アパレル業界のサステナビリティ戦略:再販ビジネスとScope3削減の取り組み
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- 4月11日
- 読了時間: 8分
更新日:4月11日
こんにちは。
LCAコンサルタントの小野あかりです!
新しい年度が始まり、2週間ほどが経とうとしていますが
みなさんいかがお過ごしでしょうか。
サステナビリティ界隈は、日々さまざまなニュースが流れていますね。 特にトランプ大統領の言動は産業界・企業にも多大な影響を与えています。
担当者のあいだでは「今後どうなるのか分からない」「規制の動きが落ち着いたから、うちはもういいかな」といった声も聞かれるようです。
しかし、
“誰かに言われたから”ではなく、“社会に必要だから”、
そして何よりも“企業にとって本質的な価値を生むから”こそ、
サステナビリティは取り組む意味があるのではないかと我々は思います。
たとえばアパレル大手・ワールドが展開するブランド古着店「RAGTAG(ラグタグ)」。
この事業はもともと、サステナビリティを前面に掲げて始まったわけではありません。
しかし結果として、それがリユース市場の拡大とScope3削減、さらには業績の向上にもつながり、同社は過去最高益を達成しました。
このように、“先に正解を知っていたわけではない”。
けれど、社会の変化を読み、柔軟に応じたことが、結果として企業価値につながった——
そんな事例は、実はサステナビリティの世界にはたくさんあります。
今回は、そんな視点も含めて、アパレル業界を中心に
Scope3削減、リユース、素材トレーサビリティといった注目の動きを整理しながら、
「これから企業はどう動いていくべきか」について、私なりの考えをお届けできたらと思います。
目次
6.おわりに
1.再販で最高益。ワールドの好調な決算に見る潮流の変化
2025年4月、アパレル大手のワールドが発表した2025年2月期決算では、最終利益が創業以来の過去最高となる111億500万円に達しました(前年比35%増)。
その原動力の一つとなったのが、ブランド古着の再販事業「RAGTAG(ラグタグ)」を中心としたリユース事業です。
ワールドは都市部を中心に展開するRAGTAG店舗を通じて、デザイナーズブランドの古着の買い取り・販売を行っています。特に訪日客を含めた消費者からの人気も高く、2025年2月期には再販事業の売上が前年比10%増の325億3,600万円と大きく伸びました。RAGTAG単体で見れば、売上の約4割を訪日外国人が占めるという強さも見せています。
2.大量生産・大量廃棄から、“循環型モデル”への転換期へ
ワールドの好調事例は、単なる一企業の成功にとどまりません。アパレル業界全体に広がる「サステナビリティを起点としたビジネスモデル変革」の象徴でもあります。
アパレル業界は2022年時点で既に約8億トンの温室効果ガス(GHG)を排出しており、2030年までに12億トンを超えると推定されています。
日本国内でも、繊維・衣類製品は、Scope3のカテゴリ1(購入した製品・サービス)における排出量の主要項目の一つであり、企業のサステナビリティ戦略における重要課題となっています。
3.Scope3削減、そして「脱アパレル戦略」へと向かう企業たち
こうした背景の中、H&Mやユニクロ、パタゴニアなど世界的ブランドでは再生素材の導入や製造工程の最適化によるScope3削減の取り組みが進んでいます。
一方で、ワールドのように“モノを作らないビジネス”=再販やレンタル、サブスクリプション事業へと軸を移す企業も登場しています。これは、Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用段階)やカテゴリ12(廃棄)での排出回避にもつながる取り組みです。
加えて、「アパレルに頼らない収益モデル」を模索する動きも加速しています。
4.世界では何が起きているのか?次に来る規制の波
欧州では2024年、「持続可能な製品設計規則(ESPR)」が合意され、2030年以降、ファッション業界における
◆ リサイクル可能性
◆ トレーサビリティ
◆ デジタルパスポートの導入
が求められる予定です。
さらに、フランスでは一定以上の衣類の販売企業に対し、「製品ごとの環境影響表示」を義務づける動きも進んでおり、今後はScope3を含む“環境情報の開示”がグローバルスタンダードになっていくと見られています。
5.日本のアパレル企業は、どう備えるべきか?
日本の繊維・アパレル業界には、高い品質と製造技術の伝統があります。しかし、サステナビリティ情報の開示や、サプライチェーン排出の可視化という点では、まだ国際基準への対応に時間を要している状況です。
そのような中で鍵となる取り組みと、準備しておくと良いと思われる事項を簡単にご紹介したいと思います。
Scope3算定体制の早期整備
【準備しておくと良い事項】
Scope3カテゴリの全体像を把握 まずは15カテゴリのうち、自社に関係する項目を洗い出します(多くのアパレル企業ではカテゴリ1, 4, 11, 12が重要)。
社内の誰がどのデータを持っているか“棚卸し”する 調達部門、物流部門、商品企画部門などに協力を仰ぎ、「排出量の元になる数字」がどこにあるのかを把握。
LCAツールまたは原単位データベースでの“試算”を実施 最初は代表的な1商品でのScope3試算から始めましょう。
再販・循環型事業の拡大とデータ開示の強化
【準備しておくと良い事項】
社内にある“再販可能な資源”を洗い出す 売れ残り品・返品・B品など、実は多くの企業が「再販の種」を既に持っています。
再販・回収モデルを持つ事業者と協議を始める 例えば、ブランド古着店(RAGTAGのような)や資源循環事業者とのパートナー連携を検討。
再販事業に関する環境データを試算・開示 再販1着あたりのCO₂削減量や、売上に占める再販比率を“見える化”して社内外へ発信。Scope3のカテゴリ12(廃棄)削減に資する可能性あり。
売れ残りやサンプルを寄付する際も、環境面・社会面両方の影響として報告できます(→ESG開示に使える)。
EU規制を先取りした素材トレーサビリティの確保
【準備しておくと良い事項】
“どこから仕入れているのか”を調査・記録 まずは原材料が「どの国・どの事業者から来ているか」をエクセルや管理システムで整理。ここがトレーサビリティの出発点です。
素材別の環境負荷情報を収集 コットン、ポリエステル、再生繊維など、素材ごとのLCAデータを外部のデータベース(IDEA、ecoinvent等)やサプライヤーから取得。
取引先に“環境情報の提供”を要請 将来のEU規制(例:デジタルプロダクトパスポート)に備えて、「製造過程の情報共有」「リサイクル率の証明」などを取引条件に少しずつ組み込む。
6.おわりに
Scope3算定やLCA導入、素材トレーサビリティの確保といった取り組みは、どれも一朝一夕で進められるものではありません。
どこから着手すべきか迷うというのは、むしろ自然な反応と言えるでしょう。
しかし、前進している企業の多くは、共通して「まずはできる範囲から始めてみる」という姿勢を取っています。
たとえば、代表的な製品の環境負荷を試算してみたり、調達している素材の情報を整理してみたり。
あるいは、再販事業の可能性について社内で対話を始めるといったアクションでも、十分な一歩となります。
今回紹介したワールドの「RAGTAG(ラグタグ)」事業も、当初はサステナビリティを目的としたものではありませんでした。
とはいえ結果的に、それが環境負荷の低減や顧客からの支持、企業の業績改善にもつながっています。
そして、今回鍵として取りあげた3つの取り組み――
◆ Scope3算定体制の整備
◆ 循環型ビジネスの拡大とデータ開示の強化
◆ 素材・原料のトレーサビリティの確保
これらはアパレル業界に限らず、製造業、食品業界、IT、小売業など、さまざまな業種においても共通する課題です。
というのも、それぞれ「自社の外にある環境負荷をいかに見える化し、どう管理・共有していくか」という点で本質的に同じ構造を持っているからです。
だからこそ、サステナビリティへの取り組みを「規制対応」として受け止めるのではなく、
“事業の持続性を高めるための一手”として主体的に捉えることが、企業にとっても重要な視点となっていくはずです。
無理のない範囲で、まずは小さなところから。
その積み重ねが、結果的に事業全体の方向性を支える土台となります。
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