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サステナビリティ開示の第三者保証とは?限定的保証と合理的保証をやさしく整理

  • 12 分前
  • 読了時間: 14分

こんにちは!

LCAコンサルタントの小野あかりです。

前回の記事「Scope3のセーフハーバー制度とは?SSBJ時代の開示リスクと免責条件をわかりやすく解説」では、企業が誠実に開示した将来情報やScope3排出量について、後から実際の数字とズレても法的責任を問われない「開示する側を守る」仕組みを解説しました。


今回はその対になるテーマ──「開示された情報そのものの信頼性を、社外の専門家がどう裏付けるか」のお話です。

財務情報と同じように、独立した第三者が数字をチェックしてくれる仕組み、それが第三者保証


セーフハーバーで企業を守りつつ、第三者保証で開示の信頼性を確保する

──この2つが両輪となって、サステナビリティ情報開示は「投資家が安心して判断できる開示」へと進化していきます。

 

ここで多くの方が最初に戸惑うのが、「限定的保証」と「合理的保証」という似て非なる2つの保証水準です。

多くの国の制度は、まず負担の軽い限定的保証から導入するという共通の出発点を持っています。

そのうえで、その先に合理的保証へ進むのか、当面は限定的保証にとどめるのかは、制度ごとに判断が分かれているのが2026年5月時点の状況です。日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会基準)に基づく開示への第三者保証も、「限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わない」という方針が示されています。

 

この記事では、第三者保証の基本と、限定的保証/合理的保証の違いを図表で整理したうえで、日本のSSBJで示されている保証水準の方針と、企業がいまから備えるべき準備を、初心者の方にもわかりやすく解説します。

ぜひ最後までお付き合いください。

📖前編・関連記事のご案内

本記事は、特に下記の前編記事と合わせてお読みいただくと、「企業を守るセーフハーバー」と「情報を信頼できるものにする第三者保証」という両輪の関係性が立体的に理解できます。

· 【前編】Scope3のセーフハーバー制度とは?SSBJ時代の開示リスクと免責条件をわかりやすく解説

· SBTi・SSBJ・GX-ETSとScope3の関係を整理した記事

· サステナビリティ開示におけるLCAの役割を解説した記事

(各記事のリンクは、記事末尾「★あわせて読みたい関連記事」に掲載しています)


目次



1.第三者保証とは?サステナビリティ開示で注目される背景

第三者保証(Third-party Assurance)とは、企業が開示するサステナビリティ情報(GHG排出量、気候関連リスク、人的資本など)の信頼性と透明性を高めるために、独立した第三者がその情報の妥当性を検証する仕組みのことです。

財務情報の世界では、上場企業の決算書を監査法人がチェックする「会計監査」が当たり前になっています。

サステナビリティ情報についても、同じように社外の専門家が「数字を信用していいですよ」と裏付けてくれる仕組みが、いま整備されつつあります。

 

なぜ今、第三者保証なのでしょうか。

背景には、サステナビリティ情報が各社の自主的な開示物から、有価証券報告書という法定開示書類に位置づけられるという大きな転換があります。

金融庁の「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」では、SSBJ基準の段階適用に合わせて、第三者保証の義務化が議論されてきました。

国際的にも、IAASB(国際監査・保証基準審議会)が2024年11月にISSA 5000(International Standard on Sustainability Assurance 5000:サステナビリティ保証業務の一般的要求事項)を公表しました。

2026年12月15日以降に開始する報告期間から適用可能となり、世界共通の保証基準として動き始めています。



  2.限定的保証と合理的保証はどう違う?

第三者保証には、限定的保証(Limited Assurance)合理的保証(Reasonable Assurance)という2つの水準があります。どちらも「保証」ですが、その厳しさと表現が大きく違います。

簡単にいえば──

· 限定的保証は「ざっと確認した限り、おかしなところは見つかりませんでした」というレビュー水準

· 合理的保証は「すべての項目を確認し、適正に表示されていることを確認しました」という監査水準

比較表で整理しましょう。

項目

限定的保証

合理的保証

保証水準

レビュー水準

監査水準(財務監査と同等)

主な手続

質問・分析的手続が中心

内部統制の運用評価、実証手続、実査、外部照合などを深く実施

証拠の量

限定的

多量

結論の表現

消極的結論(「重要な虚偽表示があると信じさせる事項は認められなかった」)

積極的意見(「すべての重要な点において適正に表示しているものと認める」)

コスト・工数

比較的軽い

重い

出典:日本公認会計士協会「Sustainability Assurance Insights Vol.6」より作成


特に注目したいのが結論の表現の違いです。

限定的保証は「重要な点でおかしなところは見つかりませんでした」という消極的形式の結論、合理的保証は「適正に表示されていると認めます」という積極的形式の意見です。

同じ「保証」でも、読み手に伝わる確からしさには差があります。

 

なぜ多くの国が、まず限定的保証から始めるのでしょうか。

それは、サステナビリティ情報がまだ算定基準・データインフラ・社内体制のいずれも発展途上で、いきなり合理的保証を求めると企業の負担が過大になるからです。

まずは限定的保証で開示文化を定着させる──これが、多くの制度に共通する出発点になっています。



  3.各国の制度動向|限定的保証から始まる背景とは

世界の主要なサステナビリティ開示制度は、おおむね「まずは負担の軽い限定的保証から導入する」という共通の出発点を持っています。

ただし、その先に合理的保証へ進むのかどうかは、近年、制度ごとに判断が分かれてきています。

代表的なのが、EUのCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)です。

CSRDは限定的保証から開始する設計で、当初は欧州委員会が将来的に合理的保証へ移行する基準を採択する仕組みが指令に組み込まれていました。

ところが、2025年のいわゆる「オムニバス(Omnibus)」と呼ばれる簡素化の改正により、この合理的保証への移行に関する規定は削除されました。

これにより、現時点ではCSRDの保証は限定的保証のまま据え置かれる方向となっています。

当初「いずれ合理的保証へ」とされていたEUですら、企業の負担に配慮して方針を見直したかたちです。

 

一方、日本国内では、経済産業省所管のGX-ETS(GXリーグ排出量取引制度)のように、段階的に保証水準を引き上げる方針を示している制度もあります。

2026年度から本格稼働する第2フェーズの第三者確認は、当初は限定的水準で開始し、2029年度以降、大規模事業所(年間CO2排出量100万トン以上を目安)を対象に段階的に合理的水準の確認を求めていく方針が示されています。

また、超過削減枠を創出しようとする企業については、第1フェーズから合理的保証水準の検証が求められており、対象や局面によって求められる水準が異なる点には注意が必要です。

 

つまり、サステナビリティ情報の保証は、「限定的保証から始める」という出発点は各国に共通する一方、その先に合理的保証へ進むかどうかは制度ごとに分かれている、というのが2026年5月時点の状況です。

かつては「いずれ合理的保証へ」という見方が有力でしたが、EUのCSRDが移行規定を取り下げたことで、その流れは一様ではなくなっています。



  4.SSBJにおける第三者保証の方針と、GX-ETSとの違い

ところが、日本のSSBJ(有価証券報告書ベースのサステナビリティ情報開示)では、いま少し異なる選択が行われています。

金融庁の事務局案では、SSBJ基準に基づく開示への第三者保証について、こう整理されました。

保証水準は限定的保証とする(合理的保証への移行の検討は行わない)。保証範囲は当初2年間はScope 1・2、ガバナンス、リスク管理に限定する。

出典:金融庁「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告」(2026年1月8日)にもとづき要約


ポイントは「合理的保証への移行の検討は行わない」という一文です。

日本のSSBJに基づく開示への保証は、まず限定的保証で導入し、いまの時点では合理的保証への移行を検討の対象としないという整理になっています。

これは、前章でみたEUのCSRDが移行規定を取り下げた動きとも、方向性としては大きく矛盾しないものといえます。

主な制度の保証水準と移行方針を、いまの時点で整理すると次のようになります。

制度

スタート水準

移行方針

EU CSRD

限定的保証

当初は合理的保証への移行を想定。2025年のオムニバス改正で移行規定を削除(限定的保証を維持)

日本 GX-ETS

限定的保証

開始後しばらくは限定的保証。その後、大規模事業所を対象に段階的に合理的保証へ引き上げる方針(一部は当初から合理的保証)

日本 SSBJ

限定的保証

限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わない

 

こうしてみると、「まず限定的保証から」という出発点は共通する一方、その先の扱いは制度によって異なることがわかります。

EUのCSRDは合理的保証への移行規定をいったん取り下げ、日本のSSBJも当面は限定的保証にとどめる方針です。

他方で、排出枠の取引という性質を持つGX-ETSは、段階的に合理的保証へ引き上げる方針を示しています。

同じ「保証」でも、制度の目的によって設計が分かれている、という点が押さえどころです。

 

なぜSSBJはこのような選択をしたのでしょうか。

背景には、

①保証業務実施者のキャパシティ不足、

②企業側のデータインフラ整備の遅れ、

③将来情報を多く含むサステナビリティ情報を合理的保証水準で検証することの技術的困難、

があると整理できます。

 

実際、ワーキング・グループ報告でも、不確実性の高い将来情報については、保証側の責任もセーフハーバー・ルールに準じて免責される枠組みが検討されており、保証実務の現実への配慮がうかがえます。

ただし、ここで企業が「移行はない、なら準備も不要」と読むのは早計です


第一に、保証水準が限定的保証であっても、限定的保証それ自体が相応の根拠資料と社内体制を求めます。

合理的保証でないからといって、対応の負担が大きく軽くなるわけではありません。


第二に、GX-ETSの対象事業者は、別建てで段階的に合理的保証水準の検証に備える必要があります。


第三に、SSBJについても「現時点では検討しない」という表現であり、将来の見直しの可能性を完全に排除しているわけではありません。


加えて、保証範囲は当初2年間こそScope1・2等に限られますが、その後の範囲拡大も国際動向を踏まえて検討するとされています。

つまり、「合理的保証への移行を検討しない=自社の準備不要」ではないということです。



  5.Scope3保証で企業が押さえておきたい実務ポイント

第三者保証の対象範囲のなかで、最も実務的に難しいのがScope3(バリューチェーン上流・下流の排出量)です。

SSBJの保証義務化では、当初2年間はScope 1・2、ガバナンス、リスク管理に保証範囲を絞ることが決まっています。

Scope3が当初の保証対象から外れているのは、まさにバリューチェーンデータの取得・検証が技術的に困難だからです。

 

ただし、これは「Scope3の信頼性が問われない」ことを意味しません。

SSBJ基準そのものはScope3の開示を求めており、保証対象外であっても投資家・取引先からの目線は厳しくなる一方です。

「保証対象外だから後回し」ではなく、保証対象に組み込まれる時期を見据えて、いまから一次データへの移行とサプライヤーエンゲージメントを進めることが必要です。

Scope3算定の基礎や、データが集まらないときの実務アプローチについては、別記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。



  6.第三者保証に向けて企業が進めたい準備ステップ

SSBJ基準の対象企業は、第三者保証に向けて何から始めるべきでしょうか。

当社がLCAやデータ整備のご支援を通じて押さえどころと考えているポイントを、公的資料や国際的な実務動向も踏まえて4つにまとめます。


① データガバナンスと内部統制(ICSR)の整備

財務報告に係る内部統制(ICFR)の考え方をサステナビリティ情報に拡張した、ICSR(Internal Control over Sustainability Reporting:サステナビリティ報告に関わる内部統制)の整備が出発点になります。

COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が2023年に公表した補足ガイダンスでも、既存の財務報告用内部統制フレームワークを土台にすることが推奨されています。

データ収集・集計・レビューのプロセスを文書化し、責任部署を明確にしましょう。


② クロスファンクショナル・チームの設置

サステナビリティ情報は調達・製造・人事・財務など多部署に分散しています。

サステナビリティ部門だけ、経理部門だけでは保証に耐えません。

各部署をつなぐクロスファンクショナル・チームを編成し、月次・四半期での数字レビューを回すことが推奨されます。


③ 証憑管理と監査証跡(Audit Trail)の確立

保証業務実施者は「なぜその数字になったか」の根拠を確認します。

スプレッドシートで属人化していると、合理的保証はもちろん限定的保証でも追加の質問が増えやすくなります。

可能な範囲でITプラットフォームを活用し、原始データ→集計→開示数値の流れを誰でも辿れる状態にしておきましょう。


④ 第三者検証のドライラン

義務化の前年に、保証業務を担う外部機関に任意で第三者保証(限定的保証)を依頼し、試行しておくことが考えられます。

本番でいきなり対応するより、ギャップ分析として一度受けてみる方が、社内体制の弱点が明確になります。


これら4つのステップは、保証水準が限定的保証であっても、また将来どのような制度になっても、開示の質と説明力を高めるという点で無駄になりにくい取り組みです。

欧州子会社のCSRD対応や、GX-ETS対象事業者の検証対応にも、土台として活かせます。

対応のための一度きりの作業で終わらせず、社内のしくみとして活かしていくです。



  7.おわりに

ここまでの内容を整理しましょう。


  • 第三者保証は、サステナビリティ情報の信頼性を独立した第三者が裏付ける仕組み

  • 保証水準には限定的保証(レビュー水準・消極的結論)と合理的保証(監査水準・積極的意見)の2つがある

  • 各制度に共通する出発点は「まず限定的保証から」。その先に合理的保証へ進むかは制度ごとに分かれ、EU CSRDは2025年の改正で移行規定を撤廃、日本のGX-ETSは段階的な引き上げを予定

  • 日本のSSBJに基づく開示への保証は、限定的保証とし、現時点では「合理的保証への移行の検討は行わない」という方針

  • それでも、グローバル子会社のCSRD対応やGX-ETS、将来のSSBJ見直しを見据え、ICSRの整備とドライランは早期着手が推奨される


本記事と、前編「Scope3のセーフハーバー制度とは?SSBJ時代の開示リスクと免責条件をわかりやすく解説」を合わせてお読みいただくことで、「企業を守るセーフハーバー」と「開示を信頼できるものにする第三者保証」という、サステナビリティ開示制度を支える両輪を立体的に理解いただけます。

📖 前編・関連記事のご案内

· 【前編】Scope3のセーフハーバー制度とは?SSBJ時代の開示リスクと免責条件をわかりやすく解説

· SBTi・SSBJ・GX-ETSとScope3の関係を整理した記事

· サステナビリティ開示におけるLCAの役割を解説した記事


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出典・参考URL

本記事の執筆にあたり、主に以下の一次資料・公的資料を参照しました。

1. 金融庁「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告」(2026年1月8日)

2. 経済産業省 産業構造審議会 排出量取引制度小委員会「中間整理(案)~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~」(2025年12月9日/第2フェーズの保証水準の段階的引き上げ方針)。あわせて、超過削減枠創出企業の合理的保証要求についてはGXリーグ事務局「GXリーグ第三者検証ガイドライン」を参照。

3. サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準を公表」(2025年3月5日)

4. IAASB(国際監査・保証基準審議会)「International Standard on Sustainability Assurance 5000」(2024年11月公表)

5. 日本公認会計士協会「Sustainability Assurance Insights Vol.6 限定的保証と合理的保証」(2024年12月25日)

6. EU CSRD(企業サステナビリティ報告指令)および2025年の簡素化改正(いわゆるオムニバス)

※ 合理的保証への移行に関する規定の削除を含む。最新の条文・改正状況は欧州委員会の公表情報をご確認ください。


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