なマイルストーンの概要を示しています。
表4.原単位データーベースの歴史
年/期間 | マイルストーン | 説明と意義 | 出典 |
1960年代~1980年代 | 初期のLCA研究 | データベース以前の時代: 企業や研究者が、カスタムデータを使ってLCAに類似した研究(エネルギー診断、飲料容器のLCAなど)を実施。データは独自のもので、散在していたため、共有データベースの必要性が浮き彫りになった。 | (Heijungs 1992 - オープンではない) |
1990s | 最初のLCIデータプール | 政府や研究機関がライフサイクルデータの収集を開始。米国では、DOE/EPAがフランクリン・アソシエイツを支援して原単位データを収集した(1980年代~90年代)。これらの取り組みにより、正式なデータベースの基礎が築かれた。 | |
1994 | ecoinventの前身 | スイスのETHデータベース(ecoinventの前身)が発行されたのは~1994年。 ユニット・プロセス・データベースの実現可能性を実証し、将来のDBのテンプレートとなった。 | |
1997-2000 | スポルド&ISO 14048 | 原単位データ交換のためのSPOLD(LCA開発推進協会)フォーマットが導入され、原単位データ文書化のためのISO 14048規格が開発された。これらは、データベースやツール間でデータを共有できるように標準化されたフォーマット(後にEcoSpoldをインスパイア)を提供した。 | (ISO 14048:2002) |
2001-2003 | エコインベント・プロジェクト始動&v1.0 | 2000年、スイスの研究機関が、LCIデータの調和と拡充を図るため、エコインベント・プロジェクトを立ち上げた。 2003-04: Ecoinventデータベースv1.0をリリース、数千のユニットプロセスデータセットを収録(当初はスイス/ヨーロッパ中心)。これは、初めて一般に公開された包括的なLCIデータベースとなる。 | |
2000年代半ば | ナショナル・データベースの出現 | ecoinventに続き、他の地域もデータベースを開発。米国のLCIデータベース(NREL)が2003年からデータ入力を開始。欧州委員会(JRC)により欧州基準ライフサイクルデータベース(ELCD)が2000年代半ばに発表される。日本は産業別LCIデータ(JLCA)をまとめ、IDEAの開発を開始。これらの取り組みは、地域のLCAのニーズをサポートするための地域LCIデータベースの傾向を反映している。 | |
2007 | エコインベントv2とグローバルな普及 | ecoinvent v2.0がリリースされ、データが大幅に拡張・更新される。2007年から2010年までに、ecoinventは世界で最も広く利用されているLCIデータベースとして確立され、世界中で背景データを提供している。 ecoinvent の成功は、LCA コミュニティのための一元化された高品質のデータベースの価値を実証している。 | |
2010 | 中国LCIデータベース(CLCD) | 中国、2010年頃に初の国家LCIデータベース(CLCD)を開始.このプロセスベースのDB(600以上のデータセット)は、中国製品のLCAを促進するために開発され、アジアにおけるLCAの重要な一歩となった。同様に、この時期、韓国や他の国々が国家データベースを開始している。 | |
2010 | IDEA v1.0(日本) | 日本はIDEA v1を包括的な国家データベースとしてリリース(ハイブリッドアプローチで400以上のセクターをカバー)。これは、以前の日本のプロジェクト(例えば3EIDの産業連関LCI)の上に構築され、日本の標準となった。これはecoinventのタイムラインと類似している:「ecoinventの設立は、日本の国別LCIデータベースの取り組みとほぼ同じ時期である。 | |
2013 | ecoinvent v3 & 新しい 方法論 | ecoinvent v3がリリースされ、複数のシステムモデル(アロケーション の選択肢)を持つ新しいデータモデルが導入され、地域化が改善された。 このアップグレードにより、手法の柔軟性が向上した(帰属的LCAと結果的LCAをサポート)。エコインベントは2013年に独立した非営利団体となった。 | |
2013-2018 | 専門DBの普及 | LCIデータベースの急増:セクター別データベース(農業の Agri-footprint、オーストラリアの AusLCI、韓国の KDB など)が登場。EU の製品環境フットプリント(PEF)イニシアチブは、相互比較のために選択されたデータセットを含む PEF 準拠のデータベースを構築している。 多くのデータベースは、相互運用性のために共通のフォーマット(ILCD、EcoSpold)を採用している。世界のLCAデータベース数は2010年代後半には40を超える。 | |
2017 | グローバルLCAデータネットワーク(GLAD) | UNEP/SETACライフサイクル・イニシアティブは、パートナー(ecoinvent、JEMAIなど)と共に、グローバルLCAデータ・アクセス・ネットワーク(GLAD)を構築。 2020年に開始されたGLADは、世界中の複数のデータベースをつなぐウェブプラットフォームであり、ユーザーはデータベースを横断してデータセットを検索し、アクセスすることができる。このマイルストーンは、世界規模での相互運用性とオープンアクセスの推進を反映している。 | |
2020s | 次世代データベース | 新しいコンセプトの登場:「高品質」原単位データベース(2020年の中国のHiQLCDなど)やオープンソースの原単位データベース(2023年の中国のTianGongなど)は、より利用しやすいデータの提供を目指す。データベースは、 ダイナミック/時系列データとハイブリッドLCA機能の統合を開始する(セクション5参照)。LCAが新たな分野(カーボン・ニュートラル、循環型経済)に適用され、より多くのデータと優れたツールが求められるようになると、LCIデータベースの役割は拡大する。 |
これまでの歴史を整理すると、以下のことが言えます。
初期のLCA作業では共有データが不足していましたが、1990年代には共通の原単位データベースの必要性が明らかになりました
2000年代のスイスのecoinventやその他の国の取り組みは、LCA実施の労力を大幅に削減する大規模な単位プロセスデータベースを作成し、画期的なものでした
このように、ecoinventの進化(2003年、2007年、2013年)は、データベースのスコープと方法論の飛躍的な進歩と一致しています
一方、日本や中国などの国々は独自のデータベースを並行して構築しました
2010年代後半には、コラボレーションと接続性(GLADなど)が注目されるようになり、より容易なアクセスと相互運用性を実現することで、複数のデータベースの断片化に対処するようになりました
歴史的な傾向としては、より多くのデータが利用可能になり、標準化が進み、協力関係が深まっており、現在のイノベーションの土台となっています
GLADについては、以下のコラム記事でも紹介していますので、興味のある方はご一読ください。
5. LCAデータベースにおける現在の傾向:新たな方法論と技術
LCA原単位データベースは常に進化しています。
最近の傾向(2020年以降)では、より高度な方法論、相互運用性の向上、およびデータベースの利用と拡張性を改善する技術的強化が推進されています。
主な現在の傾向には以下が含まれます。
【ハイブリッドLCAデータベース(プロセス+IO)】
これまでの原単位データベースはプロセスベース(ボトムアップ)でした
現在のトレンドは、プロセスデータとマクロレベルの投入・産出(IO)データを組み合わせ、経済全体を隙間なくカバーするハイブリッドデータベースを作成することです
研究者らは、完全な製品システムをカバーできるように、ecoinventと多地域IO表を組み合わせるアプローチを開発しています
例えば、Agez ら(2020)は、ecoinvent のすべてのプロセスを上流の経済部門にリンクするハイブリッドデータベースを構築し、詳細性と完全性を両立させました
この傾向は、IOモデルからサプライチェーンの完全性を統合することで、従来のデータベースの境界の限界に対処しています
IDEAのような一部の国家DBは、初期のハイブリッドでしたが、現在では世界的に拡大しています
【動的/時間的LCAデータ】
LCA原単位データベースは、時間依存データを組み込むか、「予測LCA」を可能にするようになってきています
動的LCAは新たなフロンティアとして登場しており、データベースには将来のシナリオや時間的パラメータ(例えば、時間経過に伴う電力網の脱炭素化)が含まれています
例えば、Su ら(2022年)は、50年間にわたってエネルギー供給と影響が変化する建築物の動的LCIデータベースを作成しました
学術的な議論では、「動的LCAはLCA研究を進展させる新たな未来のトレンドになりつつある」ことが強調されています
現在のデータベース(ecoinventなど)は、シナリオ分析の将来の年数を反映させるために実験的に修正されています
この傾向は、長期的な影響や新技術(例えば、電気自動車のための将来のエネルギーシステムなど、見通しのあるLCA)を評価する必要性によって推進されています
これは新しいデータ構造を必要とし、活発な研究分野となっています
【より広範な地理的範囲と地域化】
最近の取り組みは、これまで十分にカバーされてこなかった地域や国々に関するデータのギャップを埋めることに焦点を当てています
例えば、2020年代のecoinventは、アジアとアフリカのデータプロバイダーと協力し、地域プロセスを追加しています。
目標は、真にグローバルなデータベースです
さらに、既存のデータセットは地域ごとにパラメータ化されています(地域別の排出量、国別のプロセス)
欧州のPEFデータベースやecoinventの更新では、地域性を重視することで評価のローカライズが可能になっています
新たな国別データベースは、国連環境計画(UNEP)のLCAイニシアティブの支援を受けて、インドや中南米諸国など、引き続き登場しています。
GLADプラットフォームでは現在、数十の地域別データベースのデータセットがリストアップされており、グローバルなデータ民主化の進行中のトレンドを示しています
【相互運用性とデータ統合】
異なるLCAデータベースやソフトウェアが互いに連携できることを保証することは、大きなトレンドとなっています
これには、共通のデータ形式(ILCD、JSON-LDなど)の採用や用語のマッピングなどが含まれます
GLADの「Lava」やフローマッピングなどのプロジェクトは、データベース全体で物質名と単位を整合させることを目指しています
ecoinventチームは、名称法の見直しを行い、システム間の翻訳リソースとして機能していると指摘しています
相互運用性の推進により、ユーザーはさまざまなソースからのデータセットをより簡単に組み合わせることができるようになります
Web API やクラウドベースのアクセスも登場しています
一部のデータベースではオンラインでの問い合わせやリンク(例えば、データマーケットプレイスとしての openLCA Nexus)を提供しています
これらすべてにより、LCI データは他のデジタルツール(例えば、CAD ソフトウェア、環境報告システム)によりアクセスしやすく、統合しやすくなっています
【設計およびBIMツールとの統合】
建築および製品設計におけるLCAでは、LCAデータベースを設計ソフトウェア(ビルディング・インフォメーション・モデリング、CAD)に直接リンクさせるという傾向が顕著です
これにより、数量の自動算出やフットプリントの即時計算が可能になります
例えば、BIMモデルをLCAデータベースに接続するプラグインが開発されており、建築家が材料を選択すると、データベースから影響が算出されます
Lu らによるレビュー(2022年)では、「LCAデータベースを直接BIM環境に統合し、リアルタイム分析を促進する」多くの新しいツールが発見されました
この傾向はデータベース自体を変えるものではありませんが、データベースを迅速なクエリと部分的なデータ抽出ができるように構造化する必要があります
これにより、プロバイダーはAPIアクセスと軽量データベースバージョンを考慮する必要に迫られています
【影響カテゴリーとデータタイプの拡大】
LCAデータベースは、その内容も拡大しています。
最新のデータベースには、より多くの影響評価要因(地域化要因、水不足や土地利用などの新たな影響カテゴリー)が含まれており、場合によっては社会経済データ(ライフサイクル持続可能性評価用)も含まれています
例えば、ecoinventでは、新しい手法と一致する水と土地利用のインベントリフローが追加されています
また、別の分野では、LCIデータベースと環境製品宣言(EPD)のレポジトリをリンクさせることで、検証済みの業界データ(EPD)をLCAモデルに組み込むことができるようになっています。
特に建築分野では、一部のデータベース(ヨーロッパのÖKOBAUDATなど)がEPDのデータを集約しています
これによりデータベースの内容が拡充され、LCAデータと業界が作成した情報がリンクされることになります
【ユーザーの貢献とオープンデータ】
現在、原単位データベースではオープンアクセスへの動きがあります
ecoinventのような主要なデータベースは依然としてライセンス制ですが、オープンデータベースの取り組みも行われています(例えば、中国のTianGongはオープンアクセスかつ無料であると主張しています)
また、データベースはクラウドソーシングによるデータ提供を奨励しています
ecoinventは、よりユーザーフレンドリーな提出システムを改善しており、一般的なLCAソフトウェアから直接リンクしてデータを提出することも可能になっています
その狙いは、より多くの研究者や企業が新しいデータや改良されたデータをデータベースに提供し、データベースを最新の状態に保つことができるよう、障壁を低くすることです
この傾向は、他の分野で見られるオープンデータという理念を反映しており、原単位データの量と新鮮度を大幅に高める可能性があります
まとめると、現在の傾向は、LCA原単位データベースを
◆ より包括的で
◆ 将来を見据え
◆ 相互に接続されたもの
にすることを目指しています。
ハイブリッド型や動的なLCIモデリングのような方法論の革新によるものか、あるいはデータの共有や利用方法における技術的改善によるものかに関わらず、状況は急速に進化しています。
これらの傾向は、LCAの利用が拡大していることに対応するものです。
LCAがより大規模で複雑な問題(国家政策、気候戦略、循環設計)に取り組むにつれ、データベースは必要なデータと機能を提供できるよう適応しています。
6.結論
いろいろな論文や情報源から調査を行うことで、LCA原単位データベースが、初期の散在したデータから今日の洗練されたグローバルリソースへと、長い道のりを歩んできたことが分かりました。
さらに、世界的で最も使用されている原単位データベースはecoinvent、日本で最も使用されている原単位データーベースはIDEA、中国で最も使用されている原単位データーベースはCLCDであるということが分かり、かつ、それぞれ特徴や優位性を見ることができました。
原単位データーベースの発展の歴史からは、ユーザーのニーズ(住んでいる国など)に合わせた包括的で高品質な原単位データの必要性(重要性)が示されたと感じます。
特に、原単位データーベースの歴史は規模と範囲の段階的な拡張を示しており、現在のトレンドであるハイブリッド化、動的性質、統合化により、さらにそれが推し進められているように思います。
将来は、さらに強力で利用しやすい原単位データベースが主流となってくるのではないでしょうか。
LCA自体が世界的な持続可能性の意思決定を導くための主要なツールとなるにつれ、原単位データーベースの発展・進化は非常に重要なものとなります。
データベースが改善されるにつれ、これらのデータベースが提供する強固なデータ基盤に支えられ、環境イノベーションと政策を推進するLCAの潜在能力はさらに高まるのではないでしょうか。
当社代表の小野雄也は、原単位データーベース開発者でもありますので、なにか分からないこと、聞いてみたいことがありましたらお気軽にご相談ください。
LCA全般のご相談も受け付けております(初回のみ1時間の無料相談も行っております)。

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出典一覧
Frischknecht et al. “The ecoinvent Database: Overview and Methodology.” Int. J. Life Cycle Assess. (2016) – Describes ecoinvent’s structure and global use
Mutel et al. “ecoinvent – An Introduction to the LCI Database and the Organization Behind it.” J. of LCA, Japan 19(4) (2023) – History and outlook of ecoinvent; notes it as widely used worldwide
SimaPro (PRé Sustainability). “IDEA Japanese Inventory Database.” (2020) – Web page noting IDEA is widely used in Japan and its comprehensive coverage
ILCAJ (Japan) – Databases in Japan (2018) – Lists IDEA as Japan’s comprehensive LCA database by AIST
GHG Protocol. “Chinese Life Cycle Database (CLCD).” (Accessed 2023) – Summary of CLCD (providers, content ~600 datasets, free in eBalance)
Liu et al. “Development of Chinese Reference Life Cycle Database (CLCD).” (2010) – Described CLCD’s creation; widely used in China and integrated in eBalance
Ecochain. “The most used LCI Databases for LCA.” (2024) – Blog post confirming ecoinvent as largest and most consistent global database
and discussing others (GaBi, PEF)
Chae et al. “World Building LCA Databases and Repositories.” (IEA EBC Annex 72 Report, 2022) – Survey of databases worldwide; notes ecoinvent’s early start in 1990s
and dozens of national databases by 2020s
Lu et al. “Recent Technological Advancements in BIM and LCA Integration.” Sustainability 16(3) 1340 (2024) – Review of BIM-LCA; identifies dynamic LCA and real-time database linking as emerging trends
Valente et al. (ecoinvent Association). “Global LCA Data Access (GLAD) Network.” (2020) – Describes GLAD’s launch connecting independent LCI providers
Sphera. “GaBi Database and LCI content.” (2022) – Proprietary info on GaBi (not directly cited above but considered in discussion of global databases)
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