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【2025年上半期まとめ】海運業界で進む温室効果ガス・大気汚染規制|注目の国際動向5選

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  • 7月25日
  • 読了時間: 9分

更新日:17 時間前

こんにちは。

LCAコンサルタントの小野あかりです!

気づけば2025年も、あっという間に折り返し地点。

今年前半も、国を超え、業界全体で、脱炭素化をめぐる動きがめまぐるしく続いています。


今回は「海運業界の最新トピック」にフォーカスを当てて、

  • この半年間にどんな出来事があったのか?

  • どんな制度やルールが決まったのか?


を、選りすぐりのニュース5本とともに、わかりやすくお届けします!



目次



1.IMO規制の動向(国際枠組み)

1-1.海運の脱炭素へ、IMOが新たな国際ルール案を協議開始

ニュース概要:

2025年4月に開催されたIMOの海洋環境保護委員会(MEPC 83)において、海運業界を今世紀半ばまでにネットゼロ排出へと導くことを目指した「IMOネットゼロ・フレームワーク案」の策定に向けた議論が前進しました。


同案には、船舶の温室効果ガス(GHG)排出強度の削減義務、国際的な排出量価格付け制度(グローバルな排出価格メカニズム)、およびゼロ・ニアゼロ排出燃料の普及を促す「IMOネットゼロ基金」の設立が提案されています。


この基金は、脱炭素技術の導入支援に加え、発展途上国における公正な移行(just and equitable transition)を後押しする資金的支援も含む内容です。


これらの措置は、船舶の大気汚染防止を定めたMARPOL条約附属書VIの改正案に組み込まれ、2025年10月に予定されている臨時会合での採択を目指して、今後各国での正式な手続きに進む見通しです。


LCAコンサルタントとしての視点:

この動きは、燃料のライフサイクル全体(Well-to-Wake)を意識した排出削減策の一環と捉えることもでき、今後の制度設計において、LCAベースの排出原単位が評価対象となる可能性があります。排出原単位の選定やその証明プロセスは、脱炭素燃料の導入戦略において重要な差別化要素となりうるでしょう。




1-2.IMO、北東大西洋を新たな排出規制海域に指定 2027年施行へ

ニュース概要:

2025年4月に開催されたIMOの海洋環境保護委員会(MEPC 83)において、北東大西洋を新たな排出規制海域(Emission Control Area:ECA)とする案が承認されました。本ECAでは、船舶から排出される硫黄酸化物(SOx)および窒素酸化物(NOx)に対し、国際基準よりも厳しい排出制限が導入される予定です。


この措置は2027年の発効を目指しており、対象海域には英国、グリーンランド、フェロー諸島、アイスランド、およびEUの沿岸加盟国(littoral states)が含まれます。

SOxについては、他のECAと同様に燃料中の硫黄含有率を0.1%までに制限する措置が導入されると見込まれ、NOxについても、新造船を中心により厳しい排出基準の適用が想定されています。


本措置は、すでに導入されている北海・バルト海・地中海のECAに続くものであり、欧州全体での船舶排出削減を一層加速させることが期待されます。

航路の見直しや低硫黄燃料・代替燃料の導入といった対応が求められる可能性が高く、船社にとっては運航戦略や燃料選択への影響が避けられない見通しです。


LCAコンサルタントとしての視点:

地域ごとに燃料規制の強化が進む中、同じ船舶であっても運航エリアによって排出強度が大きく異なるケースが生じています。このような状況では、LCAやCFP(カーボンフットプリント)の算定においても、単一の平均値ではなく、航路や地域特性を反映した排出量の細分化・区分管理が重要になる可能性があります。特に、排出量の可視化を通じた顧客への説明責任や、バリューチェーン全体の脱炭素戦略において、より精緻なLCAの活用が求められる場面が増えると考えられます。




1-3.IMO、CII初年度の評価結果を公表 船舶の22%が基準未達

ニュース概要:

国際海事機関(IMO)は2024年、炭素強度指標(CII:Carbon Intensity Indicator)制度に基づく初年度の評価結果を発表しました。これは、総トン数5,000以上の船舶を対象に、輸送効率(gCO₂/トン・海里)をA〜Eの5段階で評価するもので、2023年の運航データに基づいて初の格付けが行われました。


報告対象の24,653隻のうち、78%が基準となる「C」評価以上を取得したものの、1,541隻は最低評価の「E」となり、運航者には是正措置の計画策定が義務づけられる結果となりました。


CII制度は今後、年々2%以上の削減係数が適用されていく予定で、2026年には11%まで厳格化される見通しです。これにより、現在「D」評価にとどまる約4,000隻が「E」に転落するリスクを抱えており、上位評価を維持している船舶であっても安心できない状況です。


IMOは、2026年1月1日までにCII制度の実効性をレビューし、必要に応じた見直しや新たな措置の導入を予定しており、制度設計の動向が今後の船舶運航戦略に大きな影響を与えるとみられています。


LCAコンサルタントとしての視点:

CIIで報告される実航データ(燃料消費量や輸送実績に基づくCO₂排出強度)は、船舶の運航フェーズにおける実排出量を把握する手段として、LCAにおける排出係数の精緻化や実測補正に活用できる可能性があります。


一方で、LCAの視点からCII評価の改善に向けた示唆を得ることもできます。たとえば、燃料のライフサイクル排出量(Well-to-Wake)や運航プロセスにおける排出要因を定量的に比較・分析することで、エネルギー効率の高い運航方法や、燃料転換の優先順位を戦略的に導き出すことができ、CIIスコアの向上に結びつけるための一助となる可能性があります。





2.パナマ・スエズ運河の対応

2-1.パナマ運河、脱炭素船に優先通航枠「NetZeroスロット」を導入へ

ニュース概要:

パナマ運河庁は、2050年の温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)達成に向けた取り組みの一環として、環境負荷の小さい船に対して優先的に通航枠を割り当てる「NetZeroスロット制度」を発表しました。


この制度は2025年10月5日から段階的に始まり、最初は「ネオパナマックス」と呼ばれる大型船を対象に、燃料の製造から使用までの過程で発生する温室効果ガス(GHG)が1メガジュールあたり75g未満の燃料を使用することが条件となります。


対象の船には、1週間の中で通航日を選べることや、24時間以内の通航確約、時間通りの運航を支援するサービスなどのメリットが用意されています。


このような仕組みによって、低炭素な燃料や省エネ技術を採用する船の導入が後押しされ、今後の燃料の選び方や運航の工夫にも影響を与える可能性があります。


LCAコンサルタントとしての視点:

このような制度は、船主や運航者による脱炭素への取り組みを“見える化”し、第三者に証明する手段の一つとなります。特に、燃料選定やエネルギー効率化に関する情報を整備することは、カーボンフットプリント(CFP)の算定において、Scope1(自社排出)やScope3(上流排出)への信頼性ある反映につながると考えられます。




2-2.スエズ運河の通航料割引、脱炭素と安全保障の両立へ

ニュース概要:

紅海情勢によるフーシ派の攻撃や保険料の高騰を受け、多くの大型コンテナ船がアフリカ南端・喜望峰ルートへの迂回を余儀なくされる状況が続いています。


こうした中、エジプトのスエズ運河庁は、総トン数13万トン以上のコンテナ船を対象に、最大15%の通航料割引を実施する方針を発表しました。

割引は2025年5月15日から90日間適用され、満船・空船を問わず対象となります。


この措置は、オマーンの仲介により成立した米国とフーシ派の一時停戦合意を受け、安全性が一定程度回復したスエズ航路への復帰を促す狙いがあります。

とりわけ、紅海経由の航行には高額な保険料が課される状況が続いており、この割引措置は船社の実質的なコスト軽減策としての意味合いも持っています。


また、スエズ運河経由の航路は、喜望峰ルートと比較して約6,000〜8,000kmの距離短縮が可能とされており、航海日数や燃料使用量の削減に直結します。その結果、一部の試算では1隻あたり数千トン規模のCO₂排出削減につながる可能性も指摘されています。

このように、本施策は主として安全保障および経済的インセンティブを目的としたものですが、従来のスエズ航路への回帰を促すことでGHG排出増加を抑えるという「副次的な環境効果」も期待されています。


LCAコンサルタントとしての視点:

紅海情勢による回避航路の選択は、航続距離の増加に伴って、企業のScope3排出量に影響を及ぼす可能性があります。こうした中、スエズ運河を経由することで航路を短縮し、燃料使用量や輸送効率を改善しようとする対応は、LCAの観点から見ても、排出量抑制に寄与する取り組みといえるでしょう。




3.おわりに

2025年前半の海運業界では、IMOによる新たな国際ルールの策定に向けた議論の進展や、排出規制海域の拡大、CII制度の初回評価結果の公表といった、制度面の動きが相次ぎました。さらに、パナマ・スエズ両運河では、安全保障や運航効率の観点に加え、環境負荷の低減を視野に入れた新たな対応が始まっています。


こうした変化は、ただ規制に「対応する」だけでなく、燃料選定や運航ルート、排出量管理といった日々の判断を見直す機会にもなり得ます。特に、Scope1・Scope3を含めた温室効果ガス排出量の算定や報告が求められる中で、航路・燃料・運航の選択が「LCA的に見てどうか」という視点は、今後ますます重要になると考えられます。


制度は“遠くの出来事”に見えるかもしれませんが、気づかないうちにビジネスの足元にも影響が及びはじめています。変化の兆しをいち早く捉え、対応を「コスト」ではなく「強みに」変えていく。その一歩先を見据える視点を、今後も共有していけたらと思います。


私たちのコラム記事では今後も海運業界の規制動向について適宜発信していきますし、他業種の排出規制状況などについても調査・発信していく予定です。

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