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EPD(環境製品宣言)とは?取得メリットから注意点までLCAコンサルタントがやさしく解説

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    o a.
  • 2 日前
  • 読了時間: 13分

こんにちは。

LCAコンサルタントの小野あかりです。


今回は、最近耳にする機会が多くなってきたEPD(環境製品宣言)について


◆ そもそもEPDとは何か?

◆ なぜ必要とされているのか?

◆ EPDを取得するメリットは何か?

◆ 取得する際の注意事項は何か?


といったところを中心に解説していきたいと思います。

ぜひ最後までお付き合い下さいませ!



目次



1.EPD(環境製品宣言)とはなにか?

EPD(Environmental Product Declaration)とは、

製品やサービスの環境情報を定量的に算定し、公正に開示するための国際的な仕組みです。


簡単に言えば、製品の「環境成分表示」のようなもので、

原材料の採取 ➡ 製造 ➡ 使用 ➡ 廃棄・リサイクル

に至るまでライフサイクル全体で生じる環境負荷を数値化し、それを第三者が検証したうえで公開します。


この枠組みは国際規格ISO 14025(タイプIII環境宣言)に準拠しており、各国で認定されたプログラム運営者によって管理されています。


日本では一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が国内唯一の公式EPDプログラムを運営しており、2024年4月に従来の「エコリーフ」環境ラベルを改称する形で「SuMPO EPD」プログラムがスタートしました。


SuMPO EPDではISO 14025や関連するISO/TS 14027、ISO 14040/14044(LCA手法)、ISO 14067:2018に則って運用されており、建築分野のEPDについては建材向け規格のISO 21930にも準拠しています。

このようにEPDは国際標準に基づく信頼性の高い仕組みなのです。


EPDの基本的な仕組みとしては、以下のとおりです。


  1. 製品ごとに定められた製品カテゴリごとの算定ルール(PCR:Product Category Rule)に沿ってライフサイクルアセスメント(LCA)を実施する


                   ↓↓


  2. 得られた環境影響データをEPDレポート(環境宣言書)にまとめる


                   ↓↓

     

  3. 作成されたEPDレポートを、ISO 14025の要求に従い独立した第三者(有資格の検証員)による厳正な検証にかける この第三者検証に合格した情報のみが正式なEPDとして登録・公開される仕組みになっており、恣意的な数値操作や誤解を招く表示を防いで情報の信頼性を高めています)


公開されたEPDは各プログラム運営者のウェブサイト上で誰でも閲覧可能であり、例えば国際的なデータベースである「International EPD System」やSuMPO EPDのサイトにおいてPDFなどの形で閲覧できます(なお、開示される情報には製品の環境性能を正しく理解するための必要十分なデータと説明が含まれますが、企業の機密情報(製造レシピの詳細や特許情報など)は含まれません)。


まとめると、EPDは第三者のお墨付きのもとで、製品のライフサイクル全体における環境影響を見える化したものと言えます。

これにより、調達担当者や消費者、投資家といったステークホルダーは、製品ごとの環境負荷を客観的データに基づいて理解・比較できるようになります。


環境ラベル(例えばエコマーク)のような合否ラベルとは異なり、EPDは数値そのものを開示するため、企業としては自社製品の強み・弱みを透明性高く示すことになり、消費者側から見れば「本当に環境に良い製品なのか」を見極める強力なツールとなり得るのです。



  2.なぜEPDが必要とされているのか?

近年、世界的にカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが加速し、企業には環境配慮を行うだけでなく、その結果を説明責任として開示することが求められるようになってきました。その文脈で登場したのがEPDです。


EPDは上述の通り単なる宣伝用資料ではなく、科学的根拠に裏付けられた定量データを示すものなので、企業がサステナビリティへの本気度を示す手段として注目されています。


以下、EPD取得が重要視される場面をいくつかご紹介いたします。


  • グリーン調達や建築物評価制度での要求 政府や自治体、大手企業による調達では「環境情報をきちんと開示している製品を優先する」という方針が強まっており、その具体策の一つとしてEPD取得製品が重視されています。

    例えば日本のグリーン購入法でも、製品の環境情報開示やライフサイクル全体で環境負荷の小さい製品の選択が推奨されていますが、EPD取得はこうした要件に合致する有効なアプローチです。

    また、建築業界で広く用いられるグリーンビルディング認証(建築物の環境性能評価)であるLEED(米国発の評価システム)やBREEAM(英国発の評価手法)では、EPDを取得した建材を使用することで加点を得られるケースが増えています。

    実際、LEED v4では一定数以上のEPD取得製品を採用するとクレジット(ポイント)が与えられるクレジット項目が設けられており、建材メーカーにとってEPDを持っていることがプロジェクトで選ばれるための武器になりつつあります。

  • ESG投資の拡大と市場からの要請 金融・投資の世界でも、企業の環境情報開示に対する要求が高まっています。ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家は、企業が提供する製品・サービスの環境影響についても関心を寄せており、単に「環境に優しい」と謳うだけでなく実際の数値データによる証明を求めています。 そのため、EPDのように第三者検証済みの客観データは投資判断にも有益で、持続可能なサプライチェーン構築に真剣に取り組む企業ほどEPD発行を進める傾向にあります。 とりわけ、自社のサプライチェーン全体のカーボンフットプリント(Scope 3のカテゴリ1: 購入した製品・サービスの排出量)を正確に算出・削減しようとすれば、取引先の製品ごとの排出原単位データが必要です。 EPDはこうした一次データを提供する手段となり得るため、企業間取引において「EPDを持っている部材・素材を調達したい」というニーズが高まりつつあります。


  • 法規制や国際的な動向 欧米を中心に、EPDを事実上必須とするような規制も現れています。例えばEUの建設製品規則(CPR)では建築資材の環境情報提供にEPD活用を促す方向で改訂が進められており、将来的に欧州市場で流通する建材にはEPDに基づく環境性能開示が求められる見込みです。 また米国では、連邦政府の公共工事における調達政策「Buy Clean」により、鉄鋼やコンクリートなど特定の建設資材についてEPDの提出が義務化されました。 こうした世界的潮流は、日本企業にも無関係ではありません。環境先進国でEPD未取得の製品は競争上不利となる可能性があり、輸出市場での競争力国際プロジェクトの入札参加可否にも影響を与えます。 国内に目を向けても、2025年以降には国土交通省が建築物のライフサイクルCO₂評価の制度化を本格化させる予定があり、将来的に一定規模以上の建築物では建材のカーボンフットプリント提出が求められる可能性があります。 これが実現すれば国内市場においてもEPD取得が事実上の必須要件となり、持っていないと商機を逃す状況も考えられます。


以上のように、カーボンニュートラルやグリーン成長に向けた規制・基準の中でEPDは重要な位置を占めており、市場から「信頼できる環境情報」を求められる時代において不可欠なツールとなりつつあります。



   3.EPDを取得するメリット

EPD取得には労力やコストがかかりますが、それを上回る多くのメリットが企業には存在します。

環境負荷低減に寄与することはもちろん、事業戦略上の実利をもたらす点も見逃せません。ここでは主なメリットをいくつか挙げます。


  • 調達・入札で選ばれやすくなる: 建設業界は特に、公共工事や大企業の発注案件で、環境情報開示に積極的な企業・製品が優先される傾向が強まっています。 EPDを取得し、製品の環境データをきちんと公開していることは「環境に配慮した信頼できるサプライヤー」としての証明になります。その結果、入札参加資格で有利になったり、提案時に加点評価を受けたりするケースが増加しています。 このように、EPDは営業・マーケティング上の強みとなり、環境対応の入札要件が今後増えていく中でビジネスチャンスを広げることにつながります。


  • サプライチェーンの透明化と取引円滑化: EPDを取得すると、その製品について原材料から製造、流通、使用、廃棄に至る全過程の環境負荷データがひとまとめの宣言書として手元に揃います。これにより、取引先から「この製品のCO₂排出量はどれくらいか」と問われた際にも、探し回ったり個別計算することなく即座にエビデンスを提示できます。 さらに、自社が提出すべき様々な環境報告(例えばTCFDによる気候関連情報開示や、サプライチェーン排出量としてのScope 3算定)にも、EPDのデータをそのまま流用できます。つまり、一度EPDを取得しておけば、社内外の環境コミュニケーション資料として多方面に活用できるのです。


  • 企業の信頼性向上とブランド強化: EPDは第三者検証付きの公式な環境性能データであり、「お墨付きの成績表」として機能します。そのため、「環境に強い会社」というブランドイメージを育て、ステークホルダーからの評価を高める効果があります。 実際に、第三者検証済みの製品LCAデータは投資家にとって企業の環境パフォーマンスを客観比較する材料となり、気候関連財務情報開示の内容充実にも寄与するため、金融機関から「環境リスクへの対応がしっかりしている企業」と評価されやすくなります。 また海外市場では、欧米を中心に輸入製品に対する環境規制が強まりつつありますが、EPDを取得しておけば現地の環境基準をクリアしやすくなります。 このように、EPD取得は企業の信用力・ブランド力を高め、資金調達から市場開拓まで幅広い面でメリットをもたらします。


  • グリーンウォッシュの回避と公平な評価: 昨今、「環境に優しい」と銘打ちながら実態が伴わないグリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)が問題視されていますが、EPDはそれを防ぐ有効な手段です。 ISO規格に沿った数値データを公開し、独立した検証員によって確かめられているため、企業の自己申告ではなく客観的な裏付けがあります。 EPDはまさに業界共通の「環境パフォーマンス指標」として機能し、企業間の健全な競争(環境性能の競争)を促すとともに、自社の環境コミットメントに信憑性を与えてくれるのです。


以上のように、EPD取得はサステナビリティ推進の一環であると同時に、ビジネスチャンスの拡大やリスク低減にも資する戦略的な取り組みと言えます。

建築業界においても、環境性能を数値で示せる製品は市場で選ばれやすくなっており、「環境対応=コスト負担」という従来の見方が、「環境対応=競争力強化」という新たな捉え方へと変わりつつあります。



  4.EPD取得の際の注意事項

EPDを取得するにあたっては、事前に知っておきたいポイントや留意事項があります。

初めて取り組む企業にとって、EPD取得プロセスはやや複雑に感じられるかもしれません。

以下に、主な注意事項を整理します。


  • ライフサイクルアセスメント(LCA)の適切な実施:  EPDの基盤はLCAによる環境データ算出です。したがって、自社製品の原材料調達から製造、出荷、使用、廃棄までの各工程に関するデータをきちんと収集し、ISO 14040/14044に準拠した方法で計算する必要があります。 自社内にLCAの専門知識が無い場合は、外部のLCAコンサルタントや研究機関の協力を得ることも検討してください。


  • PCR(製品カテゴリルール)の選定と遵守: EPDでは製品の種類ごとにPCRと呼ばれる算定・表示ルールが定められており、必ず該当するPCRに基づいてLCAを行い結果を整理する必要があります。 したがって、まず自社製品に該当するPCRがあるかを確認しましょう。SuMPO EPDやInternational EPD Systemのウェブサイト上で、公開済みのPCRを検索することができます。

    もし該当するPCRが存在しない場合は、新たにPCRを策定する手続きも可能です。


  • 第三者検証と社内準備: EPD取得には、公平性を担保するために第三者検証が必須です。 製品ごとのLCA結果をまとめたEPD報告書(ドラフト)を提出すると、登録された検証員(LCAの専門家)がその内容を審査します。 社内で準備すべきポイントとしては、検証員からの質問に答えられるよう算定の裏付け資料を整理しておくことです。具体的には、投入原料やエネルギー使用量の集計表、使用データの出典や計算シート、選択した排出係数(データベース)の情報などをまとめ、必要に応じて提示できるようにします。


  • 取得にかかる費用とリソース: EPD取得には一定の費用が発生します。主な内訳は、LCA実施のための社内外リソースコスト、第三者検証に対する手数料、そしてプログラムへの登録料です。 これらの公式費用に加え、LCA計算を外注する場合はコンサルタント費用がかかる点も考慮しましょう。

    自社で対応する場合でも、データ収集・整理や社内調整に人的リソースを割く必要があります。 しかし前述のメリットを踏まえれば、EPD取得は将来への投資とも言えます。

  • プログラムオペレーターの選定: EPDをどのプログラムで取得・登録するかも重要な検討事項です。基本的に、どの国のプログラムで発行されたEPDでもISO 14025準拠であれば国際的に通用しますが、用途やターゲット市場に応じた選択が有効です。 日本市場中心であればSuMPO EPDで取得するのが自然であると考えられます。


  • EPDの有効期間と更新: EPDは一度取得すれば永遠に使えるというものではなく、一定の有効期間が設けられています。多くのプログラムでは原則として発行後5年間を有効期限としています。 したがって、5年を経過して引き続きその製品のEPDを活用したい場合は、再度最新データでLCAを実施し直して更新版EPDを取得(再検証)する必要があります。 以上を踏まえ、EPD取得後も定期的なメンテナンスとフォローアップが欠かせません。


以上が、EPD取得にあたっての主な注意事項です。



5.おわりに

環境配慮が企業の信頼性や競争力に直結するいま、EPDは単なる「制度」ではなく、企業の姿勢を映す鏡になりつつあります。特に建築業界では、調達要件・評価制度・国際基準のどれをとっても、今後EPDの必要性はますます高まっていくでしょう。

初めは戸惑う点もあるかもしれませんが、社内の関係部署と連携しつつ(時には外部コンサルにも頼りながら)計画的に進めることで、EPD取得は達成できます。


環境経営を推進する企業ご担当者のみなさまには、ぜひ本記事を参考にEPDへの理解を深め、製品選定や企業戦略にお役立ていただければ幸いです。


また、私たちGreenGuardianでは、ISO規格に準拠したLCA(ライフサイクルアセスメント)算定サポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。


「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。


気軽に話せる【LCAまわりの“コンサル”】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。

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