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炭素会計ツールだけでは見えない領域──方式の限界と、次の一歩としてのLCA


企業の間で、請求書や会計データを用いて温室効果ガス排出量を自動算定する「炭素会計ツール」が広く使われ始めている。業務の負荷を抑えつつ、Scope1〜3の全体像を把握できるため、環境経営の“第一歩”として価値の高い仕組みの一つだ。

一方で、この方式には「請求・会計データだけでは取得できない情報がある」という構造的な限界も存在する。これはツールの品質とは無関係で、方式そのものが持つ特徴である。

本稿では、炭素会計ツールの役割と、方式上カバーしきれない領域、そしてそれを補うためのLCAの意義を整理する。


目次




1. 炭素会計ツールの役割

まず強調したいのは、炭素会計ツールの利点は大きいということだ。

  • 会計データを取り込むだけで素早く算定できる

  • 専門知識がなくてもはじめやすい

  • 社内の理解促進や報告体制づくりに役立つ

環境経営を考えはじめた企業にとって、導入メリットは明確である。



2. 一方で「方式として不可能な領域」がある

請求書や会計データをもとに算定する方式は便利だが、“支出があるものだけ”“請求書に書かれた情報だけ” を扱うため、情報そのものが存在しなければ算定を行うことができない。

これはツールの不足ではなく、「入力データの性質上どうしても埋まらない領域がある」という構造の問題である。

代表的なものを整理する。



3. ツールでは扱えない / 不正確になりやすいScope3カテゴリ

(1)カテゴリ11:販売後の製品の使用段階

使用段階の排出量は、請求書には含まれない以下の情報で決まる。

  • 稼働時間

  • 消費電力・燃料

  • 使用地域の電力係数

  • 使用年数・耐久性   等々

これらが無いため、使用段階(カテゴリ11)は炭素会計ツールでは算定が難しい。

そもそもユーザーの電力の請求書は自社には届かない。

省エネ性が価値の中心にある製品ほど、この部分が重要になる。


(2)カテゴリ4:相手負担の輸送

サプライヤーや顧客が負担する輸送には請求書が発生しない。そのため、自社で費用を負担していない輸送は“排出ゼロ”として扱われてしまう。

実際には排出があるのに反映されない。


(3)カテゴリ5:廃棄物(相手側処理分)

顧客・サプライヤー側で処理される廃棄物、包装、残渣などは企業の会計データに表れないため、算定が難しい。


(4)カテゴリ12:販売した製品の廃棄

顧客側での廃棄量や処理方法は把握できない。そのため、製品の最終廃棄はツールでは原則扱えない。


(5)カテゴリ6・7:出張・通勤

請求書からは「距離」「移動手段」「回数」が分からないため、正確に算定することが難しい。


(6)カテゴリ3:燃料使用量

燃料価格が変動するため、金額=消費量とは一致せず、推計が不安定になりやすい。


(7)カテゴリ2:資本財

設備排出量を本来のルールどおり扱うには、

  • 製造時の排出

  • 耐用年数

  • 年あたり按分

が必要だが、請求書にはそこまでの情報がない。



4. これらはツールの「欠点」ではなく、“方式の限界

誤解しがちだが、これはツールの質の問題ではなく、会計データを起点にした算定方法そのものの限界である。

つまり、

  • ツールを変えても同じギャップが生じる

  • 追加データがなければ埋まらない

  • 方式として取得できる範囲が決まっている

という構造になっている。



5. ではどう補えばよいのか?──次のステップ

企業が環境経営を進めていくと、やがて次のようなニーズが生まれる。

  • 製品の環境価値を正しく伝えたい

  • 省エネ改善の実際の効果を示したい

  • 顧客や海外規制への対応が必要になった

  • 製品開発や営業で使える分析がしたい

ここから先は、請求データだけでは対応できない。

そこで必要になるのが、“精密なLCAアプローチ” である。精密なLCAアプローチでは、実際の活動量や稼働条件をもとにモデル化するため、上記では含まれていなかった

  • 使用段階での排出

  • 相手負担の輸送

  • 最終的な廃棄

  • 製品ごとの差別化要因

といった項目まで評価できる。



6. 炭素会計ツールと精密なLCAアプローチは「競合」ではなく「段階の違うパートナー」

炭素会計ツールは“入り口”であり、精密なLCAアプローチは“より深い分析”のための方法である。両者は役割が全く異なり、補完関係にある。

  • 炭素会計ツール: 大まかな全体像の把握、社内浸透、報告体制の構築

  • 精密なLCAアプローチ: 上記の補完、改善効果の定量化、製品価値の可視化、国際要求への対応

環境経営を進める企業は、この両者を段階に応じて使い分けながら、確実にステップアップしていく。



まとめ

炭素会計ツールは、環境経営の出発点としての価値がある。しかし、請求・会計データを起点とする方式上、どうしても算定できない/不確かな領域が存在する。

特に重要なのは:

  • 使用段階

  • 相手負担の輸送

  • 相手負担の廃棄

  • 出張・通勤などの行動データ

といった“請求書に載らない領域”である。

こうした部分を補い、より正確な意思決定につながる分析を行うためには、精密なLCAアプローチという次のステップが不可欠になる。

様々な規制や助成制度、グリーンウォッシュの報告などが出てくる中、それらに対応するために可能であればLCAの専門家と共に精密LCAで深い部分に踏み込むことが、企業経営に大きな助けになっていくだろう。



GGコンサルタント




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