【2026年最新】プラスチック問題の全体像と世界の動き【前編:全体像と世界の動き】
- 17 分前
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こんにちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
「脱プラスチック」という言葉、ここ数年で本当によく聞くようになりましたよね。
レジ袋有料化、紙ストローへの切り替え、バイオプラスチック容器の登場
──私たちの身の回りでも、脱プラの動きはどんどん広がっています。
ただ一方で、「結局プラスチックに戻した」というニュースを目にすることも増えてきました。
マクドナルドが紙ストローを廃止して新型の蓋に変えたり、米国大統領が「プラストローに戻す」大統領令を出したり。
「あの盛り上がりは何だったんだろう?」
「そもそも脱プラは効果が出ているの?」と感じている方も、少なくないと思います。
また現場でLCA(ライフサイクルアセスメント)の仕事をしていると、「紙に替えれば本当に環境に良いの?」「バイオプラなら何でもOKなの?」という、もう一歩踏み込んだ問いに直面することが増えてきました。
実は、脱プラスチックは「素材を置き換えればゴール」という単純な話ではなく、ライフサイクル全体で見ると意外なトレードオフが潜んでいます。
そこで本シリーズでは、世界と日本の脱プラ規制の最新動向を整理しつつ、紙化・バイオマス・リユースなど主要な代替手法のメリット・デメリットを、LCA視点で丁寧に解説していきます。
さらに、「世界の生産量は本当に減ったのか」「企業と消費者の意識ギャップ」「日本政府の本気度」、そして「実は脱プラ問題には2種類あって、日本が向き合うべきはどちらか」といった、多くの方が抱えるモヤモヤにもデータで向き合います。
サステナビリティ担当者の方や経営層の方が「自社はどう向き合うべきか」を考えるためのヒントになれば嬉しいです。
ボリュームのあるテーマのため、本記事は前編・中編・後編の3部作でお届けします。
前編にあたるこの記事では、まず「脱プラ問題の全体像」と「世界の規制動向」を整理します。ぜひ最後までお付き合いください。
前編の目次
1.脱プラスチックとは?なぜ世界で規制が進んでいるのか
1-1.世界のプラスチック生産量と環境問題の現状
脱プラスチックとは、シンプルに言えば「プラスチックの製造・使用・廃棄を減らし、環境影響を抑える取り組み」のことです。
海洋汚染、マイクロプラスチック、温室効果ガス排出、化石資源依存──プラスチック問題は、いまや一つの環境問題というより、複数の課題が絡み合った複合的な構造を持っています。
現状をスケール感で押さえておきましょう。
▼ 世界のプラスチックをめぐる主要数値
指標 | 数値 | 出典 |
世界のプラスチック生産量(2024年) | 4億3,090万トン | PlasticsEurope(2025) |
同(2019年→2024年の伸び) | 約13%増 | PlasticsEurope(2025) |
2060年予測使用量(BAUシナリオ) | 12億3,100万トン(2019年比約3倍) | OECD(2022) |
プラスチックライフサイクルからのGHG排出(2019年→2060年) | 1.8 Gt CO2e → 4.3 Gt CO2e | OECD(2022) |
2060年時点の世界リサイクル率予測 | 約17% | OECD(2022) |
2020年以降の環境流出累計(〜2025年) | 約5.7億トン | Pew/Systemiq(2025) |
PlasticsEuropeの2025年版報告書「Plastics the Fast Facts 2025」によると、世界のプラスチック生産量は2024年に約4億3,090万トンとされ、過去最高水準となっています。
2019年の約3億7,980万トンから5年間で約13%増えた計算です。
地域別では中国が34.5%で最大、EU27+3は12%まで低下しており(2006年は22%)、生産の重心がアジアへ移っている傾向がうかがえます。
OECDの試算によれば、現状のまま政策が進まなければ、2060年にはプラスチック使用量が2019年比で約3倍の12億3,100万トン、ライフサイクル全体からの温室効果ガス排出量も現在の約2倍に膨らむと予測されています。
同試算では、2060年時点でも世界のリサイクル率は約17%にとどまると見込まれており、リサイクルだけでは解決が難しいことが示唆されています。
加えて2025年8月には、医学誌The Lancetが「The Lancet Countdown on Health and Plastics」を発表し、プラスチック問題を気候変動と並ぶ重要な公衆衛生課題として位置づけています。
マイクロプラスチックや化学添加物による健康影響は年間1.5兆ドル超の損失をもたらすと試算されており、環境問題の枠を超えた公衆衛生上の関心が高まっています。
1-2.実は2種類ある「脱プラ問題」──日本が向き合うべきはどちら?
脱プラスチックの議論を整理する上で、私が一番大切だと思っているのが「問題は実は2種類ある」という視点です。
ここを混同したまま議論すると、対策の優先順位を見誤ってしまいます。
【第1の問題】使い捨てプラスチック製品そのものの問題
ストロー、レジ袋、カトラリー、使い捨て容器
──私たちが「プラスチック問題」と聞いて真っ先にイメージするのは、こちらだと思います。
「ウミガメの鼻にストローが刺さっている映像」を見たことがある方も多いのではないでしょうか。
ただ、この問題の本質は「ごみが正しく回収・処理されないこと」です。
きちんと分別してごみ箱に捨てれば、河川や海に流出することはありません。
実際、廃棄物処理が整備された国(日本を含む)では、ストローやレジ袋がそのまま自然界に流れ込むケースは限定的です。
世界全体で見れば、廃棄物処理インフラが未整備な国・地域での「不適切処理」が主因とされています(OECD推計で世界のプラ廃棄物の22%が不適切処理)。
【第2の問題】意図せず排出される「二次マイクロプラスチック」の問題
一方、もう一つの問題があります。
自動車タイヤの摩耗、道路標示材の劣化、人工芝の流出、農業用肥料被覆材の残存、合成繊維衣類の洗濯排水
──これらは製品が本来の機能を果たす中で「意図せず」発生し、環境中に排出されるマイクロプラスチックです。
環境省の令和6年度推計によると、日本から海洋へ流出するマイクロプラスチック(MPs)は年間約1.1万〜2.4万トン。
そのうちタイヤ由来粒子の占める割合が大きく、国立環境研究所の解析(2025年8月)ではMPs全体の24〜85%を占めると試算されています。
雨が降ると、道路に堆積したタイヤ粉じんが雨水と一緒に側溝へ流れ込み、河川を経由して海へ。農地で使われた肥料被覆材の殻が雨水・農業排水とともに水路に流れ出し、最終的に海へ。
私たちの足元で、見えにくい形でプラスチック汚染が広がっているわけです。
日本では「第2の問題」の重要性が今後さらに高まる可能性
廃棄物処理が比較的整備されている日本では、第2の問題(意図せざる流出)の重要性が今後さらに高まる可能性があります。
第1の問題(ごみとしての流出)も漁業・海洋環境・地域景観など多くの観点から依然として重要なテーマですが、両者を区別して議論することで、対策の優先順位や論点がより立体的に見えてきます。
社会の関心は「ストロー・レジ袋」に集まりがちで、第2の問題は相対的に注目が広がりにくい領域でもあります。
タイヤや人工芝、肥料被覆材は、消費者が日常的に「プラスチック製品」として意識する対象ではないため、「自分ごと」化されにくい性質があります。
一方で、この問題に正面から取り組む企業も少しずつ増えてきています。
タイヤ業界、人工芝メーカー、繊維業界、肥料メーカーなど──地味ながら、意味のある対策が動き始めています。
この第2の問題と企業の対応事例については、別記事で詳しく取り上げる予定です。
本シリーズでは、まず「問題は2種類ある」という認識を共有した上で、それぞれの規制動向や代替素材の話を整理していきます。読み進めるときは、「いまの話は第1の問題か、第2の問題か」を意識していただくと、論点が立体的に見えてくるはずです。
2.世界の脱プラスチック規制動向
2-1.国連プラスチック条約とは?
最大のトピックは、法的拘束力のある国際条約を策定する政府間交渉委員会(INC:Intergovernmental Negotiating Committee)の動向です。
2022年のUNEA(国連環境総会)決議を受けて始まったこの交渉は、当初2024年末までの合意を目指していました。
しかし、2025年8月にジュネーブで開催されたINC-5.2でも、生産上限や有害化学物質の規制をめぐって各国の意見が対立し、合意には至っていません。
UNEPによると、新議長選出のためのINC-5.3が2026年2月に予定されており、実質的な交渉再開は2026年中後半以降になる見通しです。
条約は遅れていますが、これは「規制リスクが消えた」という意味では決してありません。むしろEUや個別国家が先行して規制を強化しており、企業はそちらへの対応が急務です。
2-2.EUの規制動向
EUの規制動向は、世界の脱プラ議論の最前線です。
ここで第1章の整理を思い出してください
──EUは「第1の問題(使い捨てプラ)」と「第2の問題(二次マイクロプラ)」の両方で規制を先行強化しています。
【第1の問題への規制】使い捨てプラスチック指令(SUP指令、Directive 2019/904)
欧州委員会によると、ビーチで最も多く見つかる10品目の使い捨てプラスチック製品を規制対象とし、以下のような措置が段階的に導入されています。
・ 綿棒の軸、カトラリー、皿、ストロー、撹拌棒、風船の柄、発泡スチロール製食品・飲料容器、酸化型分解性プラスチック製品の市場投入禁止
・ PETボトルへの再生材使用義務(2025年から25%、2030年から30%)
・ 蓋・キャップの本体への固定義務
・ 2025年までに77%、2029年までに90%の分別回収目標
なお欧州委員会は2025年12月に同指令の有効性評価を開始しており、今後さらなる規制強化が見込まれています。
【第1の問題への規制】包装・包装廃棄物規則(PPWR、Regulation 2025/40)
2026年8月に施行予定で、包装の軽量化、リユース義務、再生材含有率などをより包括的に規制します。
【第2の問題への規制】REACH意図的添加マイクロプラスチック規制(Regulation 2023/2055)
2023年10月発効。
化粧品のマイクロビーズ、ラメ・グリッター、洗剤添加剤など、製品に意図的に添加されるマイクロプラスチックを段階的に禁止します。
化粧品リンスオフ製品は2027年、洗剤・肥料添加剤は2028年、化粧品リーブオン製品は2029年、農業用充填材・人工芝充填材は2031年など、品目ごとに段階的に禁止されます。EUとしては、このRegulation 2023/2055を起点に、二次マイクロプラ(タイヤ・繊維・人工芝など)への規制を順次拡大していく方針です。
【第2の問題への規制】Euro 7規則(タイヤ摩耗規制)
2024年4月採択。
EUで年間約45万トン発生するタイヤ摩耗粒子は、塗料に次ぐ第2位のマイクロプラ発生源です。
Euro 7では世界で初めて、自動車のタイヤ摩耗量に法的な上限値を設けます。
・ 2026年11月29日から、新型式承認のM1/N1(乗用車・小型商用車)にタイヤ摩耗測定が適用
・ 2027年11月29日から、新車全車に適用
・ 2028年7月からC1(乗用車)タイヤの型式承認要件が施行、2030年7月から非適合タイヤの販売禁止
タイヤ摩耗は電気自動車(EV)のほうが車重が重いため発生量が大きいという課題もあり、自動車・タイヤ業界には素材技術と車体軽量化の両立が求められます。
日本のタイヤメーカー(ブリヂストン、住友ゴム工業など)も、EU市場でこの規制対応が必須となります。
【第2の問題への規制】プラスチックペレット流出防止規則(2025年採択)
EUでは年間約18.4万トンのプラスチックペレット(樹脂原料の小さな粒、別名ナードル)が環境流出していると推計され、塗料・タイヤに次ぐ第3位のマイクロプラ発生源です。2025年4月に欧州議会と理事会が暫定合意、2025年10月に欧州議会で正式採択され、2027年中の施行が見込まれます。
・ 年間1,500トン超を取り扱う中堅・大企業には第三者認証が必要
・ 製造、保管、輸送、清掃、再加工の全工程に流出防止措置を義務付け
・ 海上輸送も対象。EU域外の運送業者にもEU代理人選任義務
・ ペレット流出を54〜74%削減することを目標
【横断目標】Zero Pollution Action Plan
EUは2030年までにマイクロプラスチック排出を30%削減することを掲げており、上記の各規制はこの目標達成のための具体策として位置付けられています。
2-3.フランス・米国・中国の規制動向
フランスは「2040年までに使い捨てプラスチック包装を全廃」というEU内でも野心的な目標を掲げ、AGEC法(循環経済法)で環境ラベルの義務化、ポリスチレン規制などを進めています(第1の問題側の動き)。
そのほか、英国(プラスチック包装税)、米国カリフォルニア州(SB 54)、中国(一次性プラ禁止)、東南アジア各国などが第1の問題で規制を進めています。
一方、第2の問題については、上記のEU規制群が世界的に最も先行している状況です。
米国・スイス・英国などでも研究は進んでいますが、法的拘束力のある規制への展開はEUがリードしています。
日本企業がグローバルに事業展開するなら、各市場の制度を第1の問題と第2の問題の両軸で個別に把握する必要があるのが現状です。
3.前編のまとめと、次回予告
ここまで前編では、脱プラ問題の全体像と、世界の規制動向を整理してきました。要点を振り返ります。
・ 脱プラ問題は2種類に整理して捉えると見通しが良くなる。「第1の問題(使い捨てプラ)」と「第2の問題(タイヤ・人工芝など意図せざるMP流出)」を区別することで、対策の優先順位が立体的に見える
・ 世界のプラスチック生産量は2024年に約4億3,090万トン、2019年比で約13%増と、過去最高水準で推移している
・ 国連プラスチック条約は2025年8月のINC-5.2でも合意に至らず、実質的な交渉再開は2026年中後半以降の見通し
・ 一方で、EUは「第1の問題」(SUP指令、PPWR)と「第2の問題」(REACH MP規制、Euro 7、ペレット規則)の両軸で規制を先行強化中
・ 日本企業がグローバル展開するなら、市場別・問題種別の両軸で規制動向を継続的にウォッチする必要がある
▶ 続きはこちら:第2回 中編:日本の動きと代替素材のリアル 日本の脱プラ規制、主流な代替手法、そしてLCAから見える代替素材の落とし穴を整理します。 |
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主な参考文献・情報源
■ 世界のプラスチック生産・流出データ
・PlasticsEurope「Plastics the Fast Facts 2025」
・OECD「Global Plastics Outlook: Policy Scenarios to 2060」(2022)
・The Pew Charitable Trusts & Systemiq「Breaking the Plastic Wave 2025」
・The Lancet Countdown on Health and Plastics(2025年8月)
■ 国連プラスチック条約(INC交渉)
・UNEP Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution
■ EU規制
・SUP指令(Directive 2019/904)
・PPWR 包装・包装廃棄物規則(Regulation 2025/40)
・REACH 意図的添加マイクロプラスチック規制(Regulation 2023/2055)
・Euro 7規則(Regulation 2024/1257)
・プラスチックペレット流出防止規則(Regulation 2025/2365)
■ 日本の海洋プラ流出データ(前編で言及)
・環境省 令和6年度 海洋プラスチックごみ流出量推計
・国立環境研究所「日本各地におけるタイヤ由来マイクロプラスチックによる汚染状況の解明」(2025年8月)
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