【2026年最新】プラスチック問題の全体像と世界の動き【中編:日本の動きと代替素材のリアル】
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こんにちは!
LCAコンサルタントの小野あかりです。
本記事は、「脱プラスチックの現在地」シリーズの中編にあたります。
前編では、脱プラ問題の全体像と世界の規制動向を整理しました。
中編では視点を日本国内と代替素材に移します。
日本のプラ新法と2026年4月施行の資源有効利用促進法改正の「静かな、しかし確実な」進展、紙化・バイオマス・生分解性・リユースの4つの代替手法、そして「LCAで見ると単純な置き換えでは環境負荷が増える可能性すらある」という、本シリーズで一番お伝えしたい内容に踏み込みます。
中編の目次
4.日本の脱プラ規制
4-1.プラスチック資源循環促進法
日本では、2019年策定の「プラスチック資源循環戦略」を起点に、2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(通称プラ新法)が施行されています。
環境省によると、戦略は「3R+Renewable」を基本原則とし、6つのマイルストーンが掲げられています。
マイルストーン | 内容 |
① 2030年まで | ワンウェイプラスチック累積25%削減 |
② 2025年まで | リユース・リサイクル可能設計 |
③ 2030年まで | 容器包装の60%をリユース・リサイクル |
④ 2035年まで | 使用済プラスチック100%有効利用 |
⑤ 2030年まで | 再生利用倍増 |
⑥ 2030年まで | バイオマスプラスチックを最大限約200万トン導入 |
プラ新法では、製造段階の環境配慮設計指針、コンビニのスプーン・フォーク等12品目に対するワンウェイプラスチック使用合理化、市町村による分別収集、自主回収・再資源化計画の認定制度などが包括的に規定されています。
4-2.資源有効利用促進法改正
ここが2026年現在の重要トピックです。
2025年5月に成立した資源有効利用促進法改正が、2026年4月に施行されます。
再生材利用の義務化(プラスチックを「脱炭素化再生資源」として指定し、容器包装・家電・自動車等に再生材使用割合の数値目標と定期報告義務を課す)、環境配慮設計の認定制度などが柱です。
経産省は2025年7月、清涼飲料用PETボトル容器・文具・家庭用化粧品容器・家庭用洗浄剤容器の4製品分野で設計認定基準を公表しました。
つまり日本でも、B2Bサプライチェーン上の規制は静かに、しかし確実に強化されています。
4-3.バイオプラスチック導入ロードマップ
環境省・経済産業省・農林水産省・文部科学省が2021年1月に共同策定した「バイオプラスチック導入ロードマップ」は、バイオプラを「無条件に推奨」しているわけではない点が重要です。
導入にあたって以下の3原則を掲げています。
・ ワンウェイ削減を優先する原則
・ カーボンニュートラル・生分解性のメリットを最大化する原則
・ リサイクル阻害要因とならない用途選定の原則
つまり日本政府自身が、「バイオプラだから何でもOK」とはせず、用途によっては既存リサイクル系の阻害要因になりうることを公式文書で認めているのです。
4-4.日本の海洋プラスチック流出の実態
環境省の令和6年度推計によると、日本から海洋へ流出するマイクロプラスチック(MPs)は年間約1.1万〜2.4万トンと推計されています(参考:マクロプラを含む全プラスチックごみの令和6年度・発生源別積上推計は約1.3万〜3.1万トン)。
注目すべきは、その内訳です。
・ タイヤ摩耗粉じん:年間約5,700トン(ICF&Eunomia 2018ベース推計)
・ 道路標示材:年間約3,600〜4,300トン(同上)
・ 人工芝充填材:年間約540〜2,700トン
・ 建築塗料:年間約120〜2,300トン
・ ほかに合成繊維洗濯排水、船舶塗料など
※環境省は別途、PRTR届出外排出量推計ベースのタイヤ推計(約9,400トン/年)も並列で公表していますが、本記事では他発生源との比較整合性を確保するため、共通の方法論であるICF&Eunomia 2018ベースの推計値を採用しています。
海洋プラスチック対策においては、レジ袋など使い捨て品の対策に加え、自動車タイヤや道路標示など意図せず排出される二次マイクロプラスチックへの対応の重要性も、データから読み取れます。
前編でお伝えした「今後重要性が高まる可能性のある第2の問題」の輪郭が、この数字に表れているとも言えます。
タイヤ、道路、人工芝、農業資材といった、これまで「プラスチック問題」として広く認識されてこなかった領域も、今後の対策領域として注目されつつあります。
4-5.日本の第2の問題への対応
ここで気になるのが、「日本は第2の問題に対して、規制面でどこまで進んでいるのか」という点です。
結論から言うと、第1の問題(プラ新法、レジ袋有料化等)と比べると、第2の問題への規制対応はやや緩やかな進度にあります。
日本では現状、二次マイクロプラに対する法的拘束力のある規制は整備されておらず、主な動きは以下の通りです。
・ 環境省「マイクロプラスチック削減に向けたグッド・プラクティス集」:
日本企業の発生抑制・流出抑制・代替・回収技術の事例集として、毎年更新されています。タイヤ、人工芝、繊維、肥料被覆材など、第2の問題に直接取り組む企業の事例が多数掲載されています
・ 国立環境研究所による研究:
2025年8月にはタイヤ由来MPの全国36地点での検出研究が公表されるなど、実態把握フェーズの研究が活発化
・ 環境研究総合推進費:
タイヤ摩耗粉じんを含む非排気由来粒子排出研究等が継続中
KPMGの2025年3月分析でも指摘されている通り、「日本は欧州(特にEU Euro 7)の動向を注視しつつ、実態把握に努めている」段階にあります。
EUのEuro 7はEU市場で事業展開する日本のタイヤメーカー(ブリヂストン、住友ゴム工業など)にとって直接の規制対応事項となるため、グローバル企業から先行して動かざるを得ない構造になっています。
つまり、日本企業が向き合うべき第2の問題は、現時点では「自主取り組み」と「グローバル規制への対応」の二段構えで進んでいる状況です。
日本国内の規制化を待つのではなく、先行的に動く企業が、結果として国際競争力を確保することになるでしょう。
5.主流な代替手法と特徴
ここからは、代替手法を整理していきます。
よく混同されがちなので、まず用語を整理します。
▼ バイオプラスチックの分類
分類 | 特徴 |
バイオマスプラスチック | 植物等の再生可能資源から製造。生分解するとは限らない |
生分解性プラスチック | 微生物等により分解される。原料はバイオでも石油でも可 |
バイオマス×生分解性 | 両方の特性を持つPLA、PHAなど |
「バイオ=生分解する」という誤解は本当に多いのですが、両者は別の概念です。
5-1.紙化(紙への置き換え)
・ ストロー、カトラリー、容器、ショッピングバッグなど身近な品目で進行中
・ リサイクルインフラは日本国内に既に整備済み
・ 課題:1トンの紙製造には木材、大量の水、電力が必要で、CO2排出も決して小さくない
5-2.バイオマスプラスチック
・ 代表例:バイオPE、バイオPET、PLA(ポリ乳酸)、PHA
・ 原料はトウモロコシ、サトウキビ、廃食用油など
・ 課題:従来素材より高価(環境省ロードマップによると、バイオPEで約3倍、バイオPETで約1.5倍、PLAで約2〜3倍)
5-3.生分解性プラスチック
・ 自然環境中で分解される設計
・ 適用例:農業用マルチ、漁具、肥料被覆材、生ごみ収集袋など
・ 課題:分解には条件(温度・微生物・コンポスト施設)が必要。「ポイ捨てしてもOK」という誤解は禁物
5-4.リユース・リフィル(再使用)
・ 容器を回収・洗浄して繰り返し使用するモデル
・ 環境影響削減効果は最も大きい可能性がある一方、ビジネスモデル変革が必須
・ Ellen MacArthur Foundationの2024年Progress Reportによると、世界のリユース普及率は1.3%で横ばい
6.LCA視点で見る代替素材の落とし穴
ここが本シリーズの最重要セクションです。
LCA視点で代替素材を評価すると、「単純な置き換えでは環境負荷が増える可能性すらある」ことが見えてきます。
6-1.紙袋 vs プラ袋──再利用回数で評価が逆転する
UNEPの「Life Cycle Initiative」がまとめた7つのLCA研究のメタスタディによると、
・ 紙袋を1回だけ使った場合、温暖化負荷ではプラ袋を上回る(つまり環境に悪い)ケースがある
・ 紙袋がプラ袋に勝つには、研究条件によって差はあるものの、複数回利用が前提となるケースが多い(参考値として3回以上とする研究)
・ コットン製エコバッグはなんと131回以上の再利用が必要(英国Environment Agency 2011)
これは、紙の製造に多量のエネルギーと水が投入されるためです。「紙化=善」という直感は、ライフサイクル全体で見ると必ずしも成立するとは限らないとされています。
6-2.バイオプラスチックのジレンマ
バイオプラスチックは確かにCO2削減には寄与しますが、
・ 土地利用・食料競合:原料作物の栽培で農地転換が必要
・ 富栄養化・毒性:肥料・農薬の使用で従来プラより悪化する場合あり
・ コンポスト施設不足:生分解性プラを処理できる施設は世界的に限定的
・ リサイクル阻害:PETリサイクル工程にPLAが混入するとリサイクル品質が低下
学術系統レビューでは、「バイオプラスチックは温暖化と化石依存度では従来プラより低いが、富栄養化・毒性では高くなる傾向」と整理されています。
6-3.日本の「リサイクル率89%」の落とし穴
プラスチック循環利用協会の最新マテリアルフローによると、日本の廃プラスチック有効利用率は89%とされています。
一見、世界的にも非常に高い数値です。
しかし内訳を見ると、
・ マテリアルリサイクル:22%
・ ケミカルリサイクル:3%
・ サーマルリカバリー(熱回収):64%
約3分の2を占めるのは焼却による熱回収(サーマルリカバリー)で、EU・OECDが用いるリサイクル定義では基本的に「リサイクル」に含まれない扱いです。
「日本のリサイクル率は世界トップクラス」という言説を聞く際には、この定義の差を踏まえておくと、海外指標と比較するときの理解が深まります。
6-4.LCAは前提条件で結果が大きく変わる
LCAの計算結果は、
・ 機能単位(何回使うか、どれだけ運ぶか等)
・ システム境界(どこまでを評価対象にするか)
・ エンドオブライフ仮定(埋立/焼却/リサイクルのどれか)
・ 各国の電力ミックス
によって、同じ素材でも結果が逆転することすらあります。
代替素材を選定する際は、「自社の使い方・廃棄経路・地域条件」の前提を明確にした上で評価することが必須です。
7.中編のまとめと、次回予告
ここまで中編では、日本の脱プラ規制と、代替素材のLCA上の落とし穴を整理してきました。
要点を振り返ります。
・ 日本でも規制は静かに、しかし確実に強化されている。プラ新法に加え、2026年4月施行の資源有効利用促進法改正で再生材利用の義務化が始まる
・ バイオプラスチック導入ロードマップは「バイオプラだから何でもOK」とはせず、リサイクル阻害要因とならない用途選定の原則を明示している
・ 日本から海洋に流出するMPsは年間1.1〜2.4万トン。タイヤ・道路標示・人工芝など第2の問題側の比重が大きい
・ 代替手法は紙化・バイオマス・生分解性・リユースの4類型。それぞれにメリットと、見過ごされがちな課題がある
・ 紙袋がプラ袋に勝つには複数回利用が前提となるケースが多く、素材だけの置き換えで解決とは限らない
・ LCAは前提条件で結果が逆転することがある。代替素材を選ぶ際は、自社の使い方・廃棄経路・地域条件を明確にした上で評価する必要がある
▶ 続きはこちら:第3回 後編:効果検証と企業の向き合い方 脱プラの効果は本当にあったのか?「脱プラ疲れ」の正体、そして企業がこれからどう向き合うべきかを整理します。 |
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主な参考文献・情報源
■ 日本国内規制・データ
・環境省「プラスチック資源循環法関連」
・環境省 プラ新法 普及啓発ページ
・環境省 令和6年度 海洋プラスチックごみ流出量推計
・国立環境研究所「日本各地におけるタイヤ由来マイクロプラスチックによる汚染状況の解明」(2025年8月)
■ LCA・代替素材関連研究
・プラスチック循環利用協会「2023年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(マテリアルフロー図)」
・Gao A. & Wan Y. (2022) “Life cycle assessment of environmental impact of disposable drinking straws”, Sci Total Environ, 817:153016
■ 関連参照(前編より再掲)
・OECD「Global Plastics Outlook: Policy Scenarios to 2060」(2022)
・Ellen MacArthur Foundation(リユース普及率データ)
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