【最新論文から読み解く】バイオ炭が作物収量に効く理由|窒素の流れがカギだった!
- o a.
- 8月1日
- 読了時間: 8分
こんにちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
近年、バイオ炭はカーボンクレジットの対象にもなり、気候変動対策としても注目を集めています。
あまり知られていませんが、そもそもバイオ炭は「土に入れると作物がよく育つ」といった、農業資材としての効果もあると言われており、世界中で研究が進んでいます。
「本当に作物の成長に関係あるのだろうか?」
「どんな作物に、どんなときに効くのか?」
その問いに、科学的な答えを与えてくれるのが、2022年に発表されたあるメタ分析論文です。
この論文は、世界中の研究結果を統合し、バイオ炭が土壌中の窒素のかたちと流れにどう影響し、最終的に作物の生産性をどのように変えるのかを詳細に分析しています。
このコラム記事では、バイオ炭を撒くことでどのような効果があるのか、実際の収量にどの程度影響があるのか、などについて論文の結果も紹介しながら解説していきたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
7.おわりに
1.バイオ炭とは?土壌への"効き方"のメカニズム
バイオ炭は、農業残渣・木材廃棄物・家畜糞尿などのバイオマスを、高温かつ酸素を遮断した状態で熱分解(炭化)したものです。
土に施用することで、以下のような効果が期待されます:
土壌のpHを改善し、酸性を緩和
通気性や保水性の向上
微生物の活性化と窒素循環の促進
中でも注目される効果の1つに、「窒素」の循環と吸収に与える影響が挙げられます。
バイオ炭は炭素を多く含む素材であり、土壌に加えることで土壌炭素循環や微生物活性、植物の呼吸活動にも影響を与えることがわかっています。
その結果、作物の生産量に大きな変化が生じることなども報告されています。
たとえば、Baiら(2022年)は、無機・有機肥料と併用したバイオ炭が、作物の収量をそれぞれ25.3%、179.6%増加させたと報告しています。
一方で、窒素肥料なしでのバイオ炭施用では、かえって収量が下がる場合もあることが指摘されています。
このような違いの背景には、作物ごとに好む窒素のかたち(NH₄⁺かNO₃⁻か)や、バイオ炭の影響を受けた土壌中の窒素の動きがあると考えられています。
たとえば、NO₃⁻-N(硝酸イオンに含まれる窒素の量)の増加はトウモロコシに好影響を与える一方、イネでは収量が下がるという例もあり、作物の種類によって反応は大きく異なります。
そのため、作物ごとの土壌窒素の動きと利用特性を体系的に評価し、バイオ炭が土壌中の窒素循環にどう関与しているかを理解することが重要であると考えられます。
2.そもそも窒素とは?NH₄⁺とNO₃⁻の話
作物にとって欠かせない栄養素である「窒素」には、主に2つの形があります:
窒素のかたち | 特徴 | 好む作物 |
NH₄⁺ (アンモニウム態窒素) | ・土壌にとどまりやすい ・速効性がある | 稲・豆類・ジャガイモ |
NO₃⁻ (硝酸態窒素) | ・水に流れやすいが ・吸収性も高い | トウモロコシ・小麦 |
💡NH₄⁺やNO₃⁻はどうやって作られるの?
まずはじめに、
有機物の分解(堆肥、落ち葉、ふん尿)
化学肥料(尿素、硫安)の加水分解
土壌微生物の活動
によってアンモニア(NH₃)が生成されます。
このアンモニア(NH₃)が、土壌中の水と反応して、水素イオン(H⁺)と結合すると、「NH₄⁺」の形になります。
さらに、土壌中の微生物がNH₄⁺をNO₃⁻に変えるプロセス(硝化)が進むことで、NO₃⁻(硝酸態窒素)も生成されます。
3.作物の収量を左右する「窒素の動きと使われ方」
植物の成長と収量において、ネックになりやすいのが「窒素(N)」です。
窒素は作物が大量に必要とする栄養素であり、その使われ方(利用効率)の低さが、作物生産性の大きな課題とされています。
作物の成長や生産性は、以下のような「土の中での窒素の動きと使われ方」に大きく左右されます:
土壌中の窒素の総量と流れ
窒素の形の変化(アンモニウム→硝酸など)
空気中への放出や流出といった“損失”の量
特に現代農業では、
作物が必要とするタイミングと
土壌が窒素を供給できるタイミング
が合っていないことが多く、これが生産性を下げたり、窒素の無駄を増やす原因になっていると言われています。
そこで、バイオ炭を窒素肥料と併用することで、作物が必要とするタイミングで、ちょうどよく窒素が供給されるように調整することができるのではないか、と注目されています。
4.バイオ炭はNH₄⁺とNO₃⁻にどう効くのか?
バイオ炭は多孔質で表面積が大きく、NH₄⁺を吸着して土壌から流出しにくくする特性があります。
また、微生物のすみかとして機能し、
有機物の分解 → NH₄⁺生成 → NO₃⁻生成
という一連の窒素循環を活発化させることが分かっています。
つまり、NH₄⁺を土にとどめ、微生物を活性化し、全体として「窒素の供給力」を高めるのがバイオ炭の力なのです。
5.メタ分析結果で分かった作物ごとの"反応差"
メタ分析を行った論文によると、バイオ炭の施用によって、作物の生産性は全体的に13.0%アップすることが分かりました。
しかし、効果には作物によって明確な違いがありました:
作物のタイプ | 生産性の変化率 |
塊茎類(ジャガイモなど) | +24.5% |
豆類(ピーナッツなど) | +21.2% |
トウモロコシ | +14.3% |
稲(イネ) | +3.36% |
🌾論文から読み解く"作物タイプ別" 収量アップのコツ
● ピーナッツなどの豆類
酸性土壌の中和とNH₄⁺供給が効果的
根粒菌よりも、無機態窒素の直接吸収(PNU)の寄与が大きいとされる
● ジャガイモなどの塊茎類
バイオ炭による土壌構造改善やpH調整が寄与
NH₄⁺との直接相関は明記されていないものの、全体的な土壌環境の改善が鍵
● トウモロコシ
NO₃⁻が減少し、NH₄⁺が維持される環境が好ましい
施肥設計と連携したNH₄⁺主体の戦略が有効
● イネ
バイオ炭単独では効果が限定的だが、保水性や通気性の改善で根の活性化が期待できる
施肥との組み合わせによって効果が現れる場合も
6.作物が窒素を"うまく使う"ために
植物の成長に必要な窒素は、ただ多ければいいわけではありません。
作物が効率よく窒素を吸収し、無駄なく使い切るには、
土の中にどれだけ窒素があるか(量)
どの形で存在しているか(NH₄⁺かNO₃⁻か)
いつどれくらい供給されるか(タイミング)
どれだけ流出・揮発せずにとどまれるか(損失の少なさ)
といった点が重要になります。
こうした条件が整うと、
成長に必要なときに、
必要なかたちで、
必要な量の窒素が、
根にきちんと届く
という理想的なサイクルが実現します。
そのための手段のひとつが「バイオ炭+窒素肥料」なのです!
7.おわりに
バイオ炭は、単なる土壌改良材ではなく、「窒素の流れ」をコントロールすることで、作物の収量に影響を与えることができる“戦略的な農業資材”のひとつであることが、今回のメタ分析からも見えてきました。
とはいえ、万能ではありません。
むしろ、作物の種類や土壌の条件、肥料との組み合わせ次第で、効果が大きく異なることが示されています。
たとえば、
ダイズやジャガイモには、NH₄⁺を保ちつつ酸性土壌を中和するアプローチが、
トウモロコシには、NO₃⁻を抑えた肥料設計との連携が、
イネには、保水性や通気性の向上とあわせた工夫が、
それぞれ有効だと考えられます。
つまり、「作物ごとの窒素の好み」と「土壌中の窒素のかたちや流れ」を理解し、それに応じてバイオ炭の使い方を設計することが重要です。
このあたりを上手く設計していくことで、単なる収量アップに終わらず、気候変動対策としても有効な手段となってきます。
施肥効率を高めることで、肥料の使用量やN₂O排出を抑え、さらにバイオ炭自体が大気中のCO₂を土壌に長期的に固定する「ネガティブエミッション」の役割を果たしてくれる──。
こうした二重・三重の恩恵は、持続可能な農業を実現する上でも欠かせない視点になってきそうです。
「土に炭をまく」というシンプルな行為の先に、収量向上と環境保全の両立が見えてくる。そんな未来に向けて、バイオ炭の可能性はこれからますます広がっていくのではないでしょうか。
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▶️ 参考論文
Zhang, L., Wu, Z., Zhou, J., Zhou, L., Lu, Y., Xiang, Y., Zhang, R., Deng, Q., & Wu, W. (2022).
Meta-Analysis of the Response of the Productivity of Different Crops to Parameters and Processes in Soil Nitrogen Cycle under Biochar Addition. Agronomy, 12(8), 1857.
(オープンアクセス論文、英語)
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