IMO、国際海運に「排出量取引制度」導入へ。2027年発効目指すMARPOL条約改正案を承認【GHG・CO2削減】
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- 4月16日
- 読了時間: 7分
更新日:6月20日
こんにちは。
LCAコンサルタントの小野あかりです!
これまで何度か解説を行ってきた海運業界で、新たな動きがありましたので皆さんにシェアしたいと思います。
過去記事はコチラ:
【徹底解説】海運業界の脱炭素化最前線!2050年ネットゼロに向けた課題と展望
【2025年最新】IMO vs EU:海運の環境規制は何がどう違う?多くの業界に影響するってほんとう?
今回はタイトルにもあるとおり、IMOが「排出量取引制度」を導入したことに関する解説記事になります。
よろしければ最後までお付き合いください。
目次
2.MEPCとは?
8.おわりに
1.IMO、国際海運に「排出量取引制度」導入へ
2025年4月、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC 83)において、国際海運で排出される温室効果ガス(GHG)に対し、課金・取引の仕組みを導入する改正案が承認されました。
いわば「船舶版の排出量取引制度」。2027年の発効を目指し、今後の具体的な制度設計が進んでいきます。
2.MEPCとは?
MEPC(Marine Environment Protection Committee/海洋環境保護委員会)は、国際海運に関わる環境保全のルールをつくる国際的な委員会です。
船が海に与える環境負荷──たとえば温室効果ガス、硫黄酸化物、排水、ゴミ、バラスト水などの問題に対して、世界共通のルールを策定・更新しています。
会議は年に1〜2回開催され、加盟国の政府関係者だけでなく、業界団体やNGO、専門家なども参加。
各国の利害が交錯する中で、地球全体の持続可能性に資するルール作りを合意形成により進めていく場でもあります。
2023年には「IMO温室効果ガス削減戦略(2023 Strategy)」を改訂し、「2050年までに国際海運全体でGHG排出を実質ゼロにする」ことを目指すことが全会一致で合意されました。
今回の排出量取引制度(ネットゼロ枠組み)も、この戦略を実現するための具体策の一つです。
3.国際海運に関する環境ルールの全体像
これまでのコラムの中でも紹介しているとおり、IMOでは、すでに複数の脱炭素関連ルールが導入・検討されています。
今回の排出量取引制度は、その“第2ステージ”とも言える取り組みです。
ここで簡単に現状の整理をしてみたいと思います。
◆ すでに導入されているルール
EEDI(新しい船の燃費基準)
SEEMP(省エネ運航の計画づくり)
DCS(年間燃料使用量の報告)
EEXI(既存船へのエネルギー効率基準)
CII(炭素効率によるランク付け)
◆ 今後導入予定のルール(2027年発行予定)
排出量取引制度(IMOネットゼロ枠組み)
⇒ 船が出すGHGの量に応じて、排出権の課金・取引を行う新制度
◆ 現在検討中のルール
Feebate制度(CO₂排出に応じた課金・還付)
水素やアンモニアなど新燃料向けの安全ガイドライン
IMOは、段階的かつ実効性のあるルールづくりを進めており、海運の脱炭素化がより現実的なテーマとなりつつあります。
4.今回の新制度、何がどう変わる?
これまでは「エコな設計の船をつくること」や「省エネ運航」が中心でしたが、今後は実際に排出したCO₂の量に価格がつくようになります。
排出が多い船 → 課金対象となり、運航コストが増加
排出が少ない船 → 削減した分を「クレジット」として売却可能
企業にとっては、GHG削減の努力が直接的なコスト削減・利益機会につながるようになるわけです。
5.関係するのは海運業界だけじゃない
今回の制度の影響は、海運業界にとどまりません。次のような業界・立場にも、実は深く関係してきます。
貿易・製造業(荷主企業): 調達や物流にかかる排出量への対応が求められるようになります。 たとえば、アパレル・家電・食品・自動車など、海外で生産した商品を輸入している企業は、輸送時にどれくらいCO₂を出しているか、今後は説明責任を問われる可能性があります。
例:ユニクロ(ファーストリテイリング)、トヨタ、日清食品など
→ 商品1個あたりの「環境負荷」が見られるようになる時代に
エネルギー・燃料業界: 低炭素燃料への需要が高まる見込みです。 化石燃料を供給してきた事業者は、アンモニア・バイオ燃料・合成燃料などへの移行が急務に。サプライチェーンの上流からの転換が求められます。 例:ENEOS、出光興産、三菱商事の燃料供給事業 など
→ 脱炭素型燃料を扱う競争が激化
技術提供企業・メーカー: 燃費改善装置、省エネ機器、ゼロエミ燃料対応技術への期待が高まります。 船の燃費を良くするための技術(プロペラや船底塗料など)や、排ガスをクリーンにする装置など、「排出量を減らすための技術」全般が重要な商材になります。
例:日本製鋼所(舶用エンジン)、バラスト水処理システムメーカー、 風力補助帆の開発企業など
→ 補助的な装置も「環境投資」として注目
造船業界: 燃料転換や省エネ設計など、新しいニーズへの対応が必要です。
今後の新造船では、アンモニア・メタノール・電気など代替燃料対応が基本に。設計・建造・運用まで一貫して「環境対応型」が求められます。
例:ジャパン マリンユナイテッド、今治造船、川崎重工など
→ 船の“燃費”が価格競争力を左右する時代へ
6.今から企業が備えておくべきこと
制度の本格運用までには少し時間がありますが、今のうちから備えておくことで他社と大きな差をつけるチャンスになります。
自社のGHG排出量の把握(Scope1〜3含む)
取引先・物流パートナーの環境配慮状況の確認
低炭素な輸送手段への切り替え・検討
社内での情報共有と、部門を越えた連携強化
特に荷主企業は、「調達部門・物流部門・サステナビリティ部門」が連携し、対応戦略を立てることが不可欠になります。
7.改正案の今後のスケジュール
2025年秋ごろ:正式採択の予定(臨時MEPCで決定)
2027年初め:改正ルール発効見込み(採択後16か月)
ルールの詳細設計は今後詰められていきますが、方向性はすでに固まりつつあります。
8.おわりに
船の排出するCO₂は、これまで見えにくい存在でした。しかし今回の決定により、「見える化」され、金銭的なインパクトを伴って私たちに返ってくる時代に入ります。
自社がどこで排出に関わっているのか、どこから影響を受けるのか。今からの備えが、将来の競争力につながります。
ルールがどんどん変わっていく中で、「うちも何か始めないと…」と感じている企業さんは少なくないと思います。
私たちのコラム記事では今後も海運業界の規制動向について適宜発信していきますし、他業種の排出規制状況などについても調査・発信していく予定です。
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