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【保存版】LCAソフトウェアで“なぜ結果がズレるのか”をLCAコンサルタントが徹底解説!

  • 執筆者の写真: o a.
    o a.
  • 5 日前
  • 読了時間: 8分

こんにちは。

LCAコンサルタントの小野あかりです!

以前書いた「LCAの結果が40%も変わる?──原単位データベースとソフトウェア選びが“見えない差”を生む理由」というタイトルのコラム記事では、LCAの算定結果が「どのデータベースを使うか」によって大きく左右されることをご紹介しました。


コラム記事内では更に、「どのLCAソフトウェアを使うか」も結果に影響を与えると記載しました。

同じデータベースを使い、同じ製品を評価対象にしているにもかかわらず、結果が微妙に、 時には大きく異なることがあるのです。


LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスが環境に与える影響を定量的に評価する強力なツールですが、その結果は使用するデータベースだけでなく、LCAソフトウェアそのものの設定や仕様にも影響されることがあります。


今回は、実務者の視点に立ち、2本の学術論文をもとに、 「LCAソフトウェアが違うと、なぜ同じ製品の結果がズレるのか?」について、 ソフトウェアの仕様や初期設定が結果に与える影響をやさしく、かつ丁寧に解説していきます。



目次



1.なぜLCAソフトウェアで違いが出るのか?

LCAソフトウェアによって結果が異なる理由は、主に以下のような要素が絡み合っているからです。

  • インパクト評価の初期設定が違う 各ソフトは、初期状態で有効になっているインパクト評価手法(例:ReCiPe、CMLなど)が異なります。

  • 排出・資源投入の“割り当て方法”の設定が異なる 製品に複数の副産物がある場合、その影響をどのように分配するかのロジックが異なります。

  • データベースとの連携方式の違い 同じデータベースを使っていても、読み込み方やリンクの仕組みが異なります。

  • フローのつなぎ方(プロセスの接続)の設計思想が異なる ソフトによっては、自動で最適なフロー接続を補完してくれる場合もあれば、すべて手動で設定する必要がある場合もあります。

  • バックグラウンドデータの扱いの差異 一部のソフトでは、バックグラウンド(例えば電力や輸送などの共通サービス)の設定にあらかじめ前提が組み込まれています。


これらが積み重なると、たとえ同じ製品を対象に・同じデータベースを使って評価をしたとしても、結果がずれてしまうのです。



  2.各LCAソフトウェアの違いを見てみよう

以下の表に、代表的なLCAソフトウェアの仕様と特徴を整理しました。

ソフトウェア

特徴

デフォルト設定の癖

主な利用用途

GaBi

産業用途に強く、詳細なデータベースとモデリング機能が特徴

フォアグラウンド・バックグラウンドの明確な区分と事前構築モデルが影響

産業LCA、製品設計、政策評価

SimaPro

ユーザーフレンドリーなUIと多様な影響評価メソッドを搭載

アサインメントとリンクの方式に独自の自動処理あり

サプライチェーン分析、企業レポート

openLCA

オープンソースで柔軟なモデリングが可能、研究用途にも対応

インパクト評価手法をユーザーが自由に選択可能、初期値設定は控えめ

アカデミック研究、中小企業のLCA

Umberto

フロー指向で視覚的な操作性に優れる、教育・研究用途向けにも使用

工程の結合方法や排出の割り当て方式がユニーク

教育用途、視覚的なプロセス設計

上記表を見ていただくと分かる通り、各LCAソフトウェアごとに特徴デフォルトの設定が異なっています。

デフォルト設定とは、ユーザーが個別に設定を変更しない限りソフト側で自動採用される前提値やオプションのことです。


ユーザー側が熟練している場合には、設定内容を事前に理解した上で各項目を細かく指定できますが、初めて触る場合や簡易評価ではデフォルト値に頼ることが多くなってきます。

デフォルトの設定内容や癖がLCAソフトウェアによって異なるため、LCA結果の比較時には注意が必要です。



  3.具体的に、何が“結果の違い”を生んでいるのか

それでは実際に、どんな仕様の違いが、どんな結果のズレに結びつくのか、もう少し具体的に見ていきましょう。


  • キャラクタリゼーションファクターの違い

    SimaProとGaBiでは、同じインパクト評価手法でもバージョンが異なることがあり、たとえば「気候変動」1kg CO₂が100年係数で評価されるか、それとも別の単位で評価されるかなど、細かな差が結果に表れます。

  • カットオフ設定の影響

    openLCAは、ISO14044で定義されるカットオフ(無視して良い閾値)を明示的にユーザーに選ばせますが、SimaProでは特定のモデリングテンプレートを使うと暗黙的なカットオフが発生することがあります。

  • デフォルトの割り当て方法(Allocation)

    GaBiはデフォルトでシステム拡張方式を用いていますが、SimaProではマスバランス法が一般的に選択されます。これにより副産物の環境影響分配方法が変わり、結果にズレが生じます。


  • 自動リンク機能と手動接続の違い

    Umbertoでは、視覚的にフローを設計してリンクしますが、自動補完機能は弱めです。一方でSimaProは、バックグラウンドへのリンクを自動補完する仕組みを持っています。

  • インベントリデータの読み込み方式

    同じecoinventデータベースを使用していても、データの読み込み範囲(Cut-off vs. Allocationなど)や、バージョン差が結果に大きく影響します。



  4.実務で気をつけたい3つのポイント

こうした違いを前提に、実務で注意すべきポイントを3つご紹介します。


  • 「どのソフトを使ったか」は必ず明記しよう 報告書や社内資料には、LCAソフトウェア名・バージョン・評価手法・データベース名をセットで記載することが大切です。

  • 設定項目の見直しを怠らない デフォルト設定に任せたままではなく、「割り当て方法」「インパクト評価手法」「リンクの構造」など、目的に応じて確認・調整を行い、より実態に即した精緻な評価結果を得られると尚良いと思います。

  • 他社比較や年次比較では、同じ設定を守る 異なる年度・異なる企業との比較をする場合、設定の違いでズレが出ないように、なるべく同一条件で評価するよう徹底していくことを推奨します。



  5.おわりに:ソフトに詳しくなくても、見るべきポイントはある

LCAの専門家でなくても、「なんとなくLCAソフトウェアによって結果がズレてるのでは?」といった感覚を持つことは、実はとても大切です。

この記事で紹介した内容が、「なんとなくモヤっとしていた違い」の正体を少しでもクリアにできたなら嬉しく思います。


どのソフトが良い・悪いではなく、目的に合わせて、特徴を把握し、使いこなすことが大切になってきます

LCAというツールを使う上で、今回の知識が少しでも現場で役立つことを願っています。


また、LCAソフトウェアの初期設定や操作に負担を感じている方の中には、「ソフトを使わず、データベースを提供している企業からExcel形式でデータを購入して処理した方がラクなのでは…?」と考える方もいるかもしれません。


実際、この選択肢には利便性や柔軟性というメリットもありますが、注意すべき点も存在します。

このあたりについては、別のコラムでじっくり取り上げていく予定です。


今後もGreenGuardianでは、情報開示や業界ごとの規制内容、データベース関連など多岐にわたり、サステナビリティ実務に寄り添う情報を発信してまいります。

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参考文献・情報源: 本記事は主に以下の文献に基づいて執筆しました – Bach et al. (2019)『Comparative Overview on LCA Software Programs for Application in the Façade Design Process』 https://www.researchgate.net/publication/330579376_Comparative_Overview_on_LCA_Software_Programs_for_Application_in_the_Facade_Design_Process

Lopes Silva et al. (2019)『Why using different Life Cycle Assessment software tools can generate different results for the same product system?』


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