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SBTi・SSBJ・GX-ETS時代に企業は何を求められるのか?――Scope3・開示義務化・脱炭素経営の次の論点

  • 2 日前
  • 読了時間: 11分

こんにちは!

LCAコンサルタントの小野あかりです。


2026年、日本の脱炭素対応は大きな節目を迎えています。

サイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアチブ(Science Based Targets initiative、以下SBTi)の認定取得企業数で日本が世界1位に。


サステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan、以下SSBJ)の開示基準が有価証券報告書で段階的に義務化。

GX排出量取引制度(以下GX-ETS)も第2フェーズで本格稼働。算定SaaSツールも進化し、温室効果ガス(GHG)の「可視化」自体は以前より取り組みやすくなっています。


いまや「数字を出すこと」自体は、それだけでは差別化が難しくなりつつあります。

では、これから企業に問われるのは何でしょうか。

今回のコラムでは、各制度の最新動向を整理しながら、「可視化の次に来るもの」を一緒に考えていきます。

ぜひ最後までお付き合いください。


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目次



1.SBTi世界1位が示すもの——量的拡大の達成

SBTi公式発表によれば、2026年1月時点でSBTi認定取得企業数は世界全体で10,000社に到達し、その中で日本は2,000社超を擁する国別世界1位となりました。

さらにSBTiの「Trend Tracker 2025」によれば、認定取得済みまたはコミット済みの企業は、2024年末時点で世界全体の時価総額の約41%をカバーしているとされています。

ただし、この「世界1位」の中身を見ると、いくつかの特徴が浮かび上がります。


WWFジャパンの集計によれば、2025年10月時点で日本のSBT認定・コミット企業約2,000社のうち、約79%が中小企業版SBT(SBT for SMEs)による認定です(全世界の中小企業比率は約42%)。

中小企業版SBTはScope 3の算定要件を限定的にした、より取り組みやすい枠組みです。


また、日本企業の認定数が突出している背景には、日本特有の政策的後押しがあります。

環境省は2017年度から「SBT目標設定支援事業」を継続し、中小企業に無償でコンサルティング支援を提供。

経済産業省の「ものづくり補助金」では、2024年度までグリーン枠(アドバンス類型・補助上限4,000万円)の申請要件の選択肢の一つにSBT認定が含まれていました(2025年度以降は「製品・サービス高付加価値化枠」等に再編)。

また、国土交通省の一部入札や一部自治体の公共調達ではSBT認定が加点対象に位置付けられているケースもあります。

 💡中小企業版SBTの詳細は中小企業のSBT認定取得とはで解説しています。


つまり、日本の世界1位は政策的後押しと、大企業を起点とするサプライチェーンを通じた脱炭素ドミノが、中小企業層の参加拡大を支えてきた結果と言えます。

これは大きな成果である一方、今後は量から質への移行が問われる段階に入りつつあると捉えるのが妥当でしょう。



  2.SSBJとGX-ETS——「可視化」がいよいよ義務になる

自主基準としてのSBTiに加え、日本では法的拘束力のある規制が同時に動き始めています。


SSBJ基準による有価証券報告書での開示義務化

金融庁の金融審議会ワーキング・グループは2025年7月に適用ロードマップを公表し、2026年2月の内閣府令でSSBJ基準への準拠が法的義務として確定しました。


適用時期 対象企業

適用時期

対象企業

2027年3月期

時価総額3兆円以上(約68社)

2028年3月期

時価総額1兆円以上3兆円未満

2029年3月期

時価総額5,000億円以上1兆円未満

開示対象には、Scope 1(直接排出量)、Scope 2(電力等による間接排出量)、Scope 3を含むGHG排出量に加え、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標などのサステナビリティ関連情報が含まれます。

また、第三者保証(限定的保証)は適用開始の翌年から段階的に導入され、当初2年間はScope 1・2およびガバナンス・リスク管理が保証対象となる予定です。

💡 SSBJ基準の詳細はScope 3排出量とSSBJ基準SSBJ基準とGHGプロトコルで詳しく整理しています。


GX-ETS第2フェーズの本格稼働

経済産業省が推進するGXリーグは2024年4月時点で747者が参画し、日本全体の温室効果ガス排出量の5割超をカバーするとされています。

改正GX推進法(2025年6月公布)により、2026年4月から第2フェーズに移行し、直近3カ年度平均で直接排出量が年間10万t-CO2以上の事業者には、段階的に排出枠の保有・償却などの義務が課されていきます。


つまり、これまで「自主的なアクション」だった目標設定が、未達の場合の排出枠購入を通じた財務的リスクと結びついていきます。

算定し、開示し、不足分は排出枠で償却する

——「可視化」が制度として組み込まれる段階に入りつつあります。



  3.Scope1〜3算定ツールの進化で見えてきた、新しい論点

「可視化」の社会的インフラとして、近年急速に普及しているのが算定SaaSツールです。

これらのツールの一部は、活動量データと排出係数データベースの自動マッチングによるScope 1〜3算定から、製品別カーボンフットプリント(CFP)算定、経済産業省推進のウラノス・エコシステムを通じた一次データ連携基盤の整備、第三者保証対応まで、機能とサービスの両面で急速に高度化しています。

こういったツールを活用することで「数字を出すこと」自体の難易度は、確実に下がっています。


一方で、ツールが進化するからこそ、より明確に見えてくる論点があります。

経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」も指摘するように、ISO 14067:2018やGHGプロトコル製品基準には解釈の余地のある箇所や明記されていない事項が多く、企業は以下のような選択を自社の事業戦略に応じて行う必要があります。

  • 機能単位や算定境界をどう設定するか

  • 業界固有の算定論点(食品の畜産排出の配分方式、化学副生成物の配分方式、建設の長期資産の按分など)でどの選択肢を採るか

  • 二次データから一次データへの移行をどの順序で進めるか

  • 削減施策の優先順位を、どのKPIで判断するか

  • 算定結果を、製品ポートフォリオや調達戦略にどう接続するか

  • 第三者保証時の「見積りの合理性」を、どんな根拠で説明するか


ツールは選んだ方針を効率的に実装する道具ですが、「何を、どう測るか」という方針の選択そのものは、企業の事業特性と戦略に応じて判断する領域です。算定インフラが整うほど、こうした「設計と判断の領域」が次の論点として立ち上がってきます。

💡 関連動向はサステナビリティの潮目2025年5月最新ニュースもあわせてご覧ください。



  4.Scope3開示・一次データ化で現場に起きていること

可視化の中で最も難しいのがScope 3です。

実は規制当局自身が、その困難さを認めています。


SSBJハンドブックの気候基準BC146項は「Scope 3温室効果ガス排出を測定する実務は現在もなお発展途上であるため、測定実務の進展にあわせて段階的に開示を拡充するアプローチを採用することが適切」と明記しています。

また金融庁は、Scope 3開示について「セーフハーバー制度」——合理的な見積りプロセスを説明できれば虚偽記載責任を問わない制度——の導入に向けた制度整備を進めています。

現場では以下のような実態も顕在化しています。

  • CDP関連の集計によれば、依頼を受けたサプライヤーのうち応答したのは約36%にとどまる

  • 複数の大手企業と取引のあるサプライヤーは、似た内容のサステナビリティ調査を異なる形式で繰り返し受ける「調査疲れ」が現場の課題として広く指摘

  • 二次データ依存ではサプライヤーの削減努力が算定に反映されない構造的問題

  • バリューチェーン内で同じ排出が複数企業に算入される二重計上


サプライヤー側に求められるのは、Scope 3そのものではなく、自社のScope 1・2を製品単位に按分したデータや、製品別CFPです。

これらが買い手側のScope 3カテゴリ1(購入した製品・サービス)の一次データになります。

SSBJ規制が当面Scope 1・2中心の保証で進んでも、SBTi V2.0の一次データ評価、CDPサプライチェーンプログラム、EU炭素国境調整措置(CBAM)など、別ルートからの一次データ要請は今後さらに強まると見込まれます。

💡  Scope 3の最新動向はScope 3排出量算定 2024年版グリーンウォッシュ規制の最新動向もご参照ください。



  5.脱炭素経営は「可視化」の次へ——数字を活用するフェーズへ

ここまでの整理から見えてくるのは、企業の脱炭素対応が「可視化フェーズ」から「活用フェーズ」へ移行しているという構図です。

フェーズ

主な課題

可視化フェーズ(〜2026年頃)

数字を出すこと、算定インフラの整備

活用フェーズ(2026年〜)

数字の解釈、選択と判断、戦略への接続

可視化フェーズが社会全体で進むと、次に問われるのは「その数字で何をするか」です。

具体的には以下のような論点が浮上します。

  • 算定結果のどこにホットスポットがあり、どの施策に投資すべきか

  • 製品別CFPで自社の競争力をどう示すか(特にEU CBAM対応)

  • 二次データから一次データへの移行をどう設計するか

  • SBTi CNZS V2.0草案で議論されている「資産脱炭素化計画」など、事業構造に踏み込んだ計画をどう作るか

  • 第三者保証に耐える算定プロセスをどう文書化するか


これらは「数字をどう出すか」ではなく、「数字をどう経営判断につなげるか」という設計と判断の領域です。ライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方、業界固有の算定論点への理解、削減施策の費用対効果シミュレーション、事業戦略との接続——可視化が義務化される時代だからこそ、これらが企業の脱炭素対応の本丸になります。



  6.まとめ:自社のフェーズを見極める3つの問い

ここまで読んでくださった皆さまに、自社が「可視化フェーズ」と「活用フェーズ」のどこにいるかを見極めるための、3つの問いをお届けします。


問い①:自社のScope 1〜3の数字は出ていますか?

 → NOなら、まずは可視化フェーズの完遂が優先です。環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」のガイドブック活用から始めましょう。


問い②:出てきた数字を、削減施策の優先順位付けに使えていますか?

 → NOなら、活用フェーズへの入り口です。ホットスポット分析、シナリオ比較、投資対効果のシミュレーションが次の打ち手になります。


問い③:取引先や保証機関から「数字の根拠」を問われたとき、説明できますか?

 → NOなら、一次データ化と算定プロセスの文書化が急務です。SBTi V2.0や金融庁セーフハーバー制度が求めるのは、まさにプロセスの説明可能性です。


3つすべてに「YES」と答えられる企業は、すでに活用フェーズに入っています。

1つでも「NO」があれば、そこが次の伸びしろです。


可視化や定型的な開示対応は前よりも格段に効率化されました。

一方で、業界特有の算定論点をどう解釈するか、自社製品の競争力にどうつなげるか、削減投資の優先順位をどう決めるかといった「自社の事業に固有の設計と判断」は、外部に丸投げできない領域として残ります。

私たちGreen Guardianは、こうした領域でLCAの専門知見をベースに企業と一緒に考える伴走者として、皆さまの脱炭素対応をお手伝いしています。


「やって終わりではなく、しっかり活用する。これは投資であり、損をさせない」——可視化が義務化される時代だからこそ、算定を形式的な開示作業で終わらせず、事業の競争力につなげることが企業の脱炭素対応の本丸になります。


本記事と、中小企業のSBT認定取得サステナビリティ情報開示の義務化Scope 3排出量の基本を合わせてお読みいただくことで、「自社が次に何をすべきか」の見取り図がはっきりするはずです。


私たちGreen Guardianでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)をベースにしたサポートや、現場目線でのコンサルティングを通じて、脱炭素やサステナビリティ対応をお手伝いしています。「何から手をつけたらいいか分からない」という方も大歓迎です。気軽に話せる【LCAまわりの"コンサル"】として、お困りごとを一緒に整理するところから伴走します。ご相談はいつでもお気軽にどうぞ!


社員のプロフィール写真

主な参考文献・情報源

◆政府機関・公的機関

· 金融庁「サステナビリティ開示基準の適用及び保証制度の導入に向けたロードマップ」(2025年7月17日)

· 金融庁 サステナビリティ情報の開示と保証ワーキング・グループ 事務局説明資料(2025年10月30日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20251030/01.pdf

· サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準」(2025年3月5日公表)https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html

· SSBJハンドブック(2025年10月版)

· 経済産業省「成長志向型カーボンプライシング構想(GXリーグ・GX-ETS)」https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gx-league.html

· 経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」(2023年5月)https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_footprint/pdf/20230526_3.pdf

· 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出量削減目標の設定」https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/decarbonization_05.html

◆国際機関(SBTi)

· SBTi公式プレスリリース「Corporate climate action momentum builds as SBTi reaches 10,000 companies with validated targets」(2026年1月)https://sciencebasedtargets.org/news/sbti-celebrates-10000-company-validations

· SBTi Target Dashboard(公式ターゲットダッシュボード)https://sciencebasedtargets.org/target-dashboard

· SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0 第二次草案(2025年11月)https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/CNZS-V2-Second-Consultation-Draft.pdf

◆業界団体・NGO

· WWFジャパン「日本企業脱炭素本気度ウォッチ」https://www.wwf.or.jp/activities/activity/5512.html

· 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)「日本の次期温室効果ガス削減目標およびエネルギー基本計画に対する提言」(2025年1月22日)https://japan-clp.jp/wp-content/uploads/2025/01/20250122_JCLP_Statement.pdf


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