【最新版】削減貢献量とは?WBCSD新ルール・国内動向をLCAコンサルタントが徹底解説
- 7月1日
- 読了時間: 11分
こんにちは!LCAコンサルタントの小野あかりです。
「自社の製品は、社会全体のCO2削減に役立っているはずなのに、その価値をうまく示せない」
——そんなモヤモヤを感じたことはありませんか。
その答えになりうるのが、いま国際的に注目を集めている「削減貢献量(Avoided Emissions)」です。
削減貢献量とは、自社の製品・サービスが使われることで、社会全体(使用者側)のGHG排出削減にどれだけ貢献したかを定量化した指標のこと。
2025年7月にはWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が最新ガイダンス「v2.0」を公開し、ルール整備が大きく進みました。
ただ、この削減貢献量、「ルールが複雑で何が正しいのか分かりにくい」「Scope3とどう違うの?」という声もよく耳にします。
そこでこの記事では、削減貢献量の基本から最新ルールのポイント、国内の動向、そして実務上の注意点まで、初心者の方にも分かりやすく整理してお届けします。
ぜひ最後までお付き合いください。
📖 前編・関連記事のご紹介 この記事は、温室効果ガスの算定・開示の知識があるとより深く理解できます。 ・Scope1・2・3の基本から知りたい方 → Scope1・2・3とは?それぞれの定義と企業が対応すべき理由を徹底解説 ・開示制度の全体像をつかみたい方 |
目次
1.削減貢献量とは?Scope3との違いをやさしく解説
削減貢献量(Avoided Emissions)とは、自社の製品・サービスの使用を通じて、社会全体(使用者側)のGHG排出量削減に貢献した量を定量化したものです。
ここで一番大切なポイントをお伝えします。
削減貢献量は、Scope1・2・3(インベントリ会計)とはまったく別の考え方に基づいています。
Scope1~3が「自分が出した排出の積み上げ」であるのに対し、削減貢献量は「自社の製品が世の中に介入した結果、社会全体でどれだけ排出が減ったか」を捉えるインターベンション(介入)会計の考え方です。
俗に「Scope4」と呼ばれることもありますが、正式なScopeではない点には注意してください。両者の違いを表にまとめると、次のようになります。
項目 | Scope1・2・3 | 削減貢献量 |
会計の考え方 | インベントリ(在庫)会計 | インターベンション(介入)会計 |
測るもの | 自社が実際に排出した量 | 社会全体で削減に貢献した量 |
評価の方向 | 減らすべき負の量 | 増やせる正の貢献 |
比較対象 | — | ベースライン(参照シナリオ) |
他の量との合算 | インベントリ内で合算 | Scope1~3と合算・相殺は禁止 |
Scope1~3そのものについては、「Scope1・2・3とは?それぞれの定義と企業が対応すべき理由を徹底解説」で詳しく解説していますので、基礎から確認したい方はあわせてご覧ください。
ベースライン(参照シナリオ)がカギ
削減貢献量を算定するうえで欠かせないのが、ベースライン(参照シナリオ)という考え方です。
これは、「もしその製品がなかったら、代わりに何が使われ、どれだけ排出されていたか」という仮想の状況を指します。
たとえば省エネ性能の高い新型エアコンなら、「もしこの製品がなければ従来型のエアコンが使われていただろう」というシナリオを設定し、その差分を貢献量として計算します。
このベースラインの置き方ひとつで数値が大きく変わるため、最新ルールでは設定方法が重視されています。
2.なぜ今、削減貢献量が注目されているの?
削減貢献量への注目度は、ここ数年で着実に高まっています。背景には、大きく3つの理由があります。
理由①:Scope3だけでは見えない「成長のパラドックス」
Scope1~3だけで企業を評価すると、優れた省エネ製品がたくさん売れて社会のCO2が減っても、製造量が増えることで自社のScope3排出はむしろ増えてしまうという矛盾が生まれます。
これでは「良い製品を世に広めた企業」がネガティブに評価されかねません。
みずほフィナンシャルグループの「削減貢献量フォーカスレポート」でも、削減貢献量はこうした評価を補うポジティブ・インパクト指標として有効だと提唱されています。
理由②:国際的な公式承認が進んだ
2023年に北海道で開かれたG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合では、閣僚声明のなかで「削減貢献量を認識することにも価値がある」と公式に言及され、国際的な認知が高まる一つの契機になったと位置づけられています。
理由③:巨大な投資ニーズとの結びつき
IEA(国際エネルギー機関)の試算によると、1.5℃目標の達成には2030年代初頭までに年約4.5兆ドル規模のクリーンエネルギー投資が必要とされています(2023年の約1.8兆ドルからの引き上げ)。
こうした巨額の資金について、削減への貢献度を測るための“ものさし”としても、削減貢献量への期待が高まっているのです。
実際に日本でも開示が広がっており、みずほフィナンシャルグループの調査によると、統合報告書等で削減貢献量を開示している日本企業は2023年度に122社(うちTOPIX500構成銘柄91社)、2024年度には180社(うちTOPIX500構成銘柄120社)に拡大しています。業種別では「電気機器」が最も多く(29社)、次いで「化学」(19社)、「建設業」(16社)と続きます。
3.WBCSD「v2.0」の最新ルール3つのゲートとは?
では、最新ルールの中身を見ていきましょう。
2025年7月24日、WBCSDは削減貢献量の算定・開示に関する最新ガイダンス「Guidance on Avoided Emissions v2.0」を公開しました。
現在、国際的に広く参照されている代表的なガイダンスのひとつです。
v2.0の最大の特徴は、削減貢献量を主張してよいかどうかを判断する3つのゲート(関門)を設けたことです。
ゲート | 名称 | 確認する内容 |
ゲート1 | 気候変動対策の信頼性 | 自社がきちんと脱炭素に取り組んでいるか(SBT設定など) |
ゲート2 | 最新の気候科学との整合 | 最新の気候科学と整合した算定になっているか |
ゲート3 | 貢献の正当性 | その製品が削減に直接的・有意な影響を与えているか |
特に重要なのがゲート3「貢献の正当性(Contribution Legitimacy)」です。
これは、製品が削減効果に対して「直接的・有意・脱炭素に資する影響(Direct, Significant, Decarbonizing Impact)」を与えているかを問うものです。
WBCSDの最新ルールでは、たとえばEV(電気自動車)用の「従来型のカーシート」や、風力発電設備用の「標準的なコンクリート土台」などは、最終製品の削減効果に対する特段の工夫がない限り、削減効果への直接的かつ有意な寄与を説明できない場合、削減貢献量として認められにくくなっています。
「再エネ関連の部品なら何でも貢献量にできる」わけではない、という点は誤解しやすいので注意が必要です。
寄与率と二重計上の回避
もうひとつv2.0で重視されているのが寄与率(Contribution Ratio)です。
ひとつの製品の削減効果には、部品メーカー・完成品メーカーなど複数の関係者が関わっています。
それぞれが削減量を全量計上すると、社会全体の削減量を実態より大きく見せる「二重計上」が起きてしまいます。
これを避けるため、各社が「自分はどれだけ貢献したか」を配分する寄与率を設定する必要があるのです。
なお、削減貢献量の透明性と比較可能性を高める動きとして、欧州では投資家主導で削減貢献量係数のグローバル・データベースの構築が進められています。
今後さらに算定環境が整っていくと考えられます。
4.日本国内のルールはどうなっている?
削減貢献量は国際ルールだけでなく、日本国内でも複数のガイドラインが整備されています。
代表的なものを整理しましょう。
➀経済産業省のガイドライン
日本では早くから、経済産業省が「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン」(2018年策定)を整備しています。
ライフサイクル全体での比較によって削減貢献量を定量化する、という基本的な考え方を示した国内の出発点です。
➁GXリーグの基本指針
GXリーグの「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」では、削減貢献量を「気候関連のリスク」ではなく、純粋な「気候関連の機会」として位置づけているのが特徴です。
そして開示の前提として、自社の科学的根拠に基づく排出削減目標やトランジション戦略の策定を前提としています。
ここはWBCSDのゲート1とも共通する、非常に大切な考え方です。
「まず自社がしっかり減らす」ことが、削減貢献量を語る大前提なのです。
SBTについては「中小企業版SBTとは?メリットや取得までのステップをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
➂日本LCA学会のガイドライン
日本LCA学会は、製品レベルの算定について「温室効果ガス排出削減貢献量算定ガイドライン(第2版)」(2022年)を、組織レベルについて「組織の温室効果ガス排出削減貢献量の算定と開示に関するガイドライン」(2024年)を整備しています。
特に後者は、組織全体の削減貢献量を算出する際に、製品間の重複計上を回避する具体的な手順(寄与率の設定など)を示しています。
そして特に重要なのが、組織のカーボンフットプリント(Scope1~3)から削減貢献量を差し引く(オフセットする)ことを厳格に禁止している点です。これは国内外のルールに共通する大原則です。
➃金融分野での広がり
金融の世界でも削減貢献量の活用が進んでいます。
PCAF(金融のための炭素会計パートナーシップ)の補足文書では、金融機関が投融資先の削減貢献量を「Financed Avoided Emissions」として報告することを認めています。
かつては再生可能エネルギープロジェクトへの単独ファイナンスが主な対象でしたが、2025年の補足ガイダンスでは一般的なコーポレートローンなど幅広い活動に対象が広がっています。
一方で、ベースライン(参照シナリオ)の設定などに厳格な要件が課されており、対象拡大に伴うグリーンウォッシュへの懸念も指摘されています。
また日本では、削減貢献量の目標達成度を貸付条件と連動させる「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」のSPT(目標)に採用した融資実績も、すでに登場しています。
5.削減貢献量を使うときの注意点は?
最後に、削減貢献量を実務で扱う際に押さえておきたい注意点を整理します。
ここを誤ると、せっかくの前向きな指標が「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」と受け取られかねません。
注意点①:Scope1~3と相殺してはいけない
削減貢献量は、自社の排出量(Scope1~3)を打ち消すために使ってはいけません。
あくまで別建てで、補完的に開示するものです。
注意点②:自社の削減努力が大前提
WBCSDのゲート1やGXリーグの指針が示すとおり、自社がきちんと排出削減に取り組んでいることが前提です。
注意点③:ベースラインと寄与率を誠実に設定する
都合のよいベースラインを選んだり、寄与率を考えずに全量計上したりすると、過大評価につながります。
学術研究でも、算定方法のばらつきが課題として指摘されています。
GreenGuardianは、「やって終わり」ではなく、しっかり活用してこそ意味があると考えています。
削減貢献量も、正しく算定し誠実に開示することで、適切な開示を通じて、ステークホルダーとの対話に活用できる可能性があります。
算定の土台となるLCA(ライフサイクルアセスメント)については「LCAとは?企業が知っておくべき基礎知識と導入方法」もご参照ください。
6.まとめ
今回は、削減貢献量(Avoided Emissions)の基本と最新ルールについて解説しました。ポイントを振り返ります。
· 削減貢献量は、自社製品が社会の排出削減にどれだけ貢献したかを示すポジティブな指標
· Scope1~3とは別物で、相殺・合算はできない
· 2025年7月のWBCSD「v2.0」は、3つのゲート(信頼性・科学的根拠・貢献の正当性)を設定
· 国内でも経産省・GXリーグ・日本LCA学会のルールが整備されている
· 「まず自社が減らす」ことが大前提。ベースラインと寄与率の誠実な設定がカギ
削減貢献量は、これからの脱炭素経営において、自社の前向きな価値を伝える有力な手段の一つになり得ます。
一方で、ルールはまだ発展途上の部分もあり、誠実な算定と開示が問われます。
なお、本記事と「SBTi・SSBJ・GX-ETS時代に企業は何を求められるのか?」をあわせてお読みいただくことで、「自社の削減(Scope1~3)」と「社会への貢献(削減貢献量)」という両輪の全体像がつかめます。
ぜひセットでご覧ください。
私たちGreenGuardianでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。
「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。
気軽に話せる【LCAまわりの“コンサル”】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。
ご相談はいつでもお気軽にどうぞ!

出典・参考情報
本記事は、以下の一次情報・公的資料等を参照して作成しています(最終アクセス:2026年6月)。
1. WBCSD「Guidance on Avoided Emissions(v2.0)」(2025年) https://www.wbcsd.org/resources/guidance-on-avoided-emissions-helping-business-drive-innovations-and-scale-solutions-toward-net-zero/
1. WBCSD「Avoided emissions Implementation hub」 https://www.wbcsd.org/avoided-emissions-implementation-hub/
2. 経済産業省「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン」(2018年) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/kankyou_keizai/va/gvc_guideline.html
3. GXリーグ「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」 https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXLeague_guidance_jp.pdf
4. GXリーグ「削減貢献量 事業会社による推奨開示仮想事例集」(2024年) https://gx-league.go.jp/news/20240531/
5. 日本LCA学会「温室効果ガス排出削減貢献量算定ガイドライン(第2版)」 https://www.ilcaj.org/lcahp/doc/guideline_ver2_.pdf
6. 日本LCA学会「組織の温室効果ガス排出削減貢献量算定・開示ガイドライン」(2024年) https://www.ilcaj.org/lcahp/doc/guideline_20241224_.pdf
7. PCAF「Financed Avoided Emissions & Forward-Looking Metrics(補足ガイダンス)」(2025年) https://carbonaccountingfinancials.com/files/standard-launch-2025/PartA-PCAF-Supplement-Avoided-Emissions-FLM.pdf
8. みずほフィナンシャルグループ「削減貢献量フォーカスレポート」(2024年)/「削減貢献量フォーカスレポート2025」(2025年。開示企業数・業種別データの出典) https://www.mizuho-sc.com/company/initiatives/sustainability/finance/pdf/avoided_emission_report.pdf / https://www.mizuho-fg.co.jp/sustainability/report/pdf/avoided_emission_report_2025.pdf
9. SBTi「Corporate Net-Zero Standard V2.0」 https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2
10. GHG Protocol「Actions and Market Instruments Standard」 https://ghgprotocol.org/actions-and-market-instruments-standard
11. 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.7)」(2025年) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.7.pdf
12. O'Keeffe & Brander「Mapping the landscape of corporate avoided emissions accounting methodologies」Carbon Management(2025年) https://doi.org/10.1080/17583004.2025.2504936
13. O'Keeffe & Brander「A comparison of methodologies for avoided emissions quantification」Journal of Cleaner Production(2026年) https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2026.147672
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